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第5話 ルシファー様、少女と出会う

 ダンジョンで淫行のMAITOとコラボした翌日、俺は予定していた講義を終えていたのに大学に残っていた。向かったのはサークル募集の張り紙がところせましと散りばめられた掲示板。


 作戦はこうだ。さぁ次もダンジョン配信しましょうと薦めてくるであろうアスモデウスに『ごめん今日はサークル活動があるから』と答えるため。


 これでダンジョン配信なんてやらなくていいだなんて、完璧すぎるじゃないか。




 なんて、思ってたんだけどさ。


「ダンジョン攻略サークルに……ダンジョン活動、ダンジョン、ダンジョンダンジョン……で、ダンジョン配信ねぇ」


 掲示板を埋め尽くすダンジョンの文字に辟易してため息がつい漏れる。もっとこう他にやることはないのか、なんて言葉が頭を埋め尽くしていると。


「っと!?」

「きゃっ!?」


 人とぶつかってしまった。その瞬間、一気に全身から血の気が引く。


「ご、ごめん大丈夫!?」


 なりふり構わず倒れた相手に駆け寄った。そこで尻もちをついていたのは小柄な茶髪の女性だった。まずい、折れたかも。しかしそんな心配とは対象的に、彼女は目を丸くして自分の体を見回していた。


「倒れてる……私が?」


 パッと見ただけで、怪我はどこにもなさそうだった。それどころか彼女は、何故か自分が倒れた事を心底不思議がっていた。


 けれど、それが何だと言うんだ。俺が彼女にぶつかってしまったのは変わりないじゃないか。


「本当にごめん、考え事してて周りが見えていなくて」

「わ、私こそごめんなさい……ボーッとしてて」


 頭を下げる俺に大して、彼女はあははと笑顔を浮かべる。


「立てる?」


 右手を差し出せば、彼女はそれを凝視した。


「あ……ありがとう、ございます」

「本当に怪我とかしてない? ごめん俺、人より力加減が苦手でさ。それで、えっと……」


 自分でも言い訳がましいなと思いながらも、一応の説明をする。しかし名前を知らないせいで、後の言葉が続かない。


「ヒカリ」


 それに気づいたのか、彼女はゆっくりと唇を動かしてから。


「十文字、ヒカリです」


 小さなその手で、俺の右手をそっと握り返してくれた。







 ぶつかってしまったお詫びにということで、俺と十文字さんは自販機近くのカフェスペースでコーヒーを飲む事になった。本当の所は彼女が怪我してないか心配で様子見したかったのだが、彼女はそれを笑い飛ばす。


「やだなぁ、転んだぐらいで怪我する訳ないよ」

「それだと、良いんだけどさ……本当に怪我してない?」


 温かい缶コーヒーを両手で持ち上げながら、彼女が俺の不安を笑い飛ばしてくれた。けど俺の心にはまだ不安がこびりついていた。


「してないよ? こう見えても頑丈だけが取り柄だから」


 彼女は缶を持ったまま、わざとらしく力こぶを作ってみせた。しかしその表情は一瞬にして曇を見せる。


「そのせいで子供の頃はゴリラ女とか呼ばれたけどね……」

「ああ、子供って残酷な渾名つけるよね」

「そうなんだよ、ひどくない!?」


 その言葉に力が入ったのか、缶がくしゃくしゃに握りつぶされ中身が少し飛び出てしまった。


 ……あれ、スチール缶だったよな。


「それで、何かあったら連絡してもらってもいいかな。病院代は遠慮なく請求してくれて構わないから」


 そう言いながら俺はルーズリーフを千切って自分の名前と携帯の番号を彼女に渡した。しかしあれだな、このやり口は。


「これが噂に聞くナンパ……」

「確かにそれっぽいけども! ……本当にさ、些細な事でもいいから」


 深々と頭を下げれば、彼女が座り直してくれた。俺の真剣さが伝わってくれたのかと思うと、想像以上に嬉しかった。


「わかった、もし調子悪かったらすぐに病院行くね? それでお名前は、黒井……ツバサくん?」

「冗談みたいな名前だろ?」

「いえ、とっても素敵だなって」


 自嘲気味な俺の返事に、彼女は真っ直ぐと否定する。


「普通の名字で……」


 が、今度は彼女が自虐する番だった。力が強かったり自分の名前が気に入らなかったりと、似たもの同士なのかなと親近感を覚えてしまう。


「あっ、それなら私の連絡先も教えなきゃ」


 それから彼女は未記入の英単語カードを取り出すと連絡先を記入し始めた。すぐに登録したほうが良いだろうと携帯を取り出したその瞬間。


 アスモデウス、の名前が画面上に踊った。うわ何考えてんだお前このタイミングで何回も配信で名前読んでるんだよバレたらどうするだよ。


「はいもしもし!?」

『ルシファー様、本日は三講目までだったと記憶していますが』

「と……友達と! ちょっと話し込んでて」


 横目で彼女の表情を盗み見れば、うんうんと首を縦に振ってくれた。


『なるほど、その御学友は女性ですか?』

「そ、そうだけどぉ?」

『良いですね、孕ませましょう』

「孕ませるとか馬鹿じゃないの!?」


 思わず。


 本当に思わずアスモデウス叫んでしまった。けれどその言葉は数少ない周囲の学生達の耳に入り、当然目の前の彼女にも聞こえており。


「ああああ、あのこれ、私の連絡先だから! ああああと名字はあんまり可愛くないから名前で読んでくれたら嬉しいかな!? そ、それじゃあ!」


 一気に顔を赤くした彼女は脱兎のごとくその場から逃げ出した。残された俺は一人虚しく、机に置かれた単語帳をめくりあげ。


「十文字ヒカリさん、かぁ」


 空々しく名前を呼んでも周囲の白い目は変わることはなく。


 ただ着信拒否されてない事だけを祈りながら、帰路につくのであった。




 で、帰宅した俺を待っていたのは。


「それでは第二回『復活のルシファー』作戦会議を始めます」

「はい……」


 有無を言わさないアスモデウスの一言であった。


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