ep.06 魔術試験!①-Προώθηση-
俺とディール、リリアの3人で昼食から帰って来たとき、教室に入る前に1人の女生徒が俺に話しかけてきた。
名前は『アリス』という。彼女は俺のことが気に入らないらしく、俺にめがけて火系呪文をバンバン撃ってきた(ちなみにディールはとばっちりを受けた)。
ディールから話を聞いたところ、お嬢様で炎の使い手だとか。
さっそく、目をつけられたな……。
トホホと思いつつも、いつも通りの学園生活を過ごすのだった。
☆ ☆ ☆
あのお嬢様との騒動のあと、俺とアリスは先生に説教を受けた。明らかに先にやってきたのは向こうだってのに、俺ばっかり叱られているのは理不尽なものだ。ときどき目が合うと、決まって「ふんっ」とか言ってそっぽを向かれる。……そこまで嫌われるようなことは俺はしてないぞ。───少なくとも、俺は。
職員室を出て、ディールたちと合流する。
「しかしまぁ、お前も災難だったな」
「うるさい」
慈悲の心を宿していない口調で俺は慰めを受けた。俺は軽く沈みながら教室に入ると、クラスメイトの話している内容の中から、こんな声が聞こえた。
「来週の頭に、実践テストがあるらしいよ」
「あ、もうそんな時期なんだ~。やだなー、テスト」
「ま、そんなこと言ってても始まらないんだし、頑張ってこーよ」
「うぅ~、気乗りしないな~」
実践テスト───?
俺がポカーンとしているのを見て、ディールが
「そっか、お前知らなかったっけな。来週の頭には、魔法の実践テストが控えてるんだ」
毎度のように説明を始めた。
「実践、って……?」
「モチロン、魔法のだよ。ターゲットに魔法をぶち込んで、見事倒したら合格。それが終わると、今習ってる低ランクの魔法だけじゃなくて、中級クラスの魔法を使う権利が与えられるんだ」
つまり、その試験で失敗したら、次の機会までは低ランクのままってことか。それは持ち上げられた全属性のプライドが許さないってものだ。
「結構過酷なモンだな、それ」
「そうだな。だから、それに合格するために───」
「自分たちの部屋に、練習スペースが設けられるのですーー!」
ディールの説明中に、リリアがここぞと割り込んできた。
「……リリア。俺が説明してんのに、なんで言う」
ディールは頬をピクピクさせている。これで何度目だっけ……。まあいいや。
「回りくどいから言ってやったんだよー」
「ぬぅ……」
にしし、としてやったり顔のリリアを見て、ディールは拳を震えさせた。
俺は続けて質問をする。
「練習スペースって?」
「自分の部屋に、先生が作ってくれるんだ。でも、時間制限があるから、いつまでもそこには居られないけどね」
詳しくは今日、先生が教えてくれるよ、と言って、リリアは自分の席に着いた。
「まったく、アイツは俺に何がしたいんだ?」
「……さあ」
* *
リリアの言うとおり、本当に先生が部屋に練習スペースを作ってくれたみたいだ。部屋の隅っこの床に術式が刻まれている。円状のゲームでもよく見る形の術式に、俺はわくわくした。
「どんなとこなんだろうな……」
時間は1日30分。ホント、ゲーム感覚だ。そのなかで、どれだけ己を鍛えることができるか。所謂、集中力が大事な世界。
さっそく、俺は練習スペースへ行くことに。
術式の上に乗れば移動する転移術式なので、足を置けばいいらしい。
……また光に包まれたりするのかな。そう思って、俺は恐る恐る右足を置いた。
・・・
・・・
「───お?」
気がついたら、そこは真っ白な空間だった。光に包まれることなく、まばたきをしている間についたようだ。……それにしても、なにもない空間であることに、俺はビックリした。
「なんだろうな、ここは」
まぁ、練習スペースというくらいだから、練習する場なのだろうけど。さすがに何もないとは思わなかった。もっとこう、的とか、あってもいいと思うのだけど。
───と思った瞬間。
「っ!?なんだ───」
ササッとなにか動いた気がした。それも速い。なんだ、と思って警戒してその動く影を目で追う。
それは───、
「───って、的!?」
素早く移動するその物体は、人型をしていた。そしてその頭部分には、まさしく的というべきの、円が幾重にも重なっていたのだ。その的は、普段車が移動しているくらいの速さで周囲をぐるぐる移動している。
これに魔法を当てるのか───。
「なるほどな。こりゃぁ、難しいや」
初めてで、且当てるというハードさに、今までのふわふわした思考が研ぎ澄まされる。
求められるのは、命中力、速さ、威力、そして集中力。俺は深呼吸して、的を見据える。
「それじゃ、いきますか!」
時間の感覚は既にない。おそらく、そういう構造になっているのだろう。あの駅みたいな空間と同じ感じだ。
使う魔法は5回まで。俺が今から使うのは光系呪文。魔法の中では一番早い術種だ。その分、威力は他のには大きく劣る。俺はまずは当てることに重点を置いて実践することにした。
……イメージする。理想の魔法像を。俺はそこまで大層なイメージをせず、至ってシンプルに術式を構成する。
止まることのないその的を見据え、その先を予測する───。
『───レイ!』
手のひらから発せられた閃光は、一直線に駆け抜ける。その速さは、音速など軽く上回る。まさに光速だった。その光は、軌道を変えることなく、的を目指す。
……だが。
「……あらま」
かすっただけだった。惜しい。的は、その左端に焦げた後を作っただけだった。今も依然として素早くこの空間を駆け巡っている。
う~ん。このままだとやばいぞ……。
俺は内心焦った。これでは合格には至らない。もっと魔法に慣れていかないと。そう思って、俺は俺が持ち得る属性の魔法を一通り試すことにした。
火系呪文は、速度は速くもなく、遅くもない。俺が使えるのはお馴染み『ファイアボール』。あのお嬢様が使ってたやつだ。コイツは残念ながら的にヒットすることはなかった。
次に水系呪文。火よりは速く、扱いやすい術種だ。威力もそこそこある。水圧は侮れないしな。俺が使えるのは『アシッドショット』という、酸性度の高い液体を飛ばす技なのだが、名前のとおり、触れてもそれを溶かすだけだ。───溶かして的をなくすのって、アリ?
風系呪文は、速さは術によってまちまち。実際の威力は望めないな。……当たってもそよそよとなびく的を見ると、和んでしまったのはここだけの話だ。
───と、色々やっているうちに、俺のほうが限界がきてしまった。魔力は有限である。自分の体力を魔力に変換して、それを放つという仕組みなので、撃っていれば当然疲れてくる。疲れれば魔力の精度も落ちる。大事なのは魔法だけではないのだ。
「はぁ、はぁ………」
床とも分からないところにへたり込んでぐるぐる動く的を眺める。
「結局、うまくいかなかったな……」
呼吸を整えながら反省をする。まぁ、始めはそんなモンだろ。
でも、色々課題は見えてきた。
「よし、頑張ろう」
・・・
・・・
───と思ったのも束の間。気づいたら俺は自分の部屋の床に座り込んでいた。術式は消えてる。また次回、ってことかな。
「魔法を使いまくったから、疲れたな……」
落ち着いたら、どっと疲労感がこみ上げてきた。目蓋が重い……。 とはいえ、このまま寝たら風邪を引くこと必至なので、シャワーを浴びることにする。
来週は、試験だ。それに備えて、今から準備しておこう。
俺はよし、と意気込んだ。
そのおかげで、今日は興奮して目が冴えて眠れなかったのでした……。
タイトルのΠροώθησηは、『昇格』という意味のギリシャ語です。