第3章:照合
帰宅後、仁は部屋の明かりをつけると同時に、写真を取り出してテーブルに置いた。
ラブホテルで拾った、古びた集合写真。
どこか埃臭い匂いと、指先にざらついた質感が残っている。
「……なんなんだ、これ」
5人の小学生が並ぶ。
昭和の終わり頃か、平成の初期と思われる服装。
くすんだ空。砂の校庭。
そして、右端の少女──
まるで、あの女の子が小さくなったかのように、顔立ちが似ていた。
画像検索AIに写真をかける。
複数の類似画像が検出され、仁はその中の一枚に視線を止めた。
《白浜第五小学校児童失踪事件(1994年)》
《5人の児童が行方不明に。2名は保護されるも、3人の消息は未だ不明》
《警察は事件性を否定せず、いまも捜査継続中》
見慣れた──しかし、30年は前の──新聞記事のスキャン画像。
その中に、同じ写真があった。
間違いない。
仁の手元にあるそれと、まったく同じ構図、同じ顔、同じ服。
仁は無言のまま、写真と記事を見比べた。
寒気が背中を這う。
皮膚の表面だけが、じんわりと汗ばんでいる。
彼女は、誰だったのか?
写真の中のあの女と、203号室にいた女は同一人物なのか?
だが、そんなはずはない。
年齢が合わない。時代が違う。
あれは“30年前の写真”だ。ならば、今の彼女は……?
頭の中で何かが崩れかけていくのを感じながら、仁はスマホを手に取った。
「……酒井……」
大学時代の旧友。
少しクセはあるが、情報に強く、探りものには勘がいい男だった。
通話を繋ぐ。
「……おい、酒井。ひとつ、変な写真の話していいか?」
電話越しに軽く咳払いが聞こえる。
『変な写真? なんだよ、いきなり。お前、また風俗でトラブってんのか?』
「ちげえよ……真面目な話だ。今、画像送る」
仁はスマホの画面を開き、テーブルに置いた古びた写真を撮影し、酒井に送信した。
しばらく沈黙。
『……これ、お前どこで手に入れた?』
「昨夜。ラブホで。灰皿の横に置いてあった」
『203号室、だっけ? お前が言ってたやつ。』
「……ああ」
『ちょっと待て……これって、たしか……』
キーボードを叩く音が続き、酒井の声が真面目なトーンに変わった。
『これな、白浜第五小学校の児童失踪事件。1994年。5人が行方不明になって、2人だけ保護された。残り3人はいまだに見つかってない。未解決だ』
「……知ってたのか」
『おぼろげにな。都市伝説扱いされてるけど、わりと闇が深い事件だぞ、これ。』
仁は唾を飲み込んだ。口の中が急に渇いている。
酒井は続ける。
『でな、この右端の女の子お前が言ってた“デリの女”そいつに似てるんだろ?』
「……似てるどころじゃない。あれは……同じ顔だ」
『でも、年齢が合わねえよな。30年前の小学生ってことは、今の女は40近いはず。でもお前が言ってたのは20代前半って──』
「……まさか、親子……?」
仁は言葉を失った。
『それから──』
酒井の声が一段、低くなる。
『この写真、裏に名前が書いてあったって言ってたよな。“しらいち じん”って。』
「ああ」
『おかしいだろ。偶然にしては出来すぎてる。お前が行った部屋に、30年前の失踪事件の写真があって、その裏に“お前の名前”が書かれてる』
「……」
『つまりな──これ、誰かが“お前に渡るように仕組んだ”ってことだよ』
仁は、息を呑んだ。
「……俺は、何も覚えてない。事件も、この子たちのことも、何ひとつ……」
『……これ、警察に行こう。俺も一緒に行く』
仁は、ゆっくりと頷いた。
まるで、頷くしか選択肢がないように──




