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魔法学園にようこそ!  作者: Aerial
Chapter.Ⅰ魔法下級編
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ep.03 慌しい日々-Specific cases-

 半ば強引にレクスティア学園に入学した俺だったが、そんな初めての授業の内容はまったくもってチンプンカンプンだった。

 魔学? なんだそれ?

 学園に来る前にルーシーさんにいろいろ聞いておけばよかった……。

 とはいえ、早く元の世界に帰る方法を探さないと。授業が終わったら、学園長のところに行こう。


 そんな俺のもう1つの学園生活は、幕を開けたのだった。



     ☆     ☆     ☆



 そんなこんなで、魔学の授業は無事終了した。内容は魔法の歴史についてのものだった。今まで培ってきた魔法についての印象がなかなか離れず困ったという感想しかない。俺は授業前のクラスメイトの雰囲気から、実際に魔法を使うのかと思ってたのだけどまったくそんなことはなく、板書した文字をノートに書き写して終了となった。ちなみに、俺のノートは支給された。


「……ふう、やっと終わった」


 椅子に深くよさり掛かって、大きく息を吐き、天井を仰ぐと、今まで気づかなかったのが不思議に思うくらいの高さにびっくりした。

 しかし、魔法って思ったより奥が深いんだな。なんだか頭が一気に重くなったぞ。


「どうだ、悠斗? 初めての魔法についての勉強は」


 すると、左隣の席からやけにフランクな声がしたので首だけ向けると、そこには金色のやわらかそうな髪を上に持ち上げた、翡翠に近い緑色の目をした男子生徒───ディールがこっちを向いて話しかけてきていた。

 俺は彼に向かって、諸手を広げて降参のポーズをして見せた。


「さっぱりだよ。俺には無縁の世界だった」

「そりゃそうだな。日本人は魔法なんて分からないよな」


 ディールはくぐもった含み笑いをしながら言った。……少し癇に障る言い方ので、何か言い返してやろうと思ったが、当の彼はなんの嫌味もない無邪気な笑顔のままだったので言うにいえなかった。


「実際に魔法の歴史を学ぶことになるなんてな。日本人の俺が」


 俺は両手を頭の後ろで組んで、もう一度ため息を一つ。だっていきなり魔学とか、ねえ?


「でも、お前って、どうやってここに来たんだ? ……ああっと、その前に。お前来るならどうして一昨日から来なかったんだよ? 日にち間違えたとか?」


 ディールは一気に俺に向かっていくつかの質問を投げつける。それを順番に整理して、俺は冷静な対処を試みる。


「ああっと……まず、俺は今日初めてこの場所を知った。そして一昨日にここに来る予定もなかったし、そもそも一昨日に何があったのかも知らない」

「は? それじゃ、悠斗は何しにここに来たんだ?」

「それはこっちが聞きたいくらいだ。……まったく、コイツのおかげでこっちは迷惑してんだっての」


 そう毒づいた後、俺は椅子の下においてあった例の分厚いハードカバーを取り出す。


「……………」


 急に黙ったと思ってディールを見ると、俺が持ち上げた本にまさに釘付けと言った様子で、瞬きもしないでずっと見ていた。


「ど、どうした?」

「お前、それ……」


 ───それ、特待生の証だぞ。


 彼は確かに、そう言った。

 …………。

 へ? 特待生? え…ちょ、ちょっと待て。な、なんで俺がこんなもんを持ってるんだ!? それに俺、魔法になんかついさっき知ったばかりなんですけど! そんな俺が特待生とかどういうことだ!?

 俺はこの本が机の裏側に落ちていたことを伝えた。すると、ディールはそれを疑うことなく頷いて聞いてくれた。


「そっかぁ。珍しいこともあるもんだなあ。大方、お前の親父が置いてったんじゃないのか?」

「はは……そうかもな」


 冗談のつもりで言ったのだろうが、それが俺には家の関係上簡単には流せない。

 俺の親父は放浪癖があり、ことあるごとに家を空けては、何日も帰らない日が続いている。ちなみに今もその真っ最中だ。だから普段は家には顔を見せないし、俺が最後に見たのは中学に上がった頃だったから、よく覚えていない。


