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第一編『生きて』/第一章「銀世界」

二〇二〇年十二月


丸襟の赤いコートを着込んだ少女が前をゆく。少女と言えど歳はもう十八で、ただその様はあまりにも少女であった。


駅を出ると銀世界であった。

厳冬の冷たい風を浴び、肩まで伸びたその真っ黒な髪を靡かせ、寒さに震えながら彼女はこちらを振り返り、その大きく真っ黒な瞳で僕の目を見て「さっむいねえ」なんて可愛らしく微笑んだ。そうして小さな手ですぐに折れてしまいそうな細い首にマフラーを巻き、白い息を吐いた。

僕が震えながら「じゃあ行こう」と言うと、彼女は大きく頷いて勢いよく僕の腕にしがみつく。彼女の控えめな胸が当たり、腕だけに暖かさを感じながら、笑顔の彼女と二人、冬の中をゆく。

彼女、朝川(あさかわ)さんは、いままででも一番楽しそうに笑っていた。

人混みの中、こちらを見上げて「ねえ藤水(ふじみず)くん。私たち、まわりから見たらカップルに見えてるんだろうね」と朝川さんは少し微笑む。ふと、この時間が永遠に続けば、なんてありきたりなことを思ってしまった。賑やかな雪国の観光地では家族連れやらの笑顔ばかりで溢れていた。僕らも笑っていた。でも僕たちの胸の中にある感情が他の人たちと少し違うであろうこともまた事実であった。

そうしてしばらく歩き、その地で有名な料理店に入った。席に腰掛け、二人でその地の名物である鍋を囲む。湯気の向こうに座る朝川さんの姿を見て、なにか夢の中にいるかのような感覚を覚えた。デザートのソフトクリームは幼い彼女の様によく合っており、なにか妙な罪悪感のようなものに駆られた。そうして僕ははじめて女の子と二人で食事をした。

その後、観光地の中心部から少し離れ、何故かこんな遠くに来てまで、どこにでもあるようなゲームセンターに入った。やかましい電子音が鳴り響く店内は少し薄暗く、他の客は僕らと同じ高校生くらいの三人組だけであった。

いつか女の子と二人でやりたいと思っていたリズムゲームやエアホッケーを楽しむ。まさかこんな場所、そしてこんな状況でやることになるとは思わなかったが。その後、朝川さんはクレーンゲームで小さな熊のぬいぐるみのキーホルダーを二つ取ってきて、「おそろいにしよ」と、その一つを僕に差し出してきた。今更こんなものになんの意味もないことは彼女もわかっていただろう。でもその考えすらももはや無意味であり、だから僕らは純粋な感情に身を任せ、お互いの鞄にそれをつけ合った。ゲームセンターを出ると、外は依然、厳しい冬であった。少し強まった雪が彼女の華奢な肩に積もり始めた。

冬がこんなに彼女を美しくさせるとは知らなかった。そしていずれ訪れる春はまた違う彼女を見せてくれるだろう。しかし僕らはその前にさよならなのだ。最後の冬になってようやく彼女と冬が合わさったときの美しさに気づいた。だからってなんだってわけでもないのだが、きっとそれはあまりに遅すぎた。


厳冬の中には冬化粧を纏う朝川さんがいた。そしてそんなまるでパッと消えていってしまいそうな彼女の姿を、ただ見つめるだけの僕がいた。

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