第6章:対峙
ラブホテル「ルミナ」の裏手。駐車場を抜けた先にある、関係者用の古びたドア。
その前で仁と酒井は立ち止まった。
「……行くぞ」
酒井がノックをすると、中からガチャリと無骨な音がした。
「はいはい、どなたさん──」
扉を開けたのは、グレーの作業服に身を包んだ初老の男。管理人だ。皺の寄ったまぶたに、読めない笑みが浮かんでいる。
「白市さん……でしたな。先日はどうも。部屋の忘れ物はなかったと思いますが」
「それ、確認に来たんじゃないんです」
口を開いたのは酒井だった。軽く笑みを浮かべながらも、声は冷たい。
「一枚の写真の話です。あなたが、203号室に置いた写真のことですよ」
「……?」
「煙草の横にあった、古い集合写真。裏に“白市仁”の名前が書いてあったやつです」
管理人はふっと笑った。
「写真? なんのことやら……うちはいろんな客が来ますからなあ」
「そうですか。でもおかしいと思ったんです。203号室には仁がチェックインしてるのに、デリヘル店には“予約は未確定でキャンセル”と伝わっていた。つまり……」
酒井は一歩、詰め寄った。
「ホテル側から“客はいなかった”と伝えたってこと。できるのは──あなただけです」
管理人の笑みが、ほんのわずかに歪んだ。
「……あんた、何者だ」
「ただの友人です。それともう一つ。写真は、我々が警察に持っていきました。」
「……」
仁が口を開く。
「あなたが“今”話すなら、まだ意味はある。もしこれが本当に事件に関わっていたとして……あなたが渡した写真が“証拠”なら、共犯にもなり得る」
仁と管理人の視線が交差した。
しばらく沈黙が流れた後、管理人がぼそりと呟いた。
「……やっぱり、あの人の…」
仁が眉をひそめる。
「どういう意味ですか?」
「話すさ。あの写真のことも、あの子のことも。どうせ、俺ももう長くねえしな。墓まで持ってくほど、器用な人間でもない」
管理人は、部屋の奥を指さした。
「……中、入るか?」
仁と酒井は無言で頷いた。
静かにドアが閉まる音が、重たく響いた──。




