第11章:再会
「──俺は、一度署に戻ります」
北川はそう言い残し、コートの襟を立てて弦の家を出ていった。
仁と酒井は、静かに顔を見合わせた。
しばらく後、2人はタクシーに戻り、後部座席に身を預けながら深く息をつく。
「……なあ、仁。これ、マジでヤバい案件だよな」
酒井が天井を見上げながら言った。
仁は無言のまま、フロントガラスの外に目を向ける。雨が小さく、ワイパーの音に混じっていた。
「ただの過去の事件の掘り起こしじゃない。警察組織、捜査の闇、もしかしたら人殺し……」
酒井が静かに言葉を重ねる。
「でさ……仮に、竹下と署長の息子が共犯だったとするじゃん。子どもを連れ出して、あの事件が起きた。だけどさ……」
「……“あの子の母親”だけ、生き残ってるんだよな」
仁がぽつりと答える。
「そう。なんで彼女だけ生かされてる? 事故で、たまたま? それとも──彼らにとって、生かす意味があった?」
車内に、重い沈黙が流れた。
過去の事件の輪郭が、いま急速に黒く塗り替えられていくようだった。
その時だった。
仁のスマートフォンが振動音を立てた。
着信表示には「ルミナ管理人」の文字。
「……はい、仁です」
『ああ……悪いな、急で。言っとかんとと思ってよ──“あの子”今、うちにいる』
仁と酒井の顔が、同時に強張った。
「……わかりました。すぐ行きます」