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魔法学園にようこそ!  作者: Aerial
Chapter.Ⅲ魔法中級・タッグマッチ編
19/29

ep.18 タッグバトル!?-Zwei Paar-

 無事ミルト遺跡からかえって来た俺たち。もうくたくただ……。

 それでも次の日は普通に授業があるってものだからキツイの何のって。

 その日の放課後、ふと廊下を見ると、アリスの帰宅風景。

 気になってついていったら、そこは親父とアリスの思い出の場所だった。

 そこで俺はアリスからなんだか誤解じみた言葉を聞いた。

 本心なのかどうか……まあいいか。…いいのか?


 そうして、また月日は巡る───。



     ☆     ☆     ☆



 遺跡から帰ってきて2ヶ月ほど経った。現界のほうなら既に6月。初夏とでもいうのだろうか。

 それでも、こっちでは雨なんて降る日は1日もなかった。

 それはこの学園を覆う魔法壁バリアーのおかげなのか、学園内では降った形跡は全くない。

 台風とかないから、楽といえば楽なんだけどなぁ。最近は雨ともご無沙汰だからって、別に寂しい気分になっているわけじゃないし、俺はそれほど雨は好きでもないけど。

 それと、遺跡調査での俺の全身打撲なるものは、2ヶ月たった今、既に完治していた。それまでは体育とか結構大変だったけど、今となれば以前に元通りだ。


「……おい、なーにぼーっとしてんだ?」


 放課後、机に肘を突いて考えにふけっている俺を不思議に感じたのか、ディールは隣の席から話しかけてきた。

 ……目の前で手を振るな。ちゃんと見えてるから。


「どうしたんだ?」

「どうしたんだ、じゃないだろ。俺ら、今から学園長室だろ? 早く行かねーと」


 俺がいかにも気だるそうに返事をすると、呆れたような声が返ってきた。

 そうだった。今日はなんだか中級者ミドルクラスの連中で話があるとかないとか。

 放課後に、学園長室に行かなければいけないのである。

 周囲を見回してみると、リリアの姿は既にない。


「アイツ、もう行ったぜ」

「そうか。んじゃ、俺たちも行くとしますか」


 あまりみんなを待たせるのもよくないよな。

 俺は荷物を机の上に置き、ディールと学園長室へ向かった。



     *     *



 学園長室の扉をあけると、そこにはもう大半のやつらがいた。というか、俺たち以外は全員集結済みだった。

 その中には、勿論アリスとリリアの姿もあった。

 リリアは俺に気づくと、小さく微笑み、肘を曲げてひかえめに手を振った。

 俺とディールはその横に並び、全員集まったことを確認したダン学園長は話を始めた。


「……さて、集まったようだね。それじゃ、話をしようか」


 相変わらずの声と顔のギャップには、さすがにまだ慣れない。

 だからだろうか、周囲のやつらからも微妙にぴりぴりした感じが漂っている。ま、いい具合に緊張するのは悪いことじゃないんだけどな。


「今回、キミたちにはレクリエーションを兼ね、そして各々の実力の確認をするため、模擬戦をおこなってもらうことにした」

「…………」


 模擬戦? いきなり、なんで?

 俺は思わずポカーン口を空けてしまっていた。いやだって、急に集まって模擬戦やるぞとか、唐突過ぎて着いていけないんだけど……。

 横では、ディールがヒュ~♪と口笛を吹いた。リリアは黙りこくって緊張に溢れた顔で唾を飲み込み、アリスはハイエナのような顔つきになるかというくらいに不敵に口元を歪めた。……怖い。

 その他のところからは、やはり俺と同じく耳を疑っている状態って感じだな。そりゃそうさ。こんなの、ある学校の帰りに家の前に着いた瞬間、玄関から出てきた親父に「解散っ!」と一声あげてチャリに跨ってどっか行ってしまわれるくらいポカーンとするに違いない。


「ちなみに、これはタッグマッチで行う」

『…………』


 学園長が付け足した瞬間、周囲のポカーン度が上昇した。……今の俺の心境は、そのままにしていた我が家の前に突然「KEEP OUT」と書かれた黄色いテープがドアの前にこれでもかというくらいにはりめぐらされているのを見たような感じである。

 しかし、学園長が仰ったことだ。そう簡単に覆ることはない。こういうのは静かに聞いていた方が楽というものだ。

 俺は諦めて、話を聞くことにする。


「試合は今から1週間後にある。早いと思うかもしれないが、焦ることはないよ。各部屋には既に術式の構築はしてあるから、2人組みを作った子達から練習を始めるといい」


 術式、というのは、例の練習スペースのことか。なかなか準備がいい。ま、そういう計画なんだから準備がいいのは当たり前か。

 しかし、タッグ……2人1組か。


「ルールは、魔法で相手を撃破すれば勝ち。安全を考慮して、試合前には私が防護壁プロテクトを張る。それにダメージがある程度まで蓄積され、どちらかのバリアーが破られた時点で勝ちとなる」


