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魔法学園にようこそ!  作者: Aerial
Chapter.Ⅱ魔法中級・ミルト遺跡編
12/29

ep.11 元を辿れば-Amintire-

 広大な砂漠地帯を延々と歩き続けた俺たち。

 体力的に限界が近づいた頃、なんとオアシスを発見した。

 色々とトラブルがあったけど、なんとか休憩ができるな。


 …でも、どうしてこうなったんだ───?


 そうして俺は一人、思考をめぐらせる。



     ☆     ☆     ☆


「───ギルド…、ですか?」


 俺たちの中で一人が、そう口にした。学園長室での出来事、それは、中級者ミドルクラスになった俺たちに与えられる権限の話だった。

 内容は、月に1度だけ、自分の故郷への帰省を許可するものだった。要するに、俺たちは現界あっちに戻ることが出来るようになったのだ。


 それと、別件で俺たちに課せられた義務があった。それが───、


「そう。ギルドだよ」


 目を閉じれば威圧感しかないその声の主、学園長は、それとは対照的な優しげな笑顔で頷いた。

 その言葉に、俺たちはざわざわし始める。

 ……ギルド、か。まぁ、要するに魔法学園こっちでの部活のようなものだろう。


「このギルドというものは、その名の通り自治的な運動をする集団のことを指す。所謂、ボランティアのようなものだと思ってくれればいい。

 君たちには、これから他方からの依頼をこなしていってもらうことを主として学園に通ってもらうよ。勿論、その分の欠課は認められないものとして、私が処理をしよう」


 う~わ、ボランティアか……。と、俺と同じことを思ったのか、この場にいる大抵の男子は、口をへの字に曲げていた。


「そこで、君たちにはいくつかのチームを編成してもらい、その中で活動してもらおうと思う。……そうだな、丁度『4人』でチームを作ってもらおうか」

「…今からかよ」


 まあ、実際次の機会を待つには間延びしすぎるだろうからいいけど。俺は早速いつものディールとリリアの2人を収集した。これで3人だ。あと一人は───、


「最後の1人はどうするんだ?」

「そうだな、来る人拒まず。気長に待つか」


 そうして、見解を一致させた。だが、俺とディールの会話が聞こえていなかったのか、


「あ、そうだ。アリスーー! こっちおいでよー!」

「「───いぃ!?」」


 あろうことか、リリアは彼女の名前を口にした。リリアは満面の笑みでこっちこっちと手招きしている。


「…………」


 それにアリスはキョトンとした顔で立ち尽くしている。それもやがて終わり、ゆっくりとコチラへ歩み寄ってくる。本気かよ……。このチームにアイツを入れるなんて、正気の沙汰とは思えない。だって、俺たち絡まれたんだよ!? 顔面火傷負ったやつ出たんだぞ!? パイナップルだぞ!? ホラ、ディールも青ざめているじゃないか!

 ……そんなことを本人の前で言えるわけもなく、俺たちはアリスがやってくるのを見送った。彼女は終始、俺に警戒の色を込めた視線を送っていた。


「…………」


 俺は顔を逸らすことでその場を凌いだ。


「よろしくねっ、アリス!」

「え、ええ……」


 リリアの元気圧には、さすがのアリスもたじろいだ。

 かくして、彼女は俺たちの輪に入ったのだった。




 そうして、他のやつらも各々でグループを作り終えた頃、それを見守っていた学園長が口を開いた。


「よしよし、作り終えたね。それじゃ、早速仕事が届いているのだけど、どこか引き受けてくれるチームはないかな?」


 依頼書らしき紙をヒラヒラさせながら、学園長は俺たちを見回す。さすがにすぐ受けるわけにもいかないよな、やっぱり……。ま、内容によるかもしれないけどね。それよりも、俺としてはこの気難しい空気をなんとかしたい。


「………………」


 さっきからず~~っとアリスに睨み殺しかねない勢いの眼光で俺を見られてるんだけど。どうしようもないのかな、コレ……。


「はあ……」


 俺は学園長の依頼内容に耳を傾けた。


「1件だけなのだが、なんでも───『遺跡調査』を頼みたいんだそうだ」


 ───遺跡?

