甘く苦く、そして深く
チョコレートを溶かすのに大切なのは温度。
そんな風に教えられたことがある。
レンジでチンでもいいのだけれど、ゆっくりと温めるように湯煎にかけてあげた方が、やっぱりチョコはふんわりと溶けていくもの。
時間はかかるんだけど。
そんな風にゴムベラで。
耐熱容器の中の甘い固形が溶けていく様を見ていた。
ゆっくりと。
簡単なのは、好きな型に流し込んで固めるだけかな。
ハートのかたちに丸。あとは、……。
年齢を重ねていくと、それはケーキに溶かし込まれることもあった。
ブラウニーは意外と簡単に美味しく焼けるの。
あとは、ココアパウダーも入れると色が綺麗で苦みも出る。チョコだけだったら、しっとり深い味。
ナッツやドライフルーツ、オレンジピールも、リンゴも合うし。
甘くしてもほろ苦くしても、酸味を効かせても美味しいものが、チョコレート。
カカオポリフェノールって体にもいいから。
どろりとしたチョコの液体を、耐熱容器から型へと丁寧に流し込む。ゴムベラで丁寧に取り、落としていく。
ゆっくりと広がるまだ淡い茶色の海は、固まる頃には深くなる。
私が作るのは、ただ単なる丸。
ハート型は、まだ気恥ずかしいから。
有名店のチョコレートを少しずつ食べながら微笑む君と、スーパーの安売りチョコを嬉しそうにほおばる君と。
何十年も変わらずに、毎年、私に作り続けてくれた君と。
「うん」としか答えられなかった私に。いつからか、甘いものも好きになった私と。
楽しみにしてしまっていた私と。
今年からは、私から君へ、愛を伝えよう。
「ハッピーバレンタイン」
まだ綺麗とは言えない丸いチョコレート。
御鈴の音に祈りを込めて。
「いつまでも愛しているよ」
と。
ずっと私の心を温めてくれた君へ。様々な味を教えてくれた君へ。今からでもいいかな。今度は、私からゆっくり温めるように伝えていくから。
変わらず、待っていてくれないか。
感想の温度差に「あれ?」と思われた方がいらっしゃいましたら、こちらの活動報告までいらしていただければと思います。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/651277/blogkey/3415726/