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7世紀越えの喧嘩を仲裁した化け狐ΔΔ  作者: neluasob


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プロローグ 西暦2623年4月16日


むかしむかし、世界がまだひろくて、あらゆるものがきらきらと輝いていたころ。

人間と妖魔は、手をとりあって仲よくくらしていました。


街は活気で満ち溢れ、みんなが笑顔でした。この平和はずっと続くのだろう。

誰もが信じて疑わなかった現実は一夜にして終わりを迎えます。


あるとき、食べるものに困った妖魔族達が、たくさんの実りに恵まれた人間の国おそったのです。

永遠の平和など存在しませんでした。

これが、長い戦いのはじまりでした。


火の粉はたちまち広がって、あちこちを巻きこみました。

昼も夜も妖術がぶつかり合い、世界は血と涙でまっ赤にそまりました。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「調子はどうだ?テイルス」

 

 白髪がところどころ目立つ、老けた男。

 若かりし頃の面影はまだ残っている。

 しかし、こいつが精悍な顔立ちをした好青年だったことを完璧に覚えてるのは僕だけだ。 


 「あのなあ、僕はテイルスじゃなくて、天霊神狐(あまつちたまみつね)大御神(だいみかみ)だ」

 「そんな大仰な名前、アメリカ人の俺が言えるわけないだろ」

 「半分日本人だろお前。日本語だって流暢に喋ってるし」

 「まぁまぁ。日本から来たキツネなんだぞ?そんなのテイルスって呼ぶに決まってるじゃないか」


 こいつはかれこれ50年近く同じことを言い続けているが、僕は未だに意味を理解できない。

 一体誰なんだテイルスというのは。

 日本の人間界では有名なのだろうか?

 そんな名前、聞いたこともないが。


 「それで今日はどうしたんだ?仕事の話をしに来たわけじゃなさそうだな…」


 僕にとっての人間最愛の友、マックスの右手にはボトルが握られていた。

 琥珀色の液体がボトルの中で波打っている。


 「ウィスキーか?今は職務中じゃないのか?」


 つい数百年前まで、人間のルールに疎かった僕だが、今ならよく分かる。

 職務中に酒を飲むのは良くないことだ。


 「今日は休みなんだ。暇だし、お前と少し話そうかなって」


 マックスは琥珀色の液体を、氷の入ったグラスに注ぐ。

  出会った頃は辿々しかったマックスだが、今やネイティブと遜色ないレベルで日本語を使いこなしていた。


 「お前との出会いも今となっては懐かしいな」

 「あんまりいい思い出じゃなかったけどね」


 数百年前、争いばかりしている日本に飽きた僕は世界を旅行してみたくなった。

 数百万里も海を泳ぎ、ようやくたどり着いたのがここアメリカだったのだが…。


 残念なことに歓迎されなかった。


 「途轍もないパワーをもった何かが猛スピードでアメリカに突っ込んできたんだぞ?そりゃあ俺たちが出動するのも無理はないだろ」


 懐かしそうに眼を細めるマックス。 

 

 「まぁ一理あるけどさ。僕の言い分も聞かずに鉛玉を一斉に打ち込んでくるのはおかしいだろ」

 「そうだな。銃弾の雨を全部交わして、特殊部隊全員が瞬時に武装解除された時は死を覚悟したよ。お前が友好的じゃなかったら俺たち…いやこの国は終わっていたな」

 「嘘つけ。この組織なら強力な対抗策ぐらいいくらでも保有してるだろ」


 異国に上陸した僕に対して、手厚い対応で出迎えてくれたコイツらは秘密の組織だ。

 僕みたいな異常な存在(妖怪)を隔離して世界の平和を守る正義の組織らしい。


 「お前が俺たちの味方に付いてくれてマジで助かったわ。本当にこんな待遇でよかったのか?お前なら一瞬で逃げられるだろうに」


 現在僕は組織に隔離させられていた。

 組織の施設内なら自由な移動は許されたが、それが嫌なら日本に帰れと言われた。

 もちろん、今すぐにでも逃亡してアメリカ国内を自由に観光することはできる。

 しかし、どうせ数万年もすればこの組織もなくなることだろう。

 それに、無限の寿命を持つ僕にとって、人間に隔離される生活というもの興味深いものがあった。

 つまり暇つぶしでしかないのだ。


 「なぁ、一つ頼んでいいか?」

 「なんだよ」


 僕は即答した。

 この世に顕現してから一千万年。

 唯一友と呼べる存在の願いだ。

 叶えてやるのもやぶさかではない。


 「実はな、俺…孫が生まれるんだ」

 「マジかよ。おめでとう!!」


 ぎこちないが、幸せそうな笑みを浮かべるマックス。

 御覧の通り、此奴は社交的な人間じゃない。

 人間の友達もいなかったはずだ。

 今思えば、同族との交友関係が皆無だった僕と、互いに惹かれあったのも必然的だったのかもしれない。

 

 「それで俺はどうすればいい!?名前でも授けてやろうか!?」


 僕は勢いよく席を立った。

 親友の家族がまた一人増える。

 家族を大切にする妖狐にとってそれはとてもめでたいことだ。


 「いや…偉大な妖狐様に名前を授かるのは大変うれしいんだが…すまん、もう名前付けちまった」


 少しがっかりする。

 まぁ、いいか。

 マックスの息子の名付け親は僕なのだから。


 「それで…困ったことがあってな…」

 「うん」


 親友の困りごとなら、聞かない義理なんてない。


 「俺の孫、日本で生まれる予定なんだ」


 一瞬、僕の思考は凍り付いた。


 「日本!?今世界で最も危険だといわれる紛争地帯で!?」」

 「そうだよお前の故郷だよ」

 「一体どうして!?アメリカに来ればいいじゃないか!」

 「実はちょっと複雑なんだよ…」


 マックスは酒臭い溜息を吐いた。


 「俺、ハーフじゃん」

 「うん。日本人とアメリカ人のな」

 「で、俺の息子は日本人と結婚して、アメリカ人の血は八分の一。」

 「それの何が問題なんだ?」 

 「問題は俺の息子が日本人の陰陽師名家に婿入りしたことなんだよ」

 「つまり…?」

 「ほら…お前の国の陰陽師って呼ばれてる奴ら、血筋にうるさいだろ?」 

 

