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第四十六話「ガールズアンデッド」

 奇跡は二度も起こらないから奇跡なワケで、だけど、一度起こり得た事実はまた起こり得る可能性を秘めているのも真理で……。


 人格や記憶をちゃんと持って、アクスは一度蘇生している。ならまた、事実という名に変わった奇跡が、起こり得る可能性は十分にある。


 なのに、この二週間、アクスは眠ったまま目覚めない。ということは、あのとき大大陸(だいたいりく)博物館の地下での死霊術(しりょうじゅつ)で、奇跡は起きなかったということだろうか? そこにアクスを目覚めさせるヒント、そして、イリメラとシシリーを完全に蘇生させるカギがあるのではないか。


 いくら考えても答えは出ない。


「そういえば……、あれ? ウシ乳? ホウキ頭?」


 周囲に呼びかけてみても、返事はない。どうやら考え事をしている内に、二人とはぐれてしまったようだ。ちなみにウシ乳は巨乳のアリアのことで、ホウキ頭は髪を派手に逆立てているフェイのことだ。


 それはともかく、遺跡がある方角から、ズンッと腹に重く響く爆発音と、辺りを一瞬照らし出す閃光があがる。


「えっ!? ――今の何?」


 閃光により瞬間浮かび上がった情景に、ユロは目を見張る。作戦の準備も出来ていない状況で、フィガーによる陽動が開始されたことを驚くどころの騒ぎでない。


 暗がりの森の中、そこかしこに無数の人影があったのだ。


「あら? バレちゃったね。紹介するよ。ここにいるみんなは、君を殺しに来た刺客だ」


 闇の中に鈍く光る無数の目。えっ? 目? 人間の目は闇の中でこんな猫みたいに光ったりはしない。


「そして、彼らマリオネットを束ねるは、混沌教団(こんとんきょうだん)第四席を務める俺、セデュー・アロッソンだ。自分を殺す者の名くらい、知っておきたいだろうから、名乗っておこう」


 闇の向こう側にいる見えない男はそう続けた。


 断続的に起こる爆発と閃光。数か所から火の手が上がる。


 濃い闇がわずかな光源に薄められ、黒ずくめたちの姿がぼんやりと視認できるようになる。その手には、指に挟んで二本のナイフが握られていた。両手(あわ)せて四本のナイフが、ぎらりとわずかな光を反射する。


「ど、どうしてアタシを殺そうとするの? アタシを殺せば、合聖神化(ごうせいしんか)の完成は遠のくことになる。それはアンタたちにとっても本意じゃないはず……。アンタたちは世界を滅ぼすために、人為的な神を生み出すのが目的じゃなかったの?」


「残念。それは一人の暴走した男の妄言(もうげん)だ。我々混沌教団の総意ではない。むしろ君をこの場で殺すことで、早期リスクの排除につながる。また君を襲撃することで、『鍵』の所在を掴めるかもしれない」


「『鍵』? 一体何の事?」


「おっと、おしゃべりが過ぎた。続きはまた今度。って、君には今度はないか。残念」

 と、無数のマリオネットに紛れ、姿を見せないセデューと名乗った男は、嘲笑(あざわら)うかのように言った。


 そして、抑揚(よくよう)のない声で「やれ」――冷徹(れいてつ)な一言が、一斉にマリオネット達を動かした。


 ビュッと風を裂く無数の音が聞こえた。マリオネットの手に握られていたナイフが一斉に放たれたのだった。


 絶体絶命なのに、なぜか不思議とユロは恐怖を感じなかった。


 アタシがピンチのときはいつもアイツが来てくれる。そんな気がしたから。


 ツインテールがやさしく揺れ――――やっぱり来てくれた!


煉鎖(れんさ)三式(さんしき)開錠(かいじょう)! (うな)れ、蒼き炎狼(えんろう)シュッテンバイン!! 喪魔円葬(そうまえんそう)(おく)()!!」


 ユロの小さく細い身体を力強く抱き寄せ、アクスは魔装(まそう)を開錠した。


 八つの蒼い火球が即時四方に拡散し、飛来するいくつかのナイフと接触するや爆発。その爆風でもって、他のナイフもことごとくすべて一掃された。


「もう! 遅いんだから。何やってたのよ!」


「わりぃわりぃ。どうやら寝過ぎたみたいだ。で、ユロ、怪我はないか?」


「うん、ないけど。って、そんな普通にしゃべりかけてくんなぁ! アタシがどれだけ心配したと思ってるのよ!! …………でも、ホントよかった」

 アクスの袖を引いて、ユロはぐすりと鼻を鳴らした。


「ああ。またこうしてお前のもとに戻って来れた」

 と、屈託(くったく)なく微笑むアクスを見て、(ほお)紅潮(こうちょう)するのが自分でもわかるくらいに鼓動(こどう)が跳ねる。


「アタシのもとにだなんて……」

 くねくねと身をよじらせながら、ユロは嬉しそうに(つぶや)いた。


 ボサボサの赤髪。相変わらずの目付きの悪さ。以前となんら変わらぬ彼が、彼女の隣りにはいた。


「ユロ、お前、またなんでこんな所に? ここで何やってんだ?」


「えっ? ああ、そうね。レシアに頼まれた任務の途中でね。ちょっと、ウシ乳たちとはぐれちゃったのよ」


「ウシチチ???」


「それよりアクスこそ、よくここがわかったわね?」


「おお。まぁな。なんとなくこっちじゃないかという方を辿(たど)って来てみれば、案の定お前がいたってわけなんだが。オレとお前は一蓮托生(いちれんたくしょう)だからな。何かお互い引き合うものでもあるのかもな」


「ななな!? バ、バカ言ってんじゃないわよ!? そそそんな()()()みたいなこと……」


「えっ? 赤いなんだって?」


「なんでもない、なんでもない。アンタが気にすることじゃないわよ! そうよ、そう。それより、どうすんの? この状況」


 アクスが現れたからといって、無数のマリオネットに囲まれている状況に変わりはない。


「ヤバイ状況だってのに、お前、なんか嬉しそうだな?」


「そんなことないわよ!」


「そうかぁ?」


「そうよ! 気のせいよ」


 アクスはよくわからんと肩をすくめた。


「けど、なんでヤツら仕掛けて来ないんだ? 不気味だな」


 臨戦態勢を解かず、アクスは視線を薄ら暗い闇に投げ、ぼやいた。


「やはり現れたか。『鍵』の一つの所在がわかっただけでも、出張(でば)った甲斐(かい)があったというもの」


『鍵』というキーワードから連想されることは、ひとつしかない。アクスは自分の首にかかっているロザリオ状の鍵――ロザリオ・キーに目を落とした。


 そう。これは『鍵』なのだ。


 二週間、眠っていた間のこと。精神世界でのアゼザルとの会話が思い出された。

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