ep.13 ג ו ל ם-守護せし者-
やっとの思いでミルト遺跡に到着した俺たち。
しかし、そこにはそれっぽい扉が見つからなかったため、地下から潜入しようと考えた。
懸命に探す中、ディールの活躍により遺跡内部へ続く階段を発見した。
俺の特性というひとつの懸念を抱えながらも、俺たちはその石階段を下りていった。
☆ ☆ ☆
階段を下りきって、天井の高い廊下状の一本道になった。それも数メートル遠ざかると、階段の入り口から漏れる光も遠ざかり、あたりはたちまち暗闇に包まれた。もはや誰がどこにいるのか、どこに壁があるかも分からなくなっていた。聞こえるのは、カツカツと4人の不規則な足音と、俺たちの静かな息遣いだけ。
「ちょっと…、暗くて何も見えないじゃない……」
少し怯えたような声を漏らしたのはアリスだった。暗いのが苦手なのだろうか?
「怖いのか?」
俺は半分イタズラ心を含んだ言い方で聞いた。
「こっ! こここ怖いだなんて、ぁ、あるわけないじゃない! ただ歩くのに不便だから言っただけよ!勘違いしないでよ!!」
狭い地下通路いっぱいにアリスの動揺を含んだ声が響き渡る。すると、先頭切って歩いているリリアが突然「ひゃうっ!」と腑抜けた声を出した。
「ちょ、ちょっとアリスー!いきなり大声出さないでよ!うう、耳がキンキンする……」
「あ……ごめんなさい」
女同士の会話は、なんとも声のトーンが高くて耳にくるな……。───というか、これはまたアリスの俺に対する株が下がったんじゃないのか!?
「…………っ」
……今、殺気めいたものを前の暗闇から感じ取った気が……。
(お遊びが過ぎたかもしれないな……。)
そう思って、俺は人差し指を天井に向かって伸ばした。
『───ライト』
そう光系呪文詠唱すると、間もなく指先からまばゆい光がほとばしった。
「うおっ、まぶし!」
どこかで聞いたことのある台詞を聞いて、俺たちはそのあまりのまぶしさに目を瞑った。目を閉じていても、その先の景色は白いだけ。十数秒そうして目が慣れるのを待った。
・・・
・・・・・・
そろそろ頃合いかと思い、俺はゆっくり目を開ける。ぼやけた視界は、やがて形を取り戻していった。
「───うわ、こりゃすげぇ……」
そこには──────、
「なんだ、ここは……」
「へえ。随分と立派な地下じゃない」
立派な遺跡が姿を現していた。横幅は一人と半分程度しかなく、道の先はライトをつけても照らせないほど遠くに続いていた。青銅のように暗い紺色の壁に目をやると、そこには壁画が掘られていた。
「こりゃまた、本格的だな」
ディールはふむ、とその壁画を見て感心していた。人のような絵と、鳥のような絵が向かい合っているもの、空になにやら大きな物体が浮かんでいるもの、何かを囲んでいるようなものなど、その絵の種類は豊富だった。
「お前は、これが何を意味するのか分かるのか?」
「分かるかよ。……お前は俺をどういう目で見てんだよ」
「だよな」
ディールにじと目で見られて、俺は思わず苦笑した。俺がくるっと姿勢を前に向けると、俺とは正反対に、こちらへ向いているアリスの姿が。
…なんだ?もの凄い剣幕で睨まれている。
と、アリスはこっちにズンズンと歩み寄ってきて、
「いてっ!?」
その道中にいるディールを跳ね除け、
「──────ぅ!?」
俺の前に立ち、ズイッと顔を近づけてきた。
ちょ───、近い近い近いって!
そのぶつかりそうなほど近い距離に俺は思わずドキッとして、その場に硬直する。すると、ふんわりと、いい香りがした。シャンプーの匂いだろうか、金色の髪が揺れるたびに漂ってくるその匂いに気を取られていると、
───バシッ!
