第2章:忘れ物
第2章:忘れ物
部屋を出てから10分ほど歩いたところで、仁はポケットを探り、顔をしかめた。
煙草が──ない。
煙草を忘れるなんてらしくもない。
すぐ戻れば、まだ清掃にも入っていないだろう。
ラブホテルのフロントで事情を説明し、203号室の鍵を借りる。
ドアを開けると、誰もいなかった。
ベッドには、まだ寝た跡の皺が残っている。
テーブルの上。
灰皿の横に置かれた煙草の傍に、一枚の写真があった。
古びた色調。
白黒に近く、粒子の粗い画質。
そこには、校庭らしき場所で並ぶ5人の小学生。
3人の男の子、2人の女の子。
仁は、右端に立つひとりの女の子に目を留めた。
見覚えがある。
──あの、女だ。
しかし、写真はあきらかに古すぎた。
30年、いや、それ以上前のもののように見えた。
不審に思い、仁はスマホを取り出して、デリヘル店に連絡を取った。
「……今日、203号室に来た子の忘れ物かもしれなくて」
だが、返ってきたのは意外な返答だった。
「白市さん? すみません、本日のご予約は未確定のままキャンセルになってまして……
女の子は誰も向かわせていないんです」
思考が、一瞬止まった。
──では、あの“女”は、誰だったのか。
もう一度、写真を見た。
5人の子どもたちの中に、知った顔はない。
けれど、右端の“あの女”だけは、確かに、仁の目の前に“いた”。
写真の裏に、インクの滲んだ手書きの文字がある。
──しらいち じん
仁はしばらく動けなかった。




