1 物語の始まり
ふと目を覚ますと、目の前には相変わらずのジンがいた。ジンはすっと立ちながら俺にこう聞いた。
「ピザって10回言って」
「はあ?何でだよ」
「いいからいいから」
「…ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
俺はジンに流されるままピザと10回言った。ジンはいつもこうだ。頭は決して悪くないがバカだ。だからいつも何が目的か分からない事を俺に言ってくる。
「よし言ったなーーじゃあここはど〜こだ?」
ジンは定番の肘ではなく地面の方向に右の人差し指を刺す。
「ん?いやここはコンビニーーーーどこだここ」
「ようやく気づいたか。どうやら俺たち、”異世界転移”しちゃったようなんだよ」
「異世界転移?…よくジンが言っていたなそんなこと」
「だから俺はこんなに冷静なんだよ。それに嬉しいから」
今は森の中にいる。そして俺は、何かが林の向こうから近づいてくる足音を感じた。
「おいジン」
「気づいてるよ」
そう。全てはピザから始まったのだ。俺たちの物語が。
「あ〜〜異世界転移したい!!」
俺とジンは深夜、腹が減ったのでコンビニへ行くとジンがまた変な事を言っている。
「本当なんだよそれ。異世界転移?転移はわかるが異世界ってなんだ?」
「お前は逆に何で知らないんだよトオル」
「興味がないから」
「はいはいそうですか」
コンビニまでの道はさほど長くないが、一話をするぐらいの距離はある。
俺たちが住んでいるのは家賃が5万程のアパート。近隣には一軒家が多いので深夜ではあまり大きい声は出せない。
「トオル、お前何買うんだ?」
「深夜だしサラダとサンドイッチにするよ」
「はあ〜〜わかってねえなお前は。深夜だからこそ二郎だろ」
「バカが」
そう何の変哲もない会話をしているとコンビニが見えてきた。コンビニは俺たち自炊ができない大学生の味方だ。ありがたい。
コンビニに感謝しつつ、眩しい灯りを浴びながら店内に入ろうとするとドアが開かない。
「はあ?閉まってんのか?」
「いや中に店員がいる。。どういう事だ?」
ジンは店員に開けてくれと叫び、ドアを叩く。だが店員は一向にこっちに気づく気配はない。
すると…
「うわあっ!!」
「な、何で俺たち光ってんだ!」
急に俺たちというか地面というかとにかく俺たちの空間が光だした。慌てているとジンは「まさか」と呟きなぜか興奮していた。
「おいジンーーーーー」
そこから俺の記憶はない。
「おいジンこいつは何なんだよ」
「狼の魔物…ワイルドウルフとでも呼ぼうか」
「あん!?なんて?」
「こいつはワイルドウルフだ。多分だが足が速い、そして肉食系だと思う。スライムみたいに甘い魔物ではないから気をつけろよ」
どうやらジンはかなり情報を知っているらしい。ジンが言うにはこの狼はワイルドウルフ。そしてスライムよりは強いようだ。流石の俺でもスライムぐらいは知っている。なんせ俺たちの世代はドラ⚪︎エが主流だったからな。知らない訳にはいかなかった。
「せっかく崖の上に来たのに諦めてくれないのか」
「しょうがない。魔物という奴はそういうものさ」
「……おいジン、まさかお前が俺をこの世界に連れてきたんじゃないだろうな?」
「何言ってんだよお前。俺はいつも異世界に行きたいと言っていただろ?」
反論はできなかった。
とにかく目の前のワイルドウルフをどうにかしたいと思った俺は”ここ”では頼りになるジンに何かできないかと聞く。するとジンは「試してみる」の一言だけ言って勝手に目を瞑った。
「おいジン!」
「ごめん今集中してるから」
ジンは右手を出し目を瞑っている。すると、次第に汗が出てきた。
「何してんだよ」
「ふウ〜〜〜〜」
「…おいジンそろそろ目を開けろよ」
ジンの体は全身の血管を辿るように何か得体の知れない光が放たれている。色は黄色。
「詠唱は…別にいいか」
すると同時に右手の甲に変な陣が組まれた円が発動した。
そしてやっとジンは目を開けた。
「おいトオル、俺の魔法図鑑No.5の魔法名を覚えているか?」
「5…?5は確か、、光の魔法で、光の光線が出る魔法だったな。えーーッと名前は」
なぜここで言う必要があるか分からないがとにかく今はジンに従うしかない。そして俺は頭に名前を浮かべていた。
「光の光線」
ジンながら結構安直だなと思ったが、本人曰く初級魔法?はこの程度の名前でいいらしい。中級魔法、上級魔法になってくるとジン曰くカッコ良すぎてチビるらしい。チビらない自信しかないが。
「で、その名前がどうしたジン?」
「まだ分からないのか?相変わらず疎いな。
今俺の体はどうなってる?」
「黄色に光ってーーーお前まさか」
「ああそのまさかだよ。よ〜く見とけよトオル。これが俺の最初の魔法だ」
ジンは崖下にいる狼に向かってこう言い放った。
『『光の光線!!!』』
ジンの右手の陣からその名の如く光の光線が出てワイルドウルフに直撃した。ワイルドウルフはそのまま倒れ、命を亡くした。
「お前それ…”魔法”か?」
「ああ魔法だ」
「どうだトオル、興奮したか?まあお前は何も感じないと思うけどな」
ジンは満面の笑みで語っている。
「ジン」
「あん?」
「…これが魔法なのか?」
「ああそうだぜ。魔法っていうのはな、可能性しかないんだ」
「面白いじゃないか」
今、魔法少年と少年に新たな物語が始まろうとしていた。