俺は頭を、思いっきり叩かれた。
「痛!? お前っ、なにすn───」
「───そういうの、先に使いなさいよ! バカ!」
小声で俺に訴えるアリスの顔は、真っ赤だった。……ついでに、涙目だった。そして、その表情は俺に罪悪感を与え、
「……わ、悪かった。ごめん」
と、俺は気がつくとそう謝っていた。アリスはその後、何か言いたげに口をまごまごさせていたが、少しして、
「──────ッッ!」
「……い゛!!」
ガスッと、俺の足を強~く踏み、その2つの束をを翻して戻っていった。なんだったんだ……?いや、俺が悪いのは分かってるんだけど。でも、なにもあそこまでしなくてもいいじゃないか……。
「でも───、」
俺はわしわしと自分の髪をかきむしる。
やっぱ、その表情は反則だろ……。
目も慣れた頃、俺たちは延々と伸びている地下廊を歩き続けていた。先ほどとは変わり、リリアとアリスは俺たちと距離が開くほど早足で歩いている。対する俺たちはのんびり歩いていた。
ライトのおかげで、あたりは既に明るく道を照らしている。
「いてて……」
その中で、俺の右足はジンジンと痛むばかり。ディールは、俺の歩くペースに合わせてくれているに過ぎなかった。
「大丈夫か? 悠斗」
「大丈夫……いや、どうだろう。軽くホネいったかも」
「ま、それぐらいが、お前にとっちゃいい薬だったんじゃねぇか?」
相変わらずサバサバした口調でディールは言って、俺の肩を軽く叩いた。
「どんな薬だよ……」
ディールはそんな意気消沈している俺を急き立て、地下廊を進んでいった。
* *
道の途中で、いくつか分かれ道があるかと期待していたのだが、残念ながらそのようなものはなかった。まったく。ゲームのやりすぎだな。10分ほどだろうか。歩いた先には、大きく開けた空間があった。さっきまでの狭さとは打って変わって、こっちは広すぎだ。
「うわぁ……」
その光景に、リリアはうっとりしている。もう満足って顔だ。でも、目的の(リリアの)お宝は未だ見つかっておらず、俺は周囲を見渡した。
気温は学園にいるときより少し寒いくらいだ。上と下とで気温の変化が激しすぎるだろ。風邪引くぞ、まったく……。
この部屋にも壁画が一面に掘り込まれており、俺は半ば気味悪く感じていた。
「なあ…、さっさとお宝見つけて、帰らないか?」
俺は少し早口でそう提案した。するとリリアが、
「えー、いいじゃない、もっとゆっくりしてけば。ここ涼しいし」
と、尤もな事をを言ってるように見えるが、その目は例によって思いっきりキラキラ輝いているので説得力なんてものは微塵も感じられない。そう来ると思って、俺は返事を待たず、宝物を探しに駆け出した。そんな俺の姿に、ディールは「お、面白そうじゃん」といって、俺の後をついてきて、またもや男2人、女2人に別れてしまった。少し心配ではあるが、これも早く学園に戻るため!俺はあちこちを探し始めた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
───数分後。
「……はぁ、はぁ…。な、なんで出てこねーんだ……!」
「それは…、そう易々と、出てきたら……、それはお宝とは言い難くなるからじゃ……ないのか?」
地下を目一杯走り回った俺とディールは、遂に限界を向かえ、床に転がり込んで息を整えていた。探す、と言っても、この部屋は元々、それらしきものが置いてあるような部屋ではない。と言っても、ここが行き止まりである故、最奥地であるのは間違いないのだけど。
「そりゃ、そうだけどさ……」
お宝だって、そこまで考えてないとおもうけどな。俺は天井を見ながら、呼吸を安定させる。2人の息が整ったところで、俺はディールに根っからの疑問をぶつけた。
「なあ、ここにさ、お宝ってあると思うか?」
その質問にディールは、あくまで冷静に答えた。
「そうだな…、お宝ってケースではないにしても、なにかしら遺産めいたものがありそうなのは確かだよな。そうじゃなきゃ───ここにこうやって、地下なんてものを作る意味がない。
はたまた、ここは戦時中にでも非難するための場所だったりするかもな」
