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魔法学園にようこそ!  作者: Aerial
Chapter.Ⅰ魔法下級編
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ep.08 魔術試験!③-Finalizar-

 ディールとリリアの思惑により、3人で練習スペースを共有することになった俺たち。

 今回も頑張って当てようとするんだけど、やっぱり当たらなかった……。

 そんな中、リリアは───、


「やったーー!合格!アタシ合格ーー!!」


 1発でやってのけた。

 その素晴らしく意外な結果に、俺とディールはただ呆然とするしかなかった……。



     ☆     ☆     ☆


 リリアが作った昼食をご馳走になって、少し休憩の時間を過ごす俺たち。

 次は第2部、ディールの部屋だ。ちなみに、リリアの作った料理は、ドイツの代表作らしい『ザワークラウト』という、ソーセージをふんだんに使った美味しそうな料理だった。まぁ、実際に美味しかったけど。

 ……毒薬とか混ざってないか内心ビビッてたのは、俺とディールとの言わないお約束だ。

 一口食べて、俺たちが美味に驚きを露わにしていた時、リリアは嬉しそうに俺たちの様子を見ていた。恥ずかしくて食べづらいったらなかったな。やっぱり、故郷の味を受け入れてくれた喜びは大きいものなのだろうか。


「さて、もういけそうか?」


 そろそろ頃合いかと、俺は2人に聞いてみた。


「おーう」

「ダイジョブだよーっ」


 2人とも手を挙げて示した。俺たちはイスやらベッドの上やらから立ち上がって、部屋を出ることにした。


「そうだ、今回は、自分で課題を決めて取り組まないか?」


 ディールの部屋について、術式が見えた途端に、ディールは名案だとばかりに手を打って提案した。

 課題、か……。多すぎる気がしなくもないが、とりあえず、


「んじゃぁ、確実に的を捕らえる」


 基本からと、俺は無難な目標を立てた。


「ぬ、悠斗が先に言っちまった……。仕方ないな、俺はリリアのあの追加攻撃?みたいのを出来るようにする」

「あ、それ俺も」


 そうそう。それもやりたかったんだ。


「……とりあえず、課題は同じでいいな」

「……あ、ああ」


 ……やはり個人で課題を立てるのは難しかった。結局、そこにたどり着いてしまうからな。


「リリアはどうするんだ?」

「アタシ? んーと、そうねぇ。……男共をビシバシ鍛え上げる!…かな」

「そ、そっかぁ……」


 リリアがコーチか。そうさ、教えてくれるんだから喜ぼう。うん、怖くない、怖くないぞ。

 そして、また術式の前に俺たちは立っているのだが、ディールは一向に前方に行こうとしない。


「どうしたんだ、ディール?」

「……いや。やっぱり、また悠斗に先立って行ってもらおうと思ってな」


 そういって、また俺の頭に手をやって、わしゃわしゃしてきた。


「お、おい、やめろよ!分かったから」


 自分の部屋のやつなのに……。


「あ、なんか面白そう。アタシもー」


 わしゃわしゃ。


「…………」


 複雑だ。凄く。

 俺は反撃をせず、乱暴に右足を術式に当てた。



・・・

・・・



 もう、この光景には慣れたな。さすがに。どの部屋のやつも変わらないんだろうなとは思ってたけど。


「さぁーて、やってやろうじゃねぇか」


 指をポキポキ鳴らせながら前方に歩き出すディール。何気にやる気満々だ。と、急に振り返って、


「悠斗。お前のその全属性オールタイプの名が泣かないように、せいぜい気張れよー」


 とだけ言ってまた歩き出した。


「……む」


 なんだか、ディールの挑発交じりの言葉、久しぶりに聞いたな。───俺も負けてられないよな。


「いい? ディール。追撃はやらなかったに越したことはないの。外れた時、1番距離が近い位置から撃った方が当たる確立が上がるから追撃するの。

 ちなみに、アタシの追撃の場合は、数でゴリ押せばいけそうだなぁって思ったからやっただけよ。アンタは風属性ウインドタイプだから、まず数での攻撃は出来ない。だから、速さと鋭さを重点においてやるといいんじゃないかしら」


 リリアがディールに適切なアドバイスを送っている。作戦ではキレがとてもいいリリアのアドバイスだ、ディールもうんうんと頷いている。

 それぞれの特徴を生かした攻撃の仕方、か。よし、俺も───。


 俺はまたもや光系呪文ルミナスペルを使うつもりだ。素早さで的を射抜く。

 でも、そこからの追撃は? 『レイ』はまさに光速のレーザーだから、はずしたと気づいたときにはもう遥か彼方にある。でもまぁ、帰ってくるのも光速なため、それほど大変ではないけど。


 ……だったら、始めから追撃をする形でやってみたら?


