第14章:記憶の中の現場
4人は、言葉を失ったまま沈黙していた。
テーブルの上に置かれた古びた封筒が、その空気の中心に静かに存在していた。
みのよは、目を伏せたまま語り出す。
「この封筒……ある日、突然うちのポストに入ってたんです。差出人の名前も、送り先も書いてない。ただ、中にはあの写真と……手紙が入っていました」
彼女の声はかすかに震えていた。
「私は、家に帰ってそれを父に見せました。最初は……父、信じられないって顔してて。でも……写真を見た瞬間に、泣き出して──そして、話し始めたんです」
仁と酒井、管理人は黙って耳を傾ける。
「父は……川口達也さん──つまり、当時の警察署長の息子とはご近所同士で、ずっと仲が良かったって。よく一緒に遊んでたって言ってました」
みのよは息を整えるように少し間を置いてから、続きを語る。
「その日、父は仲の良い5人の友達と一緒に山に出かけたんです。小さな秘密基地を作る予定だったらしいです。でも、突然、車が猛スピードで突っ込んできた」
仁が無意識に拳を握りしめた。
「車から降りてきたのは、川口達也さんと、もう一人……達也さんの同級生だったそうです。達也さんは混乱しながらも、すぐに救急車を呼ぼうとしてた。でも……」
「もう一人の男が──後ろから、達也を殴った」
「……父はそれを見て……母の手をつかんで、必死に逃げたそうです」
短い沈黙が流れる。
「そのあと、2人は白市弦の家に行った。そこで泣きながら、何が起きたのかを話したそうです」
その言葉に、管理人が小さく目を見開いた。
「……思い出したぞ。あの日、弦さんから連絡があって現場に行ったんだよ。急いで山の方に向かった。だけど……誰もいなかった」
彼は遠くを見るように語る。
「血痕だけが、岩のそばに残っていた。けど次の日、現場に戻った時には……痕跡ごと、消えてた。血の跡も、足跡も。警察は“何もなかった”って言った。でも……絶対に、何かあったんだ。あれは“事故”じゃない」
仁と酒井は顔を見合わせる。押し黙ったまま、テーブルに置かれた封筒を見つめた。
写真、手紙、そして封印された“あの日”。
記憶の奥底に沈んでいた真実が、ついに浮かび上がろうとしていた。