「そうなんだよな……」
信憑性が微妙にある答えに、俺は頷く。 もしかしたら、俺たちは既に見逃していたのかもしれない。俺は、ゲームっぽい金色のお宝をイメージして探し回っていたために、そのイメージとは反している本当の宝物に気づかなかったのかもしれない。そうなっていたら、もはやアウトだな……。
「しょうがない、もう一度探してみるか」
俺はゆっくりと立ち上がる。
「そうだな…。虱潰しにやってみるか」
そう言って、ディールも立ち上がる。───と、その時。
「──────ん?」
ディールはかがんだ姿勢のまま、硬直した。
「なんだ、どうした?」
「しっ!」
ディールは口の前に人差し指を立てる。俺はそれを見て口をつぐむ。
「どうしたんだ?」
俺は小声で、繰り返し聞く。
「───風が吹いてる」
「え…?」
実際、このような密閉空間では、風など吹くわけがない。それが吹いているって、どういうことだ?
「…………………」
ディールは耳をすませている。
「……こっちだ!」
そう言って、急に走り出した。
「あ、おい、待てよ!」
俺も慌てて追いかける。
数メートル先の壁画の前で、ディールは立ち止まった。 壁に手を当て、コンコンと手の甲を打ち付ける。
「ここ、か?」
俺もそれに倣って、壁をコンコン打つ。
「ああ、そうだ……。ここだけほかと鳴る音が違うし、この穴から風が入り込んでるのが分かる」
そう言って、小さな穴を指差す。俺は身体をかがめ、そこに耳を当てる。う~む………。
「……そうか?俺にはわかんねえや」
どうやら風属性の成せる業らしい。俺は壁から離れる。
「俺、ちょっとあいつら呼んでくるわ」
ディールはそう言って、その場を後にした。結果、俺はここでお留守番だ。所謂、ぼっちというものだな。
「……ま、いいけどね」
* *
「───で、それがここってワケ?」
「ああ、そうだ」
アリスの疑り深い視線をかいくぐり、ディールはまたも鼻高々に宣言した。リリアは今回もディールにいいところを持っていかれたので、只今ディールを絶賛悔恨中だ。アリスはさっきディールがしたように、壁をコンコンと鳴らして確かめた。
「……本当。まさかこんなところにあるなんて」
「だろ?やっぱ正解だって」
ディールはまさしく『私が見つけました』とでも言いたげに壁を見る。
「……それで?ここにはどうやって入るの?」
さっきまでへそを曲げていたリリアはそろそろ諦めたのか、ディールに尤もなことを質問する。それは俺も聞こうと思っていた。それにディールは「フッ…」とキザっぽく髪をかき上げ、
「ここを壊せばいい」
と言った。……それは、さすがに不味いんじゃないか……?といっても、それ以外にここに入る方法が見当たらない以上、そうするしか道はないわけで。
ディールは壁の正面に立ち、俺たちを下がらせた。
「おい、何するんだよ?」
「言ったろ?壊すって」
そう言ってディールはニッと笑った。
「俺の中級魔法、見せてやるよ───!」
そう言って、ディールは両手を重ね、前方に突き出した。すると、手の平が淡い緑色の光に包まれ、その周辺から軽く風が吹き抜けた。
「いくぜ───!」
大きく息を吸い込み、ディールは呪文を詠唱した。
『───インパクト・f!!』
その言葉とともに、ディールの前に収束された空気は見えぬ塊となり、勢いよく壁にぶつけられた。バコン!!と、響き渡る轟音とともに、瓦礫が次々崩れ落ちていき、その奥にぽっかり空間を作り出した。ぶつかった後の瓦礫は粉々で、相当の威力があることを示している。
これが、中級魔法───。みんながあ然としている中、ディールはふぅ、と息を吐いてこちらを振り返った。
「ま、こんなもんだな。俺も使ったのは初めてだけど、こりゃ相当強いぜ」
軽く息が上がってる様子から、結構魔力を消費するようだ。使い時を選ばなくちゃな。俺はまだ煙が上がっているその向こうを見ようと首を伸ばす。
「さて、この先には何が待ってるのかな───と、おお!?」
立ち上った煙は次第に消え、見えるようになった部屋の向こう側を覗くと、俺の想像したとおりの、金ピカに光る沢山の宝の山があった。……し、信じられん!
