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第6話 ルシファー様、無理って言う

 今日も始まった作戦会議だったが、俺は昼間のやらかしのせいでかなり萎縮してしまっていた。ちなみにじいさんは外出中らしい。どこにいるのやら。


「まずは先日の成果について説明させて頂きます。現在WOWTUBE急上昇ランキングにも掲載され、再生回数五十万二千と好スタートを切っておりますが……大きな問題が発生しております」

「問題って?」

「動画の時間が七分五十三秒しかないせいで、広告単価の高いミッドロール広告を設置できないという問題です」


 俺はその言葉にゆっくりと頷く。


「ですので第二回はもっと苦戦して尺を稼ぎましょう。もちろん最後は倒していただきますが、再生箇所を分析するとやはり戦闘の場面が一番多く」

「いや、第二回とかないから」


 何を勘違いしているのか、つらつらと続く彼女の言葉を俺は遮る。


「昨日は二人がやれっていうからやったけどさ……さすがに第二回やるなんて」

「〇.二円」


 が、今度は彼女が遮る番だ。


「現在の我々のチャンネルでの一再生あたりの収益です。つまり前回の動画の収益は……十万四千四百円となります」


 その額に思わず生唾を飲み込んでしまう。なにせ我が家の経済状況を鑑みれば『破格の報酬』と呼べる額なのだから。


「もしこれがミッドロール広告を設置できた場合ですと単価が〇.五円に上昇します。ですので第二回も同じ再生数と仮定した場合は……二十六万一千円になります。それに昨日の動画の収益を合計すると」

「三十六万五千四百円」


 彼女よりも早く額を口にしていた俺。だって欲しいから、三十六万五千四百円は。


「時にルシファー様、本日は女性の御学友とお話していたようですね」」

「お前のせいでひどい目にあったんだけど」


 突然話題を変えてきたアスモデウスに棘のある言葉を返す。が、通じない。こいつはそういう奴だから。


「つかぬことをお聞きしますが、その際にお飲み物はどうなさいましたか?」

「こ、コーヒー奢りましたけどぉ?」

「なるほど、ですがそのコーヒーは……まさか百円の缶コーヒーではございませんよね?」


 完全に見透かされている。本当は近くの喫茶店で奢れば良いことぐらい、俺にだってわかっていた。けれど二人分のコーヒーですら明日の昼飯を犠牲にして捻出したもの。それをあえて今話題に出す意味は。


「……いくら小遣い貰えるんだよ、俺は」

「二割です。第三回もご協力頂けるのであれば、ですが」


 頭の中で再び計算する。七万三千八十円。欲しい、一兆円とか言われるより全然欲しい。生々しい金額だから。


「……では『五時ですよ!』でコラボ相手でも探しましょうか」


 俺の表情を察したのか、アスモデウスが勝手にテレビを付け始める。


 はいはい、やればいいんでしょやれば。




 で、今日の『五時ですよ!』は。


『それでは本日の探索者ファッションチェックのコーナーです! 昨日は秘密結社アルカディアの活動再開とMAITO氏の淫行発覚という大きな事件がございましたが……それでも本日もウエノダンジョンは大盛況です! ややっ、あそこにいるのではSランク探索者でカリスマギャルのかよぽん氏ではありませんか!?』

『え~何これぇ~? ローカル番組とかマジでウケるんですけどぉ~』

『そんな事言わずに……なんとこのかよぽん氏は世界でも珍しい女性のSランク探索者なんです! 彼女に憧れてダンジョンを目指す人も少なくないとか?』

『まぁあーしのとこに来るファンレターとかにもそんな事書いてますけどぉ……まぁ勝手に頑張ってって感じーっ』

『ファンレターはお読みになっている、と……』

『えっ、あっ』

『それよりもかよぽんさん、先日ここウエノダンジョンではルシファーという怪人が現れましたが……身の危険は感じておりませんか?』

『る、ルシファーなんて……あーしの魅力でメロメロにしてやるんだからっ!』

『あ、じゃあプロデュ……Pちゃんに呼ばれたんであーしはこれで。まったね~』


 とかやってたんだけどさぁ。




「おい佳代子ぉ! 何ファンレター読んでるってバラしてんだよ! お前カリスマギャルなんだぞ、イメージ大事にしろよイメージをよぉ!」

「ごめんなさい……」


 前回と同じように配信者の元に向かった俺達を待っていたのは、絶賛熱血パワハラ中のかよぽんとそのプロデューサー氏であった。物陰に隠れて様子を伺う俺立ちだったが、もう空気の重さが漂ってきている。


「ったく、誰がいじめられっ子で引きこもりだった売れない配信者をここまで育ててやったと思ってんだよ」

「はい……プロデューサーのおかげで」

「あぁ!? プロデューサー『様』だろぉ!?」

「……プロデューサー様のおかげです」

「これだから底辺高校もろくに卒業できなかった奴は嫌なんだよ」


 胃が痛い、帰りたい。金髪ミニスカギャルがしていい顔してないもんかよぽん。


「頭悪くてごめんなさい」

「聞こえねぇな」

「……佳代子が頭悪くてごめんなさい!」


 涙声の彼女の声が響けば、自然と俺の表情が曇っていく。いやもう完全にアウトだろこれ。


「ったく、さっさとオープニング撮るぞ」

「はい……」

「おい! その薄汚え涙でメイク落としたら承知しねぇからなぁ! タダじゃねぇんだよそのマスカラだってよぉ!」


 刺々しいプロデューサーの言葉の後には、かよぽんが鼻をすする音が反響する。あれだね、ダンジョンって岩ばっかりだからめっちゃ響くね。




「では行きましょうかルシファー様」

「待って無理なんだけど」

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