新しい市
街へは予定どおり3日で着いた。途中で川の氾濫や王の雇った山賊が襲ってきたが知ったこっちゃなかった。そんなものはリスク管理のうちだ。メロクズはスケジュールとリスク管理のできる男だった。ただ、いっときの感情で全てが無に変えることが多いだけだ。
「ああ、メロクズ様」
街に入ると見知らぬ女が声をかけてきた。ナンパか?俺も有名になったものだ。セリクズティウスよ、許してくれ。お前はいつでも俺を信じた。俺もお前を欺かなかった。俺たちは、本当に佳い友だったのだ。ただ俺はもう間に合わない、これからこの女とホテルに…
「セリクズティウスの妻でございます」
「セリクズティウスの妻!?!?」
あいつ、結婚していたのか。俺にそんなこと一言も言ってないのに。呆れた友だ。生かしておけぬ。メロクズは激怒した。アンガーコントロールはもう、必要なかった。
激怒したメロクズは疾風の如く刑場へ走っていった。刑場へ着くと、セリクズティウスが丁度処刑されるところだった。
「セリクズティウスー!!!!」
激昂したメロクズは刑場へと突っ込む。
「ったく…おせえよ」
腕を後ろ手で縛られていたセリクズティウスは体内に隠し持っていた短剣を吐き出すと、メロクズへと蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた短剣を受け取ったメロクズは、両隣の刑吏を斬り捨て、セリクズティウスを解放した。
「お前、金返せよ。てか結婚したなら一言連絡しろ」
「お前とやったことが嫁にバレたら100%振られるだろ」
メロクズとセリクズティウスはお互いを罵り合った。2人は学生時代を思い出した。2人なら、どんなことも乗り越えられる気がした。
「何をぼさっとしておる!早くそ奴らを処刑しろ!!!!」
刑場へ響き渡る王の濁声。刑吏たちは次々と襲いかかる。
「お前、獲物持ってんの?」
メロクズはセリクズティウスに問う。
「もちろん」
セリクズティウスはそういうと、体の中からもう一本、上半身ほどの長剣を取り出した。
「鍛冶屋であるからには、剣の1本や2本身体に隠し持っておかないとな」
「で、腕は衰えてないんだろうな」
セリクズティウスに向かって左右前後から刑吏が襲いかかる。
「お前に剣を教えたの、誰だと思う?」
ニヤッと笑ったセリクズティウスが言い終わるや否や、既に剣を振い終わっていた。足元には、襲いかかった刑吏の死体が転がっていた。
「ば…化け物…」
王は震えながら言う。
「「化け物??」」
2人は声を揃えて言う。
「失礼だな、これこそが王の想定していた人間の姿だろう」
セリクズティウスは王に向かっていく。王を守る人間は、もういない。セリクズティウスは呼吸をするように、王の首を切り落とした。
「革命成功だな。これからどうするんだ」
「とりあえずは解放された市民たちでなんとかするしかないだろ」
「そうか。落ち着いたらまた来るよ。今度は嫁を紹介しろよ」
「お前がまともになったらな」
メロクズとセリクズティウスは笑って別れた。1人殺せば殺人だが、その罪を問う行政を崩壊させてしまえば、メロクズを裁ける者は誰もいなかった。
その後、市民たちは考えた。市の名前にクズとついているのが良くないのだ。人間の名前にクズを入れるのもよくない。どちらも縁起が悪い。
市の名前は、シラクスとなった。メロクズとセリクズティウスの子孫には、メロスやセリヌンティウスという名前の赤子が生まれた。その者たちがまた、市の行政を救うのだが、それはまた、別のお話。