第16章:静かな決意
ラブホテル「ルミナ」の一室。仮設の空間には、わずかな蛍光灯の光が淡く揺れていた。
仁、酒井、みのよ、そして管理人。それぞれが口をつぐんだまま、テーブルを囲んで座っていた。
しばらくの沈黙のあと、仁が低い声で言う。
「……ここまで来た。あとは、どう動くかだ」
「このまま警察に持ち込んでも無駄だろうな」
管理人がぼそりとつぶやく。「川口と西村の関係、事件の隠蔽……」
みのよが震える声で言う。
「でも……逃げるわけには、いかない。私は……母のこと、父のこと、全部知ってしまった。知らなければよかったなんて思わない。だから……」
言葉が詰まり、彼女の視線が宙を彷徨う。その隣で、酒井が手を組み、テーブルを軽く叩いた。
「なあ、世間に流そうぜ」
全員が彼の方を向く。
「ネットでさ、配信する。動画でも文章でもいい。写真も手紙も、ぜんぶまとめて、俺たちが持ってる証拠を“外”に放つんだ。隠しても、どっかに残る。警察に潰される前に、世間に叩きつける」
仁が眉をひそめる。「……炎上覚悟か」
「覚悟?もう決まってるだろ?」
酒井は不敵に笑って言った。「みのよの父親も母親も、命がけで逃げて、生き延びた。弦さんだって命をかけた。だったら、俺たちもやるだけだ」
管理人が小さくうなずいた。「昔の俺なら止めてただろうが……今なら言える。“やれ”。その覚悟があるなら、やれ」
静かに、4人が視線を交わす。
ここにいる誰もが、もう後戻りはできないと悟っていた。
仁がポツリと呟く。
「……やろう。俺たちで終わらせよう、この闇を」
部屋の空気が、静かに、しかし確かに変わった。
暴かれる真実、揺らぐ正義。
この一歩が、すべてを変える――その始まりだった。