 そのゲームらしい響きに、俺は少し興味がわいた。


「学園の南側にある、ミルト遺跡への調査以来だな。どうかな、やってくれそうかな?」


 遺跡ね……どんな場所なんだろう。密林の中にあるのかな。それとも裁くのど真ん中とか? それはちょっと嫌なんだけど……。

 そこが少し気になって、俺はディールに小声で聞いた。


「なあ、ディール」

「なんだ?」

「こっから南っていうと、どういった地形になっているんだ?」

「南は普通に砂漠地帯だぞ。できれば俺も遠慮したいぜ……体が乾燥する」


 そう言ってディールは身を震わせた。

 予想通りというべきか、サバック地帯にあるとは。行きたくない、行きたくないぞ、俺は。決心して俺は学園長の依頼話に耳を貸すのをやめようとした。


「───ミルト遺跡には、古代から文明が発達していたという言い伝えがあってね。奥の方では昔の遺産が眠っていると聞くよ」

「遺産!!?」


 その一言に、ずいっと首を突っ込んだやつがいた。無論、不思議大好き少女、リリアである。リリアは足早に学園長の前に行くと、興味と欲望と探索心の入り混じった眼差しで、学園長を見上げた。


「それ、どんな遺産なんですか!?」

「そうだね…、私も詳しくは知らないが、昔の剣や金のようなものは普通にあるのではないかな?」

「お~~~~~!!」


 興味津々な様子のリリア。今にも飛び掛ってしまいそうな勢いだ。……なんだか嫌な予感がする。

 そして、その予感はあえなく的中したのだった。


「アタシ、そこに行きたいですッ!!」


 右手をピーンと伸ばして挙手をして見せた。学園長はというと、うんうんと頷いている。俺はため息を吐いた。その横では、ディールが眉間に指を置いて、やれやれとばかりに首を振っていた。


「この娘のチームの人たちは、大丈夫かな?」


 確認とばかりに聞く学園長。まったく、人が悪いよこの人。調査だから、そこで金やら手に入ってももらえないのは分かりきってるのにな……。


「……俺は、いいです」

「俺も」


 従わないと後が怖そうなので、頷くことしかできない。俺とディールは早々に首を縦に振った。


「アリスは?」


 俺は一応聞いた。一瞬こちらを見て、その後


「いいです。暑いところは、苦手ではありませんので」


 と肯定の念を示した。ピョコピョコと跳ねる上機嫌なポニーテールを尻目に、俺は現界あっちの様子を考え始めた。


 元気にしてるかな、みんな……。


 窓から覗く太陽は、教室内に少しずつ影を作っていった。



     *     *



 それから3日後。俺たちは朝早くに学園をでて、以前俺が初めに訪れた例のメタリックブルーの駅らしいところに集合した。なんでも、ここから出られるらしい。学園の外は見たことがなかったから、正直ワクワクしている。


「もう、遅いよ悠斗ー!」


 俺が到着してやっと全員集合だった。


「お前たちが早いんだよ、まったく」


 たった今、俺は確かに集合時間の5分前にここに着いた。しかし、他の3人は俺より早く到着していたのだ。ここは俺が非難されるべきではないと思うぞ。


「さて、全員来たことだし、そろそろ行こうか」


 ディールが踵を返して言う。それを合図にそれぞれが準備を始める。俺はやっぱりその一角に座っている、ルーシーさんに挨拶をしに行った。


「お久しぶりです、ルーシーさん」

「お久しぶりです、桂木悠斗様」


 以前と変わらないその業務口調は、なぜが俺の心を軽くした。


中級者ミドルクラス昇格、おめでとうございます」


 おそらく俺の前に表示されているだろう情報を見たのだろう。これ、自分のヤツは見れないから少し不便だ。改良されないだろうか……。


「ありがとうございます」

「これからギルドの依頼と伺っておりますが」


 そこまで情報が行き届いているんだな。時々、ここは魔法が繁栄した場所とは思えなくなるよ。 この青っぽい景色もそうだし。


「はい、これから遺跡の調査に行ってきます」

「そうですか。怪我などにはくれぐれもお気をつけて」


 そう言ってルーシーさんは軽く頭を下げた。


「はい。それじゃ、行ってきます」


 そうして俺はみんなのところに戻った。




 学園側とは反対方向に俺たちは歩き出す。先はまったく見えず、青いトンネルを歩き続けているだけの不思議な光景が続いていた。───どこまで行けばいいんだ?


