第7章:謝罪
「……あれは、半年前のことだった」
管理人は、薄暗い部屋の隅で湯気の立つカップを両手で包みながら話し始めた。仁と酒井は、静かに耳を傾けていた。
「ある夜、うちに“新しい子”が来たんだ。デリヘルの待機場所として、しばしば女の子が顔を出すのは珍しくもないが……その子の顔を見た瞬間、時間が巻き戻ったようだった」
「……写真の女の子に、そっくりだったんですね」
「そっくりどころじゃねぇ……あの時の“あの子”が、もう一度目の前に現れたのかと思った」
「でも実際は……その子の娘だった」
「ああ。自分から名乗ったよ。『母は、白浜第五小学校の失踪事件の生存者です』ってな」
酒井の表情がわずかに強張る。
「……それで?」
「“協力してほしい”って言われた。“30年前のことを公にしたい、でも普通にやっても握りつぶされる。だから、確かな証拠が要る”ってな」
「じゃあ……その“確かな証拠”っていうのが……」
仁が声を潜める。
「……写真だったんですね」
「そうだ」
管理人の声が、少し掠れた。
「俺は当時、交番勤めだった。現場にはいち早く駆けつけたが、警察の上層部はすぐ“単なる迷子”“集団家出”って片付けようとしてた。だが実際は……」
管理人は眉をひそめた。
「事故だったんだ。警察署長の息子が5人の子どもたちを車で轢いた。3人は即死。残りの2人は……生きていた」
「上は揉み消しに走った。現場の俺たちに嘘の報告書を書かせて、証拠になるものは一切合切、処分された」
「……でも、写真が残っていた」
「そう。白市仁……あんたの“じいさん”が撮ってた。あの人はおかしいと思ったんだろう。」
仁の指先がぴくりと動いた。
「じいちゃん…?」
「そうだ。白市弦。報道カメラマンだった。お前、知らなかったのか?」
「……聞いたことはある。昔は戦場にも行ってたって。でも俺が物心ついた頃には、もう亡くなってて……」
「正義感が強くて、言いなりにならない頑固者だった。あの事件のときも、署長に写真を渡すよう強く迫られたが──弦さんは違和感を覚えてた。だから、念のため2枚プリントしていた。1枚は提出、1枚は……家に保管されていた」
「……じゃあ、この写真は……」
「本物だ。なぜ裏に名前があったかって? あの子の娘が、そう書けって言ったんだ。“あの人に渡してください、きっと意味がわかるから”ってな」
「……俺が、渡されるべき人間だった……?」
「お前が“直接事件に関わっていた”わけじゃねえ。ただ、お前の“家”が、最後の証拠を握ってたってことだ」
管理人の目が細められる。
「……だから俺は、あの部屋をお前に取らせ、あの子を呼ばせた。そして写真を置いた。“全部揃った”んだよ。あとは……お前が、どう動くかだった」
ここで酒井が口を開く。
「じゃあ、ここまではあなたとその子の計画だったとして、警察に届けさせてそれで終わりですか?」
管理人は少し困った顔で…
「最後に彼女がこう言ったんだ、母はあなた達に何も憎しみを抱いていない、だけど1人だけ許せない人がいるって…」
「ここだけの話、警察署長もその息子も亡くなってるんだよ…もしかしたらこの事件にはまだ闇があるのかもしれない…」
そういうと管理人は最後に…
「今回のことは謝るよ…巻き込んですまなかった」




