ep.04 レッツ・マジック!-Eccezioni-
無事(?)魔学の授業を終え、隣の席のディールと仲良くなった俺は、午後の身体測定に備えた。
そこでは俺の属性と武器が分かるみたいだが───。
え? 全属性? ───何かの間違いだろ…。
☆ ☆ ☆
さて、2日目の午前授業は無事終了した。これから昼食を摂るために食堂に向かう。俺が席を立つと、
「悠斗、メシ行こうぜ」
待っていたかのようにディールが俺に声を掛けてきた。特に拒む理由もないので、俺は頷いて教室を出た。
「しかし、日本人のお前が全属性だなんてな。ホントびっくりしたぜ」
「……一番驚いてるのは俺のほうだよ」
朝にコイツが叫んだおかげで、全クラスに俺のことが知れ渡ってしまった。皆からは一躍有名人扱いだが、そういうのは逆にプレッシャーがかかって困る。
「でもまあ、それだけお前には魔法の素質があるってことじゃないのか?」
ディールは両手を頭の後ろで組んで、今朝のこともなかったことかのようにのうのうと話す。意外とサバサバしたやつだ。
「どうかなぁ……。第一、俺は魔法なんて全然知らないんだし、まだ出したことさえないんだしな」
「その分練習すればいくらでもできるってことだろ。羨ましいなーホント」
……こうやって、俺のことを凄いヤツとして認識されてしまわれるのが怖いんだよ。もし失敗したら俺、どんな目で見られるか分かったもんじゃない。
「……お前らの期待に添えられるかはわかんねぇけどな」
俺は肩をすくめた。
───無論、指パッチンなんて出来やしなかった。
* *
午後の授業。
「はーい。それでは、早いですけど、皆さんに魔法の実践をしてもらおうと思いまーす」
ということで、実際に魔法を使う授業がついにやってきた。先生が古くなった紙を前の席に配り始める。順番に回されて俺のところにも届いた。
「……ん? なんだ、これ」
俺はその紙を見て首を捻った。紙には、よく分からない模様が書かれていた。
「これも分かんないのか、お前? これ、術式だぜ」
ディールはさも当然であるかのように教えてくれた。
これが、術式か……。
「はーい。その術式になにかもう1つ、術式を書き込むことで、魔法が発現するようになっています。皆さんの得意な属性の術式をそれの真ん中に書き込んでみてくださーい」
───俺の、術式? あの、炎とか、水とか? ええっと、たくさんあるんですけど……。
俺がうんうんと困っている間にも、他のみんなはそれぞれ自分のの術式を書き込み、魔法を発動させている。あたりでは歓声も聞こえる。
「───ぅしっ、できた!」
ディールのほうを見ると、その紙から小さな竜巻が出ている。
「あれ?悠斗はやらないのか?」
「それが、術式のこと、分からなくて」
本来こういうのって、始めにそういうことを教えた上でやるんじゃないのか?百聞は一見にしかず……というか、一度も聞いてないし。そのままやるなんて無茶に決まってる。
「術式っていっても、自国の言葉をそのまま書けばいいんだぜ?」
そう言ってディールは指で文字を描く。『Tornado』と。ちなみにディールはイタリア人だ。
「へぇ。そんだけなのか」
感心して、俺も書く……。かく……、か───。
「俺は、何を書けばいいんだろう」
何の術式を書けばいいのか分からず、俺はまた戸惑った。周りからすれば羨ましいかもしれない悩みではあるが、これはこれで本当に困る。
レストランで例えるなら、みんなはカレーとか、スパゲティしか頼んじゃいけない状況、俺は普通にメニューを渡された、って感じだ。
「しょうがねぇな。んじゃ、俺がリクエストしてやるよ。そのままじゃ埒があかないしな」
「頼む」
「それじゃ、適当に火系呪文でよろしく」
火か……。普通に『火』って書けばいいのかな。なんか普通すぎて魔法って気がしないな。そもそも、『火』なんて書くだけで、本当に発動するのだろうか?
そうして俺は術式の上に『火』と指で描く。すると───。
───ポンッ
「うわっ!?」
紙の上に小さな火の玉が出現した。でも、俺が出した炎は、なぜか青かった。西洋では青いのが普通なのかな? そう思ってクラスのみんなを見てみるけど、
「あれ? 俺のだけ青いじゃないか」
他の生徒が唱えた火系呪文で出現した火の玉は、ちゃんと赤い。
「おかしいな。悠斗、ちゃんと書いたんだろ?」
「ああ。そうだけど」
あんな簡単なもの、誰も間違わないって。
───なんでだろうな。
* *
結局、俺の青い火の玉の謎は分からないまま、今日の授業は終了した。俺は足早に自分の部屋に入って、ベッドに飛び込んで一息つく。
「ホント、なんなんだろうな……」
青いなんて、普通じゃないよな。俺だけ例外。これは、おれの全属性と何か関係があるのかな……?
俺は右の人差し指で文字を描く。
───ポンッ
すると俺の指先に小さな青い炎が乗った。
先生が言うには、術式なんてものはただの自己暗示に過ぎないのだそうだ。魔法を発動させるぞって思えば誰だってできるらしい。要するに、あの訳分からない術式は飾りのようなもので、ホントに大事なのは俺たちが描く術式。あとはイメージが大事なのだそうだ。だからこのように部屋でも魔法は簡単に発生する。
……どっからどう見ても青いよな、コイツ。
不思議だなあ……。
このままじゃ、俺の全部の魔法は他のと違ったりするのか?赤い水とか、黒い雷、白い…悪魔?
「そ、それは御免被りたいな……」
なんだか釈然としない面持ちのまま、俺は眠りについた。
───明日には、俺の炎が赤くなってますように……。
そう、淡い期待を抱きながら。
タイトルのEccezioniは『例外』というイタリア語です。