「ちなみに、一昨日って一体何があったんだ?」

「ん、ああ、ここの入学式だよ。お前みたいなヤツが来るって分かってれば、初日から楽しかったろうに。とにかく、これからよろしくな」

「あ、ああ……よろしく」


 俺たちは互いに握手を交わした。

 特待生……俺がそうなんてこと、絶対にありえないのに、何故かそうなってしまっている。変に目立つことは避けたいんだけどなあ……。

 とにかく、今の段階では騒がれなくてよかった。



     *     *



 午前の授業が終わり、昼食を食べに食堂へディールと移動する。すると、俺は食堂というものについて、深く問い詰めたい気分になった。

 西洋風の全景にロイヤルな感じの白い丸テーブル、そこに4人分の椅子が備えられている。豪華だ。この上なく豪華。これはきっと俺が人生で1度味わえるかどうかというほどのものであった。例えるならフランス料理店みたいだ。実際には行ったこと無いけど。俺はディールとそこのテーブルに座り、それぞれ注文をとる。

 ここはなんと、メニューが無いらしく、リクエストになんでも答えるといった形をとっているらしい。俺にとってはメニューがあったほうが有難かったんだけど、さすがは豪華なだけあるってか。俺はディールに任せると、テーブルにはイタリア料理のフルコースが並べられた。今までにない味で新鮮だった。

 ちなみに、オーダーをとる時はベルではなく指パッチンをするのだそうだ。俺はできなかったから、ディールに代わりにやってもらった。……今度練習しておこう。



     *     *



 昼食を済ませ、お次は午後の授業。午後はなにやら身体測定……のようなことをするらしい。話によると、始めに身体測定を行い、次に何か精密な術式…? で体を検査して、自分に適した属性タイプを判明させるようだ。


 属性には火、水、風、地、光、闇の6種類ある。場合によっては、この中の属性を組み合わせて、新しい属性を生み出すことが可能のようだ。だから、厳密にはこの6つになる。それと、自分に合った戦闘方法も分かるため、そのまま魔道具の選択に移る、という流れらしい。なんか、ゲームみたいだ。

 てか武器なんて、危険じゃないかっ! 実際に切れたりしたらどうするつもりだ!?

 そんな俺の心の叫びもむなしく、どんどん他の人の属性や魔道具は決まっていく。俺は一体どんなのだろうか───。

 そして遂に俺の番となる。


「お願いします!」


 挨拶をして測定開始。身体測定を済ませ、肝心の属性検査。俺はその機械に足を乗せ、気をつけの姿勢で待つ。

 ピピピピピ───と、不思議な機械音が続いる。なんか他の人よりも長い気がするが気のせいだろうか。


 ───ピーーーー。


 ……ん、終わったのか?


「なん……だと?」


 ん? なんか聞き覚えのある台詞が聞こえたと思ったら、その次に機械音声が聞こえる。

 その俺の生活を狂わす絶対的な理由に他ならなかった……。



『診断結果、あなたは全ての属性に適しています。』



 ……え? 全て? オールOK?

 え、ちょっとわけが分からない。きっと、何かの間違いじゃないのか?


「お、おかしい……も、もう1回、計らせてもらえるかね!?」


 測定する先生は戸惑いながらそう言って、俺はカクカクと首を縦に振る。そうして、3回ほど再検査がなされた。

 ───結局、結果は変わらなかった。



     *     *



 今日の学園はとりあえず終了だ。下校時刻となる。ここの生徒は、基本寮制なので、俺の部屋もしっかり用意されてあるようだ。しかも1人部屋。尤も、空き部屋だったらしいけど。

 自分の部屋の前まで案内してもらい、俺は早速部屋の中に入る。暖色系の壁に包まれたホテルのような造りをしていて、俺の部屋の2倍は軽く超えているほどの広さだ。2人は余裕で入りそうなほど大きなベッドに、机や鏡など、あらゆるものが常備されていた。なんというか、快適すぎるだろ、ここ。

 俺はベッドに吸い込まれるようにしてふらふらとベッドに近づき、ダイブした。バフッとそれはやわらかく俺を包んでくれた。


「ぶは~~」


 ……すっっっっごく疲れた。初日からこんなんだと、先が思いやられるぞ。これからどうなることやら。

 俺は仰向けに身体を直して、天井を見つめながら今日起こったことを振り返ってみることにした。

 まずは勉強面。魔学なる異質な科目以外は、正直な話なんとかなるな。やっぱり俺の中の考えを見つめなおさないことには魔学でいい評価は望めないのかもしれない……しっかり頑張ろう。

