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魔法学園にようこそ!  作者: Aerial
Chapter.Ⅱ魔法中級・ミルト遺跡編
11/29

ep.10 デザート・デザート-Sengende-

 遂に迎えた魔術試験本番、結果は無事に合格を果たした。

 そうして中級者ミドルクラスとなった俺たちは、学園長からの話で月に1度の帰省を許可する、という権利を与えられた。


 やっと帰れる───!


 ただ、それとは別に俺たちに課せられた義務。

 それは、俺の今までの生活をさらに変えるものとなった。



     ☆     ☆     ☆


「ホラ、何してるの! シャッキリ歩きなさいよ!!」


 遠くから聞こえる甲高い叫び声。足はズプズプと沈んでいき、歩くことさえ困難。溢れる汗、息は既に切れている。


 ───そして何より、


「……暑い」


 太陽は無謀にも遊歩する俺たちを嘲笑うかのように照りつけ、親切なことに最高気温まで提供してくださっている。忌々しいことこの上ないね。


 さて、現在位置でも確認しておこうか。ここは、そう──────砂漠地帯だ。


 そして目の先の砂地を苦ともせず、ズンズン歩を進めているのは、あろうことかアリスだった。俺たちは息絶え絶えにヤツの背中を追いかける。が、差は広がるばかり。


「ぉぉぃ、アリシア様……、ゼェ…ゼェ。そ、そろそろ、きゅ…休憩に、しないか?」


 情けない声をあげたのはディールだ。砂漠を歩き続けて2時間ほど過ぎている。ここは、どこだろう?そんなディールのか細い囁きが耳に届いたようで、アリスはこちらをふりかえった。


「何言ってんのよ! この程度の暑さで、男が弱音吐くんじゃないわよ!」

「で、でも~」


 炎の暴君にはこの暑さが理解できないらしい。


「置いてくけど、それでもいいなら勝手に休憩してればいいわ」


 この猛暑を諸共しない速度で歩き出し、それに加え早足になりやがった。俺たちはせめてアイツの姿を見失わないようにと、老体に鞭打ってやや速度を上げた。すると俺の後方から、


「あづい~~~。溶けちゃう~~~」


 今度は、さらに情けないリリアの声が聞こえた。リリアは千鳥足になり、まともに歩けていない上、グルグルと目を回している。俺も汗が出てはいるけど、リリアのそれは俺たちとは別のものだった。


「ふにゅぅ~~~……」

「!?」


 ───頭から、湯気が…!これはリリアが水属性アクアタイプたる所以か。もはや蒸発しかねない勢いだった。


 最初こそ、

『アタシ、水分の量は人より多いから、それくらいの暑さなんかへっちゃらだもんね!』

 とか言って、上機嫌に誰よりも早く先頭を切って歩いていたのだが、それも次第にペースが落ちてきて、

『もう、ダメ。温度上がってきた…』

 なんて言って俺たちと並び、追い越され、現在に至る。


 火との相性こそ良かれど、三態変化に伴う作用までは把握しきれていなかったようだ。


「はぁ…」


 俺はリリアの頭に手を置き、水系呪文アクアスペルを詠唱した。


『───エアフロスト』


 手のひらの上にあるものを凍らせる、水系呪文の応用技だ。これでリリアの体内の水分の温度を下げようと試みる。だが、蒸気はいまだ異常なほどまで出ている。多少は効力はあるみたいだけど。


「……そんな簡単に効果は出ないか」


 俺はリリアの頭に手を置いた状態のまま歩き出した。


 ……数分、そうしながら歩いていると、リリアの上の蒸気が、途端に氷柱と化し、俺の手の甲に落ちてきた。


「はぁ~~~涼しい~~♪」


 顔を覗くと、リリアは至極満足そうにツヤツヤした顔をしていた。


「良くなったみたいだな」

「うん~。アタシが今、こうして生きてられるのも悠斗のおかげだよ~~」


 ……それは過大評価というものじゃないのか?なんにせよ、回復したみたいでよかった。するとリリアは、


「アタシ、アリスのトコまで行ってくるーー!」


 元気いっぱいに走り出した。砂に足を奪われてもなんとか体勢を立て直して走り去る。……また沸騰しなければいいけどな。


「アイツ、転べばゲームオーバーだろうな」


 俺は転んだ拍子に蒸発しだすリリアの姿を想像した。……冗談じゃない。


「なぁ……悠斗。俺も、冷やして…くれないか?体が、霧散しそうなんだ……」


 横でゲッソリしたディールが懇願してきた。霧散というか、ゾンビになりかねないな……。


「自分で風吹かせればいいだろ?」

「……お前冷たいヤツだな。熱風になるの分かりきってんだろ…」


 頭は大丈夫のようだ。


「またそんなことすれば、お前より先に俺がやつれてしまうだろ。頑張って歩こうぜ」

「そんなこと言うなよおぉぉぉぉ!!」


 痺れを切らしたディールが、突然俺に飛び掛かってきた!


