ep.00 プロローグ-Admission-
澄み渡る青空。春の訪れを感じさせる、穏やかな気候。八分咲きの桜の花。
……世界は平和である。
そんな天気のいいある日の午後、俺、桂木 悠斗は、遂に明日に迫った常浜学園の入学式に備えて準備をしている真っ最中だ。
俺の通うことになったこの学園は、この県じゃあ相当の学力でないと合格は難しいとされる、いわゆる名門校だ。そこに合格したのだから、俺の実力も捨てたもんじゃないってことだよな。正直、鼻が高い。
「ふんふんふーん♪」
鼻歌交じりにカバンの中身を整理する。ちなみに、気持ち悪いとか思わないで欲しい。誰だって鼻歌交じらせながら何かしたくなる時ってあるって。いやマジで。
そんな感じにご機嫌な俺は最後に、自分の筆箱をカバンに入れようとして……
───ポトン。
と、小さな音を立てて消しゴムが床を跳ねた。あれ? 筆箱、ちゃんと閉めてたよな? そして不幸なことにラグビーボールみたいにおかしな方向へ飛んでいった消しゴムは、俺の机の裏の微妙な隙間の間に入ってしまった。なんだかゴルフでホールインワンにでもなった気分だ。ああいうのって、思わないところで入るものだからよく分からない。
俺は溜息を吐いてからゆっくりと前かがみになって、右手を机の裏の空間に伸ばす。
「───よ、ほっと」
コツンと、何か消しゴムではないものが俺の指に触れた。硬い、何かの角のような。とりあえず、それを引っ張り出してみる。……む、結構厚いな。
俺はそれを引っ張り出して一瞬戸惑った。
「…えっと、なにこれ。本?」
それは埃をかぶった、とても古そうなハードカバーだった。それもどうやら日本製のものではなさそうだ。だって表紙に『Admissions dans les écoles』って書いてあるし。
「なんて、読むんだ? あ、アドミッション……??」
うーむ、分からん。これは英語でもなさそうだ。
取り合えず、俺はその本を開いてみることにした。
「───むぁ、ゴホッ、ゴホッ!」
ハードカバーの表紙をめくった瞬間、分かってはいたけどとんでもない量の埃が舞ってしまった。そしてそれが俺の顔面に舞って目やら鼻やら大変なことに。……くそう。
まず、1ページ目をめくると、始めに『Table des matières』と書かれた文字の下に、ズラーーっといくつも項目が並べられていた。……見るに、多分目次だろう。なんたって1ページ目だし。
俺はそんな短絡的思考でいいのかとごちりながらも、俺は軽快にペラリと頁をめくる。……んん? なんだ? 始めから最後までまったく改行してないとは。恐ろしいな、この本。頭が痛くなりそうだ。きっと聖書かなんかなのだろうか。……ウチは仏教だからなぁ、申し訳ないけど。
……ん? ここだけかっこ書きされてる。その文字を指を這わせながら読む。
『Je voudrais』
これまた日本語はおろか、英語ではなさそうだ。分からん。まったく。
しかし、なんだか読めないでもないような気がして、俺はその言葉を口にした。
「Je……voudrais…?」
俺がその言葉を疑問形で発したその瞬間。
──────ピカッッ!!
本の前ページからから眩い光がほとばしった。
それは次第に俺の視界をも奪い、あたり一面は瞬く間に真っ白に塗り替えられる。
「ぅおうっ!?」
俺は咄嗟に目を閉じた。と同時に、俺はちょっと光が収まるまで待ったら、こんなおかしな本閉じて、さっさと昼寝しようとこの先の過ごし方を計画した。
しかし俺のそんな春休み最終日の優雅な過ごし方が決行されることはなく───。
結局その光は、当分の間収まらなかった。
・・・
・・・
やがて、光に慣れてきた頃。目の裏の白さが薄れてきたのを感じ取ると、
「……。もう、いいか?」
おそるおそる目を開ける。
その時、俺は夢でも見ているのかと思った。
しかし、この俺の肢体に感じられる冷え冷えとした感触。一瞬で変わった場の空気。
……いや、どう見ても夢だろ、これ。
これが夢じゃなかったら、一体俺はどんなゲームの世界に迷い込んだって言うんだ? ありえない、ありえないから。
そこは、明らかに俺の家ではなかった。
「…………は?」
俺のまわりに囲むように作られている、トンネル上に伸びたメタリックブルーの床と壁。地下鉄の雰囲気に似ていたが、どこか未来的なイメージを醸しだしている。
───ここ、どこ?
言葉は、Googleの翻訳を利用しています。
意味は多少変わってくるでしょうけど、ご了承ください。
タイトルのAdmissionは、「希望する」という意味のフランス語です。