 そう、「魔学」は頑張ればいい。でも……。


「なんだよ、全部使えるって……」


 「魔法」については知ることはおろか、自分が体験することさえ夢にも見なかった出来事だ。正直、まったく分からない。

 先の一件の一部始終を見ていた奴らからは、全ての属性が使えることから全属性オールタイプと称された。おかげでそれからというもの、クラスでの俺へ向けられる視線の数々が初めて教室に来たときとまったく違う色を帯びたものに変わってしまった。くそう、これじゃあ早くも変人扱いじゃないか!  ああ、神よっ! あなたは何故このような試練を私に課すというのですか! こうなった原因は俺が日本人だからか? というか国籍で変わったりしないよな。……ともかく、なんだかもの凄い意外な結果が出てしまったな。さらに荷が重くなった。


「はぁ……」


 それと、俺の魔道具───いわゆる武器だが、複数あって向こうでは即刻決めるのは難しいらしく、カタログのような本を借りた。俺の場合、杖、弓、斧以外なら何でもいいのだそうだ。そんな、曖昧すぎて全然決められないじゃないか。

 ということなので、残ったのは剣、槍、鎌、銃、のどれかとなった。俺としては、一番使いやすいのといえば、やっぱ剣だと思うんだけど。だって槍とかに比べて手軽だし。ゲームでも王道だし。


「うん、そうするか」


 単純な考えだが、俺は剣を使うことにした。ベッドから降りて、カバンの中からその重々しいカタログの本を取り出した。

 カタログだが、武器のジャンル別に分けられていて、その武器の説明がずらずらと書き連ねただけのつまらない代物だった。もっといろんな武器の画像とか、そういったものがたくさん載っていると思っていたのにな。

 俺は小声でぶつぶつ呟きながら、剣の頁を開く。


「んで、ここに指を置けばいいのか?」


 剣のサンプルの画像の下に指を置くマークがある。『指をおいてください』って書かれてあるのですぐ分かった。俺は適当に中指を置いて、その反応を待った。

 すると、その反応は瞬きするほどの間しかなかった。


 ───ピカッ!


「うおっ! また……なんなんだ!?」


 眩しい光が本から発せられ、今度は俺の手全体を包み込んだ。俺の手の形がまったく見えない。

 ……10秒くらいずっと光っていたが、やがて光がおさまった。見ると俺の手には、1本の剣が握られていた。


「な、なんだこれ……?」


 半身ほどの高さの黄金の刃、白銀の鍔と柄。刃の裏側は赤黒い漆のような色で染められている。なんとも立派な剣だこと。色々対照的な部分があるが、どちらにせよ俺には勿体ないくらいの存在感を持った剣で、そこら辺の博物館とかで展示されてるものとは比べ物にならないくらいすごいってことはよく分かる。

 すっと、剣の前に説明が表示される。……どうやらこの剣は『ティリオス』というものらしい。しかし不思議なことに、その剣についての詳細が一切不明で、名前の下に『Unknown』としか表示されなかった。


「なんだよそれ。説明文不要ってか? めちゃ必要だっての!」


 こんなのゲームでも見たことないぞ。というか、こういうのって人によってそれぞれ違うのかな。……まあいいや。

 俺が剣を床に置こうとすると、再び剣が光を発した。


「今度はなんだよ……」


 すると急に俺の右手首にグルグルと巻きついて、光がおさまる頃には剣はブレスレッドになっていた。中心にはルビーのような宝石が埋め込まれている。……うん、ワケが分からない。


「……へぇ~、こりゃ便利だ」


 正直、こんなものどうやって学園に持っていくんだと思っていたので、このシステムは嬉しかった。

 さて、今日はもう寝よう。本気で疲れてきた。俺は目覚ましアウェイク・ツールを手動でセットして、心地いい羽毛布団の中に入り込んだ。布団の中は、思いのほか柔らかく、ふわふわと俺を包み込んだ。



 ……あ。学園長のところ行くの、忘れた。



今回のタイトル、Specific casesは、『特異例』という意味の英語です。

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