「もう、そろそろだな」


 ディールがそう言うのとほぼ同時に、数十メートル先に、術式のようなものを見つけた。転移術式ムーヴルーンだ。試験の時以来お目にかかってなかったので、随分と久しぶりに術式を見ることになるな。やがてそこまでたどり着き、術式の前で止まる。


 この術式、俺たちの部屋にあったものとは少し違うな。なんていうか、上位の術式…って感じだ。前のとは組まれている術式の量が格段に多い。


「さて、準備はいいか?」


 ディールはみんなに問いかける。


 ……今、俺の前に『はい』と『いいえ』の選択肢が浮かんでいる。ゲームのように、お決まりの台詞に俺は少し楽しくなる。俺が『いいえ』を選ぶと、ディールは『そうか、しっかり準備してから、また俺に話しかけてくれ』みたいなことを言ってくれるのだろうか……。


「いいよぉーー!」

「…早く行きましょ」


 ……そんな俺のバカバカしい考えなど誰も汲み取ることなく、俺も悟られないようすぐに頷いた。俺たちの様子を確認したディールは、術式に向き直って、『Sud』と描いた。すると術式が光り出し、術式の色が赤っぽく変化した。準備OKって感じか……?


「さて、行くか」

「お宝、お宝♪」

「まったく、どうして私がこいつらの班なんかに……」


 俺、ディール、リリア、アリスの順に手をつなぎ、今回は、リリアが足を術式に当てた。


・・・

・・・


 瞬間、熱風が俺たちを襲った。急にやわらかくなった地面に、思わず足を奪われる。気温の異常な上昇具合に、俺たちは戸惑った。


「暑……っ」

「こりゃ想像以上だな……」


 俺とディールが照りつける太陽を手で隠して小さく悪態をついているうちに、アリスは早々に歩きだしていた。


「あ、おい!ちょっと待てって」


 俺たちは急いでアリスを追った。


「待ってられないわよ。あんまり砂漠をなめない方がいいわ」

「そうだけどさ……」


 睨まれてしまっては反論できない。俺は弱い人間である。太陽がじりじりと焼けるように痛い。学園ではここまで暑くなかったと思うんだけど……。これは、アリスの言うとおり、早めに移動した方がよさそうだ。


「おおーい、みんな早くぅーー!」


 俺が顔を上げると、いつの間にそこまで行ったのか、リリアは遥か前方でブンブンと手を振っている。そんな彼女の姿を、誰もが危ない、と思った。


「そこまで急ぐとすぐバテるぞーー!」


 俺は声をあげて、リリアに話しかける。するとリリアは、すぅ、と息を吸い込み、


「ダイジョブだよー! アタシ、水分の量は人より多いから、これくらいの暑さなんかへっちゃらだもんーー!」


 そう言って、一目散に走り去った。


 ──────危ない。


 俺たちは一斉に溜息を漏らした。きっと、誰もが同じ心境なのだろう。俺たちは、その小さくなった後姿を追うように、スピードを少し上げて歩き出したのだった。




     ◆     ◆



「悠斗ーー! 置いてくよーー! ゆうとーーーー!!」


 遠くから声が聞こえる。


「──────ん?」


 どうやら思い出している間に寝てしまっていたようだ。……まさか、さっきまでの出来事が夢に出るとは思わなかったな。

 起き上がって横を見ると、妄言を口にしていたディールもそこには既におらず、オアシスから少し外れたところで3人固まって俺を待っていた。


「……………」


 日はまだ高い。どうやら俺が寝てからそこまで時間は経ってないようだ。


「わかったー、今行くー!」




 俺は起き上がり、一度伸びをする。その時に覗いた青空は、これまでと変わらない色で俺たちを見守ってくれていた。


「さて───、行くか!」


 俺は走って、待ちくたびれているであろう3人のもとへ向かったのだった。

タイトルのAmintireは、『回想』という意味のルーマニア語です。

なんだかいらんとこまで回想してしまった感があるけど気にしない方向で。

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