急変シリアス
急にシリアスぶっ込みます。平和な日常は続かない。
……
…………
「……ん」
目を覚ます。……あれ、私は何をしていたんだっけ。体を起こしてみるとカチャカチャ、と手足の方から金属製の何かが触れ合う音と冷たい感触がする。見てみるとそこには鎖があった。
(…………誘拐?)
あの屋敷、そこらのコソ泥は入る前に消し炭になるくらい防衛魔法がされているとか母様が言っていたはずなんだけど。ということはかなり手の込んだ用意周到な誘拐か。
(にしても誘拐されてこんな冷静なの、ほんとおかしいよなぁ)
多分、神様の祝福とこの体が原因なのだろうか。恐怖という感情が一切ないと言っても過言ではない。多分、神という上位種の本能が恐れを感じていないからだろう。ありがたいのか人らしい感性を失ってしまったと嘆くべきか、微妙な気分だ。
「試しに神様パワーで鎖取れるか試してみようかな。えーいっ__なんちゃ、って……」
……まじで取れちゃったんだけど。今まで私、この力を無自覚で持っていたの? 怖すぎる。一歩間違えていたら部屋壊してたしなんなら母様傷付けていてもおかしくはなかっただろうに。
「__、__」
誰かの話し声が部屋の向こうから聞こえてくる。その声はだんだん近付いてきているようだ。
(やばい、誰か来る……取り敢えず大人しくしておく? 寝たふり? いやまって鎖取れちゃってんだよな??)
既に残骸と化した鎖を手に悩んでいると、その間に扉が開いた。
「__ああ、既にお目覚めでしたか。姫様」
そして見えたのは、初老の男性に屈強そうな人が数人。初老の男性は私を見て胡散臭い笑みを貼り付けた。
「……だれ? あなた、かあさまの知り合いではないよね」
「いやはや、流石神子であらせられる。まだ生まれて一年足らずでしょうにそこまでの知性を有しておられるとは。あなた様のようなお方をずっと屋敷に監禁していたなど……あの愚かな女が憎たらしい」
「……」
恐らく母様のことを指しているのだろう。チリ、と怒りの火が心につくもなんとか抑える。感情に任せて暴れたりでもしたら何をされるか分かったものじゃない。
「神の子であるあなた様こそこの国を率いるべき真の王であります。さあ、怖がらず……私の言う通りにすれば全てが上手く__おや、鎖が壊れて……?」
「っ、触らないで!」
男の手が近付くのを咄嗟に振り払う。その時大きく風が舞って彼は扉の辺りまで軽く飛ばされ驚きの表情をするも、すぐに笑みを貼り付けた。
「……これはまた、随分とお転婆な姫様であられる。恐れずとも良いのです、あなたはこれから私と共にこの国を統べる者へと……」
「ならない」
少し大人しくしておこうと思ったけど、やっぱりやめた。この男なんだかすっごい気持ちが悪い。生理的に受け付けないというか、神としての本能が〈これ〉は私にとって悪いものだと告げている。
「あなたはわたしの肩書きがほしいだけだ。甘い言葉でわたしをいいように利用するつもりなんでしょ」
「……ッチ」
そう言えば男は先程までの笑顔を崩し、苛立ちを露わにした。
「ガキのくせに生意気な……こっちが下手に出てやってるっていうのに反抗してきて__あのクソ女ソックリだ! 何を言ってもお前を渡そうとしないで……」
「……かあさまに何かしたの?」
母様は私を連れ去ろうとしていたこの人たちから私を守っていたのだろう。でも、今私はここにいる。母様はごく普通の人間、後ろにいる屈強な男たちに立ち向かえるとは到底思えない。
「ハッ、大事な大事な〈かあさま〉が心配かぁ? あんなクソ女、死んでも誰一人悲しみやしないと思ってたがそれは勘違いだったようだな。ここに一人いた!」
ゲラゲラと下卑た笑いが耳を汚染する。……こいつ、なんて言った?
「……かあさまを、どうしたの」
「ハハ、まさかお前覚えてないのか? 大事な大事な〈かあさま〉が目の前で殺されたってのに!」