第10章:速報
白市弦の家。かすかに古書の匂いが漂う中、仁、酒井、北川の三人はちゃぶ台を囲んでいた。
「竹下聡一……生存者であり、加害者の息子と関係があったとなると──まだ何か隠してるだろうな」
酒井が言いながら、持ち込んだノートパソコンを操作していた。
「行方を追うとして、どこから調べる?」
仁が問いかけると、北川が腕を組む。
「今の身元登録、居所記録、あるいは過去に医療措置や生活保護を受けていた可能性があれば、警察の“照会リスト”に痕跡があるかもしれません。私の方で、非公式に当たってみます」
「なんか急に本格的になってきたな」
酒井が苦笑すると、北川はわずかに頬を緩めた。
「これでも捜査官の端くれですから」
その時だった。北川のスマートフォンが小さく震え、画面が光る。
彼は無言で画面を確認し、すぐに立ち上がった。
「……すみません。緊急の連絡です。署の方から」
仁と酒井が視線を向けると、北川は部屋の隅に移動して、電話に出た。ごく短い会話──しかしその表情は、徐々に強張っていった。
通話が終わり、北川は戻ってくる。
「竹下聡一の件……情報が入りました」
仁の体が僅かに硬直する。
「……まさか」
「遺体で発見されました。旧白浜団地の非常階段で。死因は転落──今のところ“事故”として処理されていますが、私は他殺の可能性も視野に入れています」
「……なんてタイミングだよ」
酒井が息を吐く。
北川は続けた。
「現場の第一通報者がいます。20代前半の女性。現場には残っていませんでしたが、現場周辺の聞き込みと映像で“何者か”がいた痕跡がある。目撃者によれば……細身で、黒いフードをかぶっていたそうです」
仁の表情が一瞬で変わった。
「それって……」
「恐らく、彼女です。“あの子”が、竹下聡一の最期の現場にいた」
静かに、だが確実に、事態は動き始めていた。