敵になる気はさらさらないので塩を送ってしまった
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動物の雄叫びとは到底思えない耳を劈く音が森中の木々を揺らして響き渡った。
「なんだあの音……」
「うわぁぁあああ!!!!」
「ッ?!」
直後に聞こえた声に、俺は聞き覚えがあった。
俺は足早に音のする方に走ると、既に近くの木々がなぎ倒されていて、小さな足跡が大きな足跡に踏み潰されていた。
息を潜めてその跡を追っていくと、そこは兄とそれに覆い被さろうとする大きな獣の瞬間だった。
あれは書物に載ってたデーモンベアか?!
兄はとっくに戦意喪失して、近くには刃が鍔ごと砕かれた剣が転がっていた。
「た、助けて……」
先日俺を蔑んでいた兄の口から出るにはあまりに弱々しい声だった。
"デーモンベアは爪で風の魔法を放って相手の武器を払ってから、口で火の魔法を放つ"
これ、進〇ゼミでやったやつだ!
ッてふざけてる場合じゃなさそうだ。
獣が兄に向かって火を放った瞬間、俺は息を吸い込んだ。
「《Ctrl+X》!!」
兄に向けられた火はその場で消失して、その直後に体に焼けるような魔力が流れ込んでくる。
クソッタレ、さっさと放ち返してやる。
「《Ctrl+V》!!」
デーモンベアは自身の火を浴びて、驚いたのか頭を振り火の粉を落とした。
「おい、肉達磨!!こっちだ!!」
俺が声を荒らげると、兄がこちらを見てギョッと顔を強ばらせた。
デーモンベアはギロリとこちらに視線を向けると、にやぁと顔を綻ばせた。
き、気色悪い……ただのクマならこんな顔しないもんな、知ってた!!なっんだあれ!!
頬をヒクつかせる間にもデーモンベアはこちらに近づいてくる。
俺は手を掲げ……ることをやめて、薙ぎ倒された道を引き返した。
そのすぐ後をデーモンベアが追いかける。
よし、いいぞいいぞ……もう少し、もう少しだ。
「こ、こわいよー!!でかいよー!!」
我ながら大根だな、まぁ効いてそうだしいいか。
デーモンベアにしばらく追いかけられたところでついにある一点にたどり着いた。
俺が振り返るとデーモンベアはギャギャギャと笑い声を上げながらゆったりと近づいてきた。
「何かおかしいか?」
にやぁとした顔は恐ろし……いや、やっぱりキモイな。
デーモンベアの動きがゆっくりになったおかげでよく観察もできる。俺の知ってるクマの顔に人間のデカい口がついてて、体は腹に甲羅が貼り付いている。
まじでマジで気色悪いな、なんだこれ!!
「グルゥアア!!」
「まぁそんな焦んなよ、今相手してやるから。」
俺は今度こそデーモンベアに手のひらを向けた。
「ユーロス!やめろ!!お前の適う相手じゃない!!」
兄は優秀な男だけど、やけに来るのが早いな。
さては転移石でも持ってたな?
おかげでデーモンベアが兄に気がついた。
一気に時間の余裕がなくなったじゃないか……。
俺は向けていた手のひらに力を込めた。