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第31話 ルシファー様、感心する

「あっ、おはよう二代目……」


 翌朝、アスモデウスにと二人で茶漬けを頬張っていると青い顔をしたベルさんに朝の挨拶をされた。


「アスモデウスから聞いたよ、君があの時の赤ん坊だったなんてねぇ」


 ちなみに爺さんは朝から居ない。また忙しいのかねあの人は。


「あの戦いから何とか逃げ延びたアタシはさ、数年前に浅草に堕ちた訳だけど」


 しみじみとした声色で、ベルさんが着座する。


「どれもこれも、君の力になるためだったのかもね」


 そしてちゃぶ台を見回して、おおきなあくびを一つして。


「で、アタシの朝飯は?」

「……どうぞ、水道水です」


 アスモデウスは一瞬だけ眉をひそめ、グラスの縁限界まで注がれた水道水をベルさんの前にドンッと置く。何で当然のように朝食を要求しているんだろうこの人は。


「いや、お茶漬けとか」

「我々は食事しなくとも死なないでしょう」

「いや、アスモデウスは食べてるじゃん」

「習慣ですので」


 天使とか悪魔って飯食わなくても死なないんだという新情報を、サラサラの米粒と一緒に喉奥に流し込む。いや俺は食わないと辛いけどなぁ。


「あー……そういえばアサクサダンジョン攻略するんだっけ」


 とまぁ二人の険悪ムードに耐えかねて、つい適当に話題を切り替える。


「ではこちらをご覧下さい」


 それが功を奏したのか、アスモデウスがタブレットを食卓の前に置いてある動画を再生し始めた。


『皆さん……五時じゃないけど五時ですよ! ついに探索者ファッションチェックのコーナーが公式WOWTUBEチャンネルに登場でーす!』


 あの番組に公式チャンネルあったんだ。


『映えある第一回のゲストは……な、なんとぉ! 皆さんご存知の日本が誇る最強Sランクパーティ『暁の剣』の皆様にお越しいただきました!』

『……鷹宮だ』

『こんちはーっすタケルでーす』

『主よ……このような出会いをお恵み頂き感謝いたします』


 ご存知ではない三人組がそれぞれ挨拶を済ませる。ムスッとした顎髭の男に、糸目の優男、それから黒髪のシスターだ。


『さてさて、暁の剣の皆様は現在アサクサダンジョンを八層まで攻略済み、前人未到の最下層目前とのことですが……その意気込みはいかがでしょうか!?』

『やる事は変わらん。全て切り開くだけだ』

『もうリーダー硬すぎっすよ……はい、精一杯頑張ります!』

『このような過分な立場でいられるのも、全ては主のお導き……きっとその先にも私達が選ばれた意味があるのでしょう』


 レポーターの言葉になんとなく彼らの性格が伝わってくる。堅物、調整役、敬虔てな具合だな。


『なるほど……してシスターミサキさん、何でもダンジョンの最下層には天使様がいらっしゃるとルシファー様の配し』

『……は? 様?』


 と、ここでシスターの表情が一瞬で暗くなる。動画だけどこれそのまま流したのか、凄いな『五時ですよ!』。


『全く貴方は馬鹿なんですか脳に主のお恵みが足りていないんですか神が遣わせた天使様が人々を害する事などありえないでしょうしかもそのソースだってルシファーとアスモデウスですよ悪魔です悪魔皆さんだって七つの大罪ぐらいはご存知でしょうその二つが揃っていて配信などしているのですから我々を惑わしているに決まっていますそうです彼らが悪いのです彼らこそ全ての諸悪の根源見つけ次第地獄に送り返すのが一番でしょうそうですよねリーダー、タケル』

『その、なんだ。個人的にはルシファーという名は気になるが……』

『お、お手柔らかに~……』

『はいっ、それでは今日のファッションについてお伺いします!』


 見るべきものは終わったとでも主張するかのように、アスモデウスが動画を止める。


「滅茶苦茶恨まれてるじゃん」


 ていうかよくこの流れでファッションチェック出来るな凄いよそのプロ根性は。


「以上がアサクサダンジョン制覇に最も近い『暁の剣』の三人です。今回の目的は彼らより早く最下層に到達する事です」

「また床に穴開けていいのか?」

「いえ、ルシファー様は今回は指示役に徹して頂きます。最下層までの攻略は……狭山とベルフェゴールにやらせましょうか」


 なるほど配信はするけど社長として指示すれば良いわけだな……いやこれ指示するほうが大変じゃね?


「え、あたしも戦うの? こう見えて軍師タイプなんだけど」

「今回はルシファーのマネジメント能力向上も課題ですので」


 口を尖らせるベルさんを無視して、空になったお椀の上で両手を軽くパンと合わせる。


「ごちそうさまでしたっと……じゃ、夕方だな。大学終わったら真っ直ぐ戻るわ」

「いってらっしゃいませ」

「じゃ、夕方ね。それまでには戻るからアメ横で飲んでくるから」

「あなたは仕事です」


 俺と一緒に席を立とうとするベルさんだったが、虚しくもその腕はアスモデウスに掴まれてしまった。


「仕事って、なんの」

「今見たでしょう、それぐらいわからないんですか? 我々二人は」


 いや俺もわかんないけど。




「『五時ですよ!』に出演します」




 ……本当凄いな、あの番組。



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