「お、お宝……!! やたーー!」
万歳しながらそっちへ一直線のリリア。
「早速、お宝ゲットといきますか」
ディールはニヤリとして部屋に歩いていく。
「……はあ」
後ろでアリスは大きく溜息を吐いた後、俺の前を通り過ぎる。さて、俺も───。
そう思って歩を進めようとした時だった。
──────ドーーーーーーーン!!!!
「───え?」
突然揺れる地面に、俺たちは立ちすくむ。ソレの着地とともに起こった暴風が俺たちを巻き込む。
「な、なんだ───!?」
ビリビリと全身を駆け抜ける悪寒。そしてこの悪くもいいタイミングでの登場。俺たちは、さっきまでとは比べ物にならないほどの轟音を響かせて落ちてきたモノへと振り返る。
「─────────…」
それは、見上げるほど大きな石だった。人型にもとれるその巨大石は、この広間の中央に君臨した。
……───人型?
やがてそれはゆっくり立ち上がり、俺たちを見下ろしている。そこで、俺はやっとソレの正体を把握した。
「ご、ゴーレム……!?」
ゲームとかでもよく守護プログラムとかで出現していた、アレ。でも、このリアルさは、とてもゲームとは思えない。
「こ、これ……なんだかやばくない?」
リリアはゴーレムを見て目が覚めたのか、やはりというかなんというか、顔を青くして怯えている。これを目の当たりにして、怯えないやつがどこにいるだろうか!いや、いない!!
「……倒すわよ、コイツ」
「え───?」
冷酷な口調で目の前を通り過ぎる金髪ツインテール。
……訂正。アリスだけは、怯えていなかった。戦闘モードに入ったアリスは、どこか楽しそうに、口元に笑みを浮かべていた。既にやる気満々な証拠に、身体のあらゆる部分からバチバチと火花が散っている。
「お~コワ…。できるならこんなことにはなりたくなかったんだけどなー」
部屋の前にいたディールとリリアもこちらまで戻ってきていた。ディールは『こんなシチュエーションを待っていた!』的なにやけた顔で。リリアはおどおどして不安そうに。
「…………」
俺は今、どんな顔をしてるんだろうな……。
「───הו הו הו הו הו הו הו───!!」
途端、ゴーレムが雄叫びを上げ、空気をビリビリと振動させる。そして目であろう部分が赤く光り、臨戦態勢に入ったことを示す。戦闘開始、か───。
『怪我などにはくれぐれもお気をつけて』
ふと、学園を出る前に聞いたルーシーさんの言葉を思い出した。ルーシーさんは、こうなることが分かってて言ったのだろうか……? ───ま、今はそんなことはどうでもいいか。
「いくわよ───!」
「おう!」
「まかせろ!」
「う、うん!」
アリスの掛け声にそれぞれ応え、俺たちも戦闘準備に入る。
そうして、すごい勢いで襲い来るゴーレムとの初めての戦闘が始まった。
タイトルのגולםは『ゴーレム』という意味のヘブライ語です。
もともと、ゴーレムとは『胎児』という意味のヘブライ語で、主人の命令を忠実に護るロボットのような存在なのだとか。(wikipediaより)