「───お」


 イメージが浮かんだ! そりゃぁもう、某少年探偵くんのように俺の頭の中を電流が駆け抜けたような、音で示すなら『キュピーン!』みたいな感じで。

 なるほどね。うん、やってみるか。


 目の前を過ぎるのは毎度不変の的。スピードにもそろそろ慣れてきたかも。しかーし、今回の俺は一味違うぜ。

 的を見て、どこでアレの動きが直線になるかを調べる。そんでもって、そこをつく。コレが俺の考え出した攻略法だ。


「いくぞ……」


 ───この次だ。思ったが先か、俺は早めに呪文を唱えた。


『───レイ!』


 やはりその光の軌道は、的に接触することにはならなかった。だが、それでいいんだ。すぐさま、的は方向を変え、そこから直進を開始した。


「今だ!!」


 そこで俺はその通り過ぎた光を動かす。的の真後ろへ───。


Refractionまがれ!!』


 俺が叫ぶと、先ほどの光がすぐそこに居たかのように戻ってきた。駆け抜ける閃光は速度の衰えを知らない。直線なら、光速に勝るものなどないのだ。

 1秒もしない間に、的は背中に焼け焦げた跡を作り、宙に舞った。


「あ……」


 一瞬、何が起きたか自分でも分からなかった。……俺、今スゲー集中してて、気がついたら的が吹き飛んでて───。

 成功、したのか?


「やったー! ゆーとー!!」


 すぐそこで見守ってくれてたのか、リリアが駆け寄ってきた。自分のことのように喜んでるな……。まぁ、嬉しいけど。


「やったーー! 俺、成功したーー!! よっしゃあぁぁ!!」

「おめでとー、悠斗!」


 あの時、喜びに耐えられない様子で跳ねてたリリアの気持ちが今、よく分かった。だって、俺は今、メッチャ飛び跳ねているのだから。ついでにリリアもピョンピョン跳ねている。


「おめでたいなぁ、悠斗」


 拍手しながらディールが歩いてやってきた。


「見てたのか、お前も?」

「いや、生憎自分のことで手一杯だったものでさ。お前の勇姿はお目にかかれなかったんだが、まぁ、お前らのそのはしゃぎっぷりを見てれば、察しはつくよな」


 いや、まぁ……、そうだろうな。

 両手を肩まで上げてヤレヤレのポーズのディール。口ではまた皮肉っぽい言葉が混じっているように感じられたが、表情カオは笑ったままだ。本心では祝ってくれているのが分かって嬉しかった。


「お前は、出来たのか?」


 ディールはその言葉を待ってたかのようにフッとキザっぽく微笑み、髪をかき上げ、


「まぁぁな」


 と自信満々に答えた。なんか、ここら辺で大人と子供の差ってものが開いていっているような気がするな……。い、いや、めげるな、俺!


「リリア、お前のアドバイスためになったよ。おかげで1発で決まった」

「え?あ、いいよいいよー。こーゆーの得意だから、また困ったら言って」


 ディールからの率直なお礼に、少し慌てた様子でにリリアは両手を交差させた。褒められるのには慣れていないのか?……このまま褒め倒したら面白いことになりそうだ。

 そう思う俺の視線に気づいたリリアは、何故かハッとして俺から距離をとり、身構えた。


「……リリア、どうした?」

「…悠斗、いま、よくないこと考えてたでしょ」

「か、考えてないぞ」

「……ふ~ん。ほんとに……?」


 じと目で睨んでいるあたり、あからさまに疑っているな、この人。女というものはどうしてここまで鋭いのか。


「と、ところでディール! お前はどうやって的を倒したんだ?」


 リリアの視線が痛いくらいに突き刺さっていたので、逃げるようにディールに聞く。


「ん?あぁ、そうだな───、まぁ、本番までのお楽しみってことで。俺もお前の見てなかったしな」


 日本人の才能とやらを当日、楽しみにしてるさ、とニヤリと笑いながら言って、ディールは遠くで自分でつくった小さな竜巻を眺め始めた。

 そ、そんなぁーー!