 ダメージ、という言葉を聞いたら、自然と俺の頭では顔面火傷を追った時のディールの吹っ飛び具合を思い出していた。

 考えただけで身震いがする。いや、これは単なる武者震いだけどな。

 しかしまあ、それなら安心だな。一時はどうなるかと思った。

 俺が胸をなでおろしている時に、少し先のほうでアリスが「ぬるい……」とかすかに舌打ちしたのを俺は聞き逃さなかった。……おかげで中途半端ななでおろしになったじゃないか。


「───以上。それでは、2人組みを見つけて、頑張ってくれたまえ」


 にこやかにそう言った学園長。俺たちは一斉に「はいっ!」と答え、それぞれの教室に帰る。

 その帰り、4人で教室に向かっている途中の廊下で、リリアは俺に話しかけてきた。


「ねぇ、悠斗は、誰と組むか決めた?」


 そんなに時間も経ってないのに、そんなことを言った。実際、組む相手なんて知れてるけど。

 俺は考える素振りも見せないで即答した。


「いや、まだだけど?」

「そっか。じゃあ……アタシと組まない?」


 少し緊張したような面持ちで、リリアは俯きがちに言った。


「……へ?」

「……は?」

「……お?」


 見事に三者三様の返事。初めがアリスで、次が俺、最後はディールだ。

 しかし、そんなに急に誘われてもなあ。なんだか告白された時みたいに緊張して、心の整理ができていない。


「ちょっと待て。悠斗とは俺が組む」


 それを聞き捨てならねえ、みたいな様子で、ディールは割って入るようにして言った。

 いや、俺だってお前と組むことは約束してないし、今さっき予定は無いって言っちゃったけど。その時点でディールとの約束はしていないと証明するには十分すぎるほどだ。

 それを見たリリアは、それに不機嫌な様子を見せることなく、ただニヤリと笑った。

 リリアのヤツ、なんか妙にディールに対していつも強気だよな。……ディール、もう弱みとか握られたのか?


「ふふん。いいわ。ここは公平に……じゃんけんで決めましょう!」

「え、そんなもんでいいの!?」


 俺は素で突っ込みを入れてしまった。俺の価値ってそんな運で傾くほど軽いのか!? ……なんだか自信なくすなあ。

 ディールはそれに意気揚々と便乗し、悪質な笑みを浮かべ、指の骨をポキポキ鳴らした。


「……いいのか? 言っとくが、俺はじゃんけん、メチャ強いぜ?」

「ふふ、それはアタシに勝ってから言いなさいな」


 リリアは優雅に髪を払い、右手を前に出す。ディールは左手を。これはどちらも利き腕だ。


「いくぜ……最初はグーだ」

「わかったわ」


 そこは日本と変わらないのか。……もうこの際なんでもいいや。

 2人の間に火花が見えそうなほどひとしきり睨みあうと、ついにその手が振りかざされる。


「じゃんけん───」

「───ポンッ!!」



 ……結果。ディール、グー。リリア、パー。

 リリアの勝ちだ。


「ぐおおおおおお!!」


 唸りを上げて頭を抱え、その場にしゃがみこむディール。絶望のポーズとはまさにこんなものだろうか。ず~ん、みたいな音がどこからか聞こえてきそうだ。

 対して勝者であるリリアは、勝利の余韻を余すとこなく跳ねて表現した。そりゃもう童話とかで登場するウサギみたいにピョンピョンと。


「えへへ、アタシの勝ちだね、ディール? 強いんじゃなかったのかな~?」

「ぐぬぬ……この俺が敗れようとはっ!」


 拳を廊下に打ち付けるディール。あまり音がしなかったのは、強く打ち付けなかったからだ。そうだよな、痛いもんな。

 しかし、リリアってジャンケン強かったんだな。もしかしたらなにか策でもあったのかもしれない。

 ……ん? 策? まさか……。

 そこで俺は、ふと感じたことがあった。俺はしゃがんで動かないディールの元へ向かった。


「ディール」

「ん、なんだ? 慰めなんか要らないぜ?」

「いや……そうじゃないけど」


 俺はいじけたディールに苦笑しながら、握った右手を目の前に出した。


「……なんだ」

「じゃんけん」

「……ふっ、俺に勝とうというのか? いいだろう」


 俺の誘いに急にテンションを変えたディールは、座ったまま左手を出した。


「そんじゃ、いくぞ。じゃんけん───」

「ポンッ!!」



 ……結果。俺、パー。ディール、グー。

 俺の勝ちである。


「ぬおおおおお!何故だああああ!!」


 そのしゃがんだ状態から転がって廊下をのた打ち回るディール。廊下の幅を全て使い切ってやがる。これじゃあ端からみると普通に危ないヤツだな。

 ディールは自分の身に何かがあると時々おかしくなるようだ。いつもはクールというか、普通なのに。

 ……そんなことより。俺はリリアの元へ戻った。


「いつから気づいてたんだ?」


 ディールがじゃんけんでグーを出すのが癖であることに。


「ふふ…さ~て、いつからでしょう?」


 洞察力と計画性の勝利だね、とリリアは得意になってウィンクをしてきた。……一瞬ドキッとしたが、平常心、平常心。

 俺は「そうかい」と言い捨てて廊下の窓の外に視線を逸らした。



 そうして、俺はリリアと、ディールはアリスと組むことになった。



     *     *



 その夜。

 俺はロビーの自販機で買った炭酸飲料を飲みながら、部屋でボーっとしている。

 ───というか、自販機なんてあってよかったのか? 初めは何もなかったと思ってたのに。特に自販機とか、科学の結晶じゃないのか!?