「っ馬鹿、お前! 熱いだろうが!」

「うおおぉぉぉぉぉぉぉ……」


 死力を尽くしてしがみつくディールを何とかして引き剥がそうとするがなかなかそうもいかない。


「はぁ………」


 俺は渋々冷却を始めた。



 ───数分後。


「あぁ、涼しい……。なんだここは? 天国か?」

「……一生言ってろ」


 そうして歩き続ける野郎2人。コイツのおかげでさっきから魔力の消費が激しい……。身体的にも精神的にもダメージを受け続けている。そろそろ俺も厳しくなってきたんだが……。

 

 地平線の向こうで、ユラユラと揺れる蜃気楼。このような状況下に置かれているので、普段見る珍しいものは、今ではこの上ないほど見るに耐えないものと化していた。


「ヤバ、もう……限界だ」


 俺は魔法を中断すると、途端にディールの顔は萎れ始めた。


 「あぁぁ…ぁぁぁぁ───」


 ピークが近い。目の前がだんだん霞んできた。視界が、ぼやけて……見え……、


「悠斗ーー! ディールーー! オアシス見つけたーーー!!」

「「───なんだと!?」」


 先に言ったはずのリリアのその言葉で、俺たちは無我の境地にたどり着いた。互いに頷きあい、このクソ暑い中、俺たちはクラウチングスタートの体勢をとった。数秒後、合図さえ無しに一斉に地面を蹴った。

 最早暑さも感じず、顔面に当たる熱風もまた、気持ちよかった。そうして俺たちはただ、その場を目指して走り出した。


「「うおおぉぉぉぉぉおお!!」」




 ……俺たちの儚げな咆哮は広大な砂漠の砂の中に消えていった。



     *     *



 ───そこには、本当にオアシスがあったんだ。俺は初めて神という存在を崇めたくなったよ。…うち仏教だけど。


 ……

 ………


 さて、無事にオアシスまでたどり着いたわけだ。そこで、俺たち4人は一時の幸せを満喫していた。


「やっぱ、水際って涼しいなぁ……」


 インドア派な野郎2人は、そこに生えていた1本の木を陰に、涼しい風を体中に当てていた。


 まさに全力疾走だった俺たちは、着いた途端に脱水症状を起こした。それもこれも、このオアシスの水が救ってくれたのだ。あの時は本当に天国が見えたものだ。


「冗談だろ?だって、こんな砂漠地帯に一輪の花が咲いてたんだぜ?俺は、そんな健気な姿を見せられては……もう───」


 さっきからディールは感涙に咽びながら、おかしな天国紀行を一人ブツブツと語っている。……いつもの冷静さの欠片もないな。まぁ、俺もさっきまで放心状態だったわけだけど。


「はい、水筒。水、冷やしといたから」


 リリアはオアシスの水を冷却した水筒を俺たちに差し出した。あなたは水の女神様ですか! 俺はありがたく頂戴し、そのキンキンに冷えた水を一気に飲み始めた。


「体調はどう?」

「……まぁ、大分よくなったよ」

「そ。よかったね」


 リリアは立ったまま話を続ける。


「ゴメンね。アタシがヘタってたから……」

「ん?あぁ、いいよ。もとはといえば、俺たちが馬鹿みたいに走り出したせいだし」


 さっき俺に冷やしてもらったことをいっているのか、リリアは申し訳なさそうな顔をした。俺はさっきまでのアホな自分たちを思い出して、自嘲的な笑みを見せた。


「───それに、あの場でああしなかったら、俺じゃなくて、リリアが倒れてただろうしな。そうなるくらいなら、この程度、何てことないよ」

「あ───」


 俺の一言で、何故かリリアは顔を赤くした。はて、俺は今、何を口走ったか───、


    ─────────ハッ!!


 な、なんてクサイ台詞言ってんだ───!!


「あああ! えっと、今のナシ! 今のは別に……」

「う、ううん……。ありがと、悠斗」


 俺が弁解しようとアタフタしていると、リリアは顔を赤く染めながら、俯きがちに呟いた。そのやさしい一言で、俺は言葉を失い、


「あ……、ど、どういたし、まして」


 そう言い返すことしかできなかった。


 ───ハッ!


 今の恥ずかしい局面、ディールなら見逃すことはない! 俺は咄嗟にディールのほうを向く。


「───そしたらさ、なんて言ったと思う?『キミを一人にはしないさ』だってさ……。涙でちゃうよな……」


 心ここに在らずの状態だった。ホロリと涙を流しながら、妄言を口にしている。


「よかった───」


 俺は安堵の溜息を吐いた。……とはいっても、こんな状態ではあまりにもギクシャクして居心地が悪い。俺は無理やり話題を変えた。


「そ、それよりさ、アリスのヤツは速いもんだな。俺たちの3倍くらいの速さで歩いてたよな」

「……実際のところ、アタシたちがアリスの1/3の速度になっちゃっただけだけどね。」


 リリアは「たはは…」と苦笑いをしてみせた。


「アリスね、このくらいの暑さなら問題ないんだって」


 …化け物だ。当の本人はというと、日向に出てなんだかウロウロしている。どうも落ち着かないようすだ。まったく、アイツには非の打ち所ってのがないのか。


「でもね、アリスって、───泳げないんだって」


 リリアはふふ、と微笑んで、そんな完璧少女の弱点を口にした。


「へぇ、アイツがカナヅチ……ね」

「というかね、水が苦手みたいなのよ」


 なるほど、こういうところで属性タイプってのは別れるんだな。なにもデタラメではないみたいだ。というか、意外だ。……となると、


「それじゃあリリアはやっぱり、水遊びって───」

「大 好 き デ ス」

「そ、そっか…」


 ……そこまで自信たっぷりに言われても。俺は苦笑いしかできないぞ。


 しかし、まぁ……



 どうして、こうなったんだっけ?

 俺は空を見上げる。


「──────」


 雲ひとつない、どこまでも透き通った真っ青の空を眺め続け、俺はそっと目を閉じる。そうすると周りの音が鮮明に聞こえてきた。オアシスのさざなみの音。砂がさらさらと流れる音。風の吹く音───。



 そう、確かあの学園長室の中で───、


 全ては、あの場で決まったことだった。

タイトルのSengendeは『灼熱』という意味のドイツ語です。

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