「じー」

「うぅ……」


 さっきから俺を視殺しかねない勢いで見続けている。これはある意味脅威だ。

 リリアは一番敵に回したくないタイプであった……。



     *     *



 その後、疑いの視線でズタズタな俺は、リリアにお詫びとして青い炎を見せてその場をおさめた。炎を出してやった途端に表情が一変し、リリアはキラキラと輝く眼差しで炎を観察していた。……結局、その後もずっと炎を出し続けたので、眩暈がするほど魔力を絞られたのだけど。

 おかげでもうクタクタだ。寝たい、今すぐに。


「しっかし、あんたたちホント成長早いわねー」


 練習スペースから戻った俺たちは、ディールの部屋で休憩中だ。今回は俺だけ息を切らせて帰る結果となったのだけど。

 そんな中、リリアが感嘆の声を漏らした。


「このままじゃ、いつか追い越されちゃう……。負けてらんないわね」


 今日のリリアはいつもよりテンションがお高い様子。いつもだって普通に高いのに、今日に限っては2割り増しといったところか。ま、俺自身も楽しかったと思ってるし。

 1日に2回も練習スペースに行けたおかげで、感覚はすっかり身についていた。最後は個人の調整程度で十分だろう。


「今日1日、とてもためになったよ。ありがとな」


 まだ早いかもしれないけど、俺は2人にお礼を言った。2人は一瞬、キョトンとした顔でこっちを見ていたが、


「俺も。今日だけで、すっげぇ成長した気がする。こっちこそ、ありがとうな」

「アタシも。いい成果を出せたし、これで本番はバッチシだね!」


 お礼をしながら、みんなで笑いあった。

 みんなの合格を祈りながら───。



     *     *



 そうして、練習はお開きとなった。残りの時間は自分たちのために使うということになった。

 そこで、リリアの部屋の練習スペースがまだ残ってることをディールが指摘したところ、


『あらやだ、ディールくんはぁ、そんなにアタシの部屋に上がりたいの? フフ、物好きさんねぇ♪』


 なんて艶っぽくディールをからかったため、顔を真っ赤にしたディールは怒ったのか自分の部屋に篭ってしまった。なんというか……、俺もああやって言われたら困ってたかもしれない。


 そんなわけで俺は自分の部屋に戻って、ベッドの上に座っている。

 時間帯はまだ昼ごろだ。少し、時間感覚がおかしくなったかと思った。もしかしたら、そういうのを考慮したうえでの30分のかもしれないな。……そう思ったら、学園側になんだか申し訳なくなってきた。


「───ふぅ」


 ほんと、内容の濃い半日だった。この短時間で、思いっきりしごかれた気がするが、案外そうでもなかったり。人のやってるところを見るのも、参考になるしな。これで試験もなんとかなりそうだ。でも、だからといって練習は怠らないようにするけど。


「…………」


 でも、今はそれよりも思うところがあった。


 ───ポンッ


 俺は人差し指に青い炎を乗せる。

 そう、コイツのことだ。


 今回、リリアにお詫びとして見せた時、真剣にコレを観察していたので、どうなっているのか聞いてみた。するとリリアは、困ったように眉根を寄せて、



『…炎って、供給されてる酸素の量でいろいろ変わってくるものなのよ。で、悠斗のコレは、その酸素が十分に供給されている状態のことを指すわ。

 この状態の炎ってのは、他の橙色の炎より安定していて、温度も高いの。つまり、悠斗の炎は中では最も優秀な炎といえるわね。……別に、他の火属性フレアタイプのコたちをバカにしてるわけじゃないけど。ほら、アリスも赤かったでしょ?

 でも、そのアリスをも凌駕するほど出来のいい炎だとすると、悠斗は火系呪文フレアスペルとの相性は抜群となるわね。それとも何か、特別な何かが───。……ねぇ、今度、その炎で練習してみてくれる?その時は、アタシも一緒に行くから』



 と言っていた。実際、俺のこの炎になにがあるのか、俺自身分かっちゃいない。なにかあるのは確実なのにな。この謎は、そう簡単に分かりそうにないな。


 そういえば、こうやって毎日コイツを出して眺めているので慣れたのか、5分ほど継続して炎を出せるようになったのも事実。……リリアには、それよりも長い時間継続させられたんだけど。それともリリアの言うとおり、俺は火系呪文フレアスペルと相性がいいのだろうか。まだ分からないけど。

 俺も少し、調べる必要があるかもな。考えが纏まったところで、手をグーにして炎を消す。


 日差しはまだ高いところから照りつけている、というか、この太陽も魔法なのだろうか……。ふと、そんなことを思った。


「ふぁあ~~、……あふ」


 大きな欠伸を一つ。……確かに眠たいな。


「あ、そういえば、あいつらに叩き起こされて、今日という日を奪われかけたんだった!」


 そう思うと、余計にベッドに潜りたくなる。……今日くらいは、いいよな?


 結局、俺はそのまま昼寝を決行することにした。

 明後日は遂に実践テスト。気合入れて、頑張ろう……。



 おやす……ぐ~~。

タイトルのFinalizarは、『仕上げ』という意味のスペイン語です。

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