 ……考えていても始まらない。俺はその強い炭酸を一気に飲み干した。


 部屋には、学園長の言ったとおり、隅っこに以前と同じ大きさの術式が刻まれている。

 今回のは少し違って、術式のところには『Duo』と書かれていた。短訳すれば、「2人用」ってところだ。

 となると、一人での特訓はできないってことかな。

 ま、今日はもう遅いし、さっさとシャワー浴びて寝てしまおう。

 そんなことを考えてベッドから立ち上がると、


 ───コンコンッ。


 ひかえめな、俺の部屋のドアを叩く音がした。


「ん、誰だ?」


 もういい時間だぞ? こんな夜に一体誰が来るっていうんだ。

 俺は訝しげにしながら、ドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。


「やっほ。悠斗」


 そこには私服姿のリリアがちょうど肩あたりの位置で手を振って立っていた。

 その姿はジーパンとTシャツというラフな格好で、毛先にゆるくウェーブのかかった茶色い髪も、いつものように後ろに束ねておらず、そのまま背中に垂らしている。その代わりに、右手首にはシンプルなゴムバンドが1つ、ついていた。


「…………」


 ……えーっと? これはどういったイベントなんだ?

 夜遅い時間帯、もうすぐ寝ようと思っていたところにクラスの仲のいい女友達がやってくる。

 不思議な感覚だ。

 そういった馬鹿げた高揚感もありつつも、正直なところこの瞬間まで俺は彼女が誰なのか分からなかった。多分、声を聞かなかったら一生気づかなかったかもしれない。

 それくらい、今のリリアは学校の時とでギャップが激しかった。


「……どちらさまで?」


 俺はあえて平静を装って聞いてみた。どんな反応が帰ってくるのか少し興味があったからだ。

 俺の問いに少し戸惑ったのか、リリアは数秒をおいて、


「アタシ? アタシはね、悠斗の未来の『およめさん』です!」


 その大きな琥珀色の瞳から星が飛び出しそうなくらい可愛らしくウィンクしながら、俺の予想を遥かに凌駕する発言をした。


「…………」

「…………」


 数秒、2人の間で沈黙が流れる。それも決して心地のよいものではなく、どこかドロドロした感じの生ぬるい感じ。

 俺は驚きや動揺なんてものを飛び越え、もはや呆れしか出なかった。


「……入れ」

「やた。おっじゃましまーす、アナタっ♪」

「おま、それやめろっ!」


 そのまま追い返したほうがよかったかもと、俺はその瞬間後悔した。

 いやだって、この状況はどう考えてもおかしい。それに『アナタ』って……。

 俺がドアを少し開けると、リリアは軽やかな足取りで部屋に上がり込んだ。

 ドアを閉める前に、俺は廊下に誰かいないか確認をした。今のやり取りを聞いたやつがいたら、俺は明日どうなるか分かったもんじゃない。きっと「夫婦」とか「ラブラブ」とか言われる前に殺されかねない。俺は延命したいんだっ!

 それもこれも、最近になってクラスの男連中ががだんだんと女子の意識をし始めたことが原因視される。いうなれば、ランキング付けっていうのかな。

 中でも、リリアは多くの男子から第1位と言われるほどの好印象を得られている人物なのだとか。

 全クラスで言えば、アリスとの双冠と呼ばれるほどだ。

 その双冠の2人と仲のいい俺たちは、周囲からは羨望の眼差しで見られることもあればこそ、妬みに満ちた黒い視線も浴びることは少なくないのだ。

 そのリリアが今、俺の部屋に上がったんだ。それもワケのわからない呼び方で。誤解してくださいといっているようなものだ。うん、確実にられる。


 ……。

 右よーし、左よーし。 もう一度よーし。

 うん。誰もいないな。一息ついて、俺はドアを閉めた。




 ───ガチャッ!

 俺は相手に隠れる隙を与えることのないように素早くドアを開け、再び確認する。


「…………本当にいない、よな?」


 両側を素早く確認するが、廊下を照らす灯りの影になるようなものは見当たらなかった。

 一応だが、ここは神経質になっておきたいところである。

 ……ていうか、元はといえばこれはリリアのせいじゃないかっ! アイツが悪いのになんで俺がここまで苦労しなきゃならないのか、納得のいく説明が欲しいものだな。


「……はぁ」


 俺は、もうどうにでもなれの思いで静かにドアを閉めた。

タイトルのZwei Paarは、「2人1組」という意味のドイツ語です。

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