 あーなるほど、八分の一だが、外国人の血が入ってしまっている孫を憂いているのか…。

 

 「それに今、妖怪と人間は絶賛戦争中だ。名家に生まれた俺の孫も間違いなく陰陽師になって戦争に参加しちまう」

 「あー。つまり何が言いたいんだ?まさか、妖怪と人間の紛争を解決してこいって言いたいのか?」


 いくら何でもそんなこと…。


 「いや。大層なことをお願いしたいわけじゃねぇんだ。ただ少し、俺の孫が少しでも生きやすいように手助けしてほしいっていうか…。近くで見守って欲しいんだ」

 「まぁなんとなくわかった。いいよ、お前の最後の願いだし。偉大な妖狐様であるこの僕がお前の要望を聞き入れようじゃないか」

 

 キナ臭いことを言ってしまった。


 「それで僕はどうすればいいんだ?」

 「人間の赤ん坊へと転生する」

 「…は…?」


 待て。

 こいつ今なんて言った?


 「大丈夫!安心しろ!お前の魂を憑依させるだけだ!」

 「大丈夫なわけないだろッ!依り代はどうするんだよ!要するに赤ん坊の体を乗っ取るわけだろ!?」

 

 そんなことをしてしまえば、赤ん坊の魂を殺してしまうことになる。

 いくらなんでも可哀そうだ…。


 「大丈夫だ!お前の魂は死産した赤ん坊にしか憑依できない仕組みになってる」

 「…つまり元から空っぽの器に僕が憑依するってことか…?」

 「そう!それなら、非人道的じゃないだろ!?」

 「ま、まぁそれなら…?」 


 本当にそうなのか…?

 妖怪が気にする柄じゃないのは承知の上だが、本当に非人道的ではない?

 マックスの勢いに飲まれて頷いてしまったが、大丈夫だろうか?

 コイツ…孫のことを案じ過ぎて周りが見えなくなっているのではないだろうか?


 「でもさ。お前の孫の近くで、同時期に死産する赤ん坊に転生する妖術なんて都合のいいものあるのか?」

 「実はあるんだよ。西アフリカのある地域に伝わる邪悪な呪術の一つに。死産した赤ん坊に自身の魂を憑依させるものが」


 へぇ…。一千万年生きていたのに初めて耳にする内容だ。

 世界は思っていたよりも広いらしい。


 …。

 ……。

 ………。


 「って邪悪だって断言してるじゃねぇか!!」

 「へ!?あッ! い、いや違うんだ!どんな呪いでも扱い方によっては善にも悪にもなるだろ!?ただ、その術が、敵の一族の赤ん坊に転生して、中から家を滅ぼすために使われただけであって、術そのものに良いも悪いもない!!」

 

 まぁ、一理あるか…? 

 それにしても随分と惨い使われ方をしたものだ。

 邪悪な呪術と呼ばれても無理はない気がする。


 「えぇ…本当にそれ以外の方法はないのかよ?僕が日本に帰ってお前の孫の面倒を見るとかさ、そもそもマックスが日本に帰って面倒見ればいいじゃねぇか」

 「そうはいかないんだよ!そもそもお前妖怪じゃん!人間として接した方が絶対良い!俺も仕事の関係上日本には行けないし」

 「まぁそれもそうか…。」


 要するにここから人間に転生する儀式を行った方が都合が良いってことだよな…。


 「じゃあ…うーん…言いたいことは色々あるけど…仮にその呪術を使うとして、死産した赤ん坊はどうするんだよ。同時期にお前の孫の近くで生まれるなんて好都合あり得るか?」

 「これは賭けだが、間違いなく生まれてくる。だから俺を信じてくれ。もし、赤ん坊が死産しなければ、お前の魂は憑依できない。つまり何も起こらないんだ」


 まぁそれなら誰も殺すことはないな…。

 案外名案かもしれない。

 

 「要するに、これから生まれてくるお前の孫の近くの死産した赤ん坊に憑依して、お前の孫のことを死ぬまで面倒みればいいんだな?」


 僕は一気にまくし立てた。

 随分ややこしい文章だ。


 「死ぬまでとは言わない!だがまぁそういうことだ!」

 「はぁ…分かったよ、随分と面倒くさい頼み事だけど、聞いてやるよ」


 僕も随分とお人よしになったものである。

 しかしマックスとは家族同然。

 親友に家族を守ってほしいと頼まれたのだから、やるしかない。

 それに僕は暇だしね。

 たかが百年。

 無限の寿命を持つ僕にとってはどうってことない。


 「ところで孫の名前はなんていうんだ?」 

 「あぁ。そう言えば言ってなかったな」

 「うん。聞いてなかったわ」


 マックスはグラスを天に掲げると高らかに言った。

 

 「俺の孫、稲荷に!乾杯!」


 完全に酔っている。

 仕方がないここは乗ってやろう。


 「稲荷に!」


 僕はグラスを天高く掲げ、琥珀色の液体を一気に飲み干した。

 喉が一瞬熱くなる。

 しかしアルコールが即座に解毒されてしまった。


 人間のように酔うことはできないが、それでも親友と飲む酒はうまい。

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