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3.異文化

「久しぶりだね、友斗。」

俺に呼び掛けてきたのは、見覚えのある顔だった。

「リンクさん。」

「やあ。」

この村では目立つ金髪の髪に、見慣れない服を着ているこの男の人は、リンクさん。

各地の村や町をめぐる行商人をしており、珍しい物資を売り歩いているのだ。

このフレイル村にも何度か訪れており、顔見知り兼、友人の関係になった。

「お久しぶりです。」

「うん。前にあったのは二か月ぐらい前だったね。後、敬語は崩していいよ。」

「ああ・・・ごめん。」

リンクさんは堅苦しいのが嫌いで、こうして年下の俺に対しても敬語を使わなくてもいいと言ってくれる、懐の大きい人なのだ。

「あれ、後ろにいるのは小鈴ちゃんかい?」

「こんにちは!」

「君と会うのも久しぶりだね。ところで・・・。」

そう言って俺と小鈴の顔を交互に見るリンクさん。

「まだ友斗と付き合わないのかい?」

「へっ!?」

「・・・からかわないであげてくれ、リンクさん。」

「あっはっは!ごめんね、小鈴ちゃん。」

「うう・・・。」

小鈴は唸って俺の背中に隠れてしまう。

リンクさんはたまに、こんなことを言って小鈴をからかうのだ。

「おお、郵便屋さん。毎度毎度世話になるのう。」

そこへ、香苗さんが俺達の前に出ると、リンクさんはまたへらりと笑った。

「お久しぶりです、村長さん。」

「うむ。お主も健在のようじゃのう。こんな村に何度も訪れるとは。」

「この村が好きなんです。」

どこかのんびりとした雰囲気を崩さないリンクさん。

香苗さんはそんなリンクさんに、一枚の封筒を差し出した。

「今回はどちらへ出します?」

「王都の知り合いに出したいんじゃ。構わんかの?」

「構いませんよ。王都は次に訪れる場所ですから。」

「おお、それは丁度良いのう。では、よろしく頼む。」

「確かに。あ、そうだ。店、寄っていきます?」

そう言って、リンクさんは傍にある店を指さした。

そこには、この村では見慣れない物が立ち並んでいる出店があった。

「遠慮しておこう。これから天神祭に向けての会合があるのでな。」

「では、後程歴史の話を聞きにお伺いしても?」

「それは構わんが、お主も物好きじゃのう・・・何度も話しておると思うが。」

「この村の歴史は、何度聞いても飽きないんです。」

またいつものへらっとした笑いに、香苗さんは苦笑しながら頷いた。

「では、夜にでも家へ来るとよい。」

「ありがとうございます。」

「ああ、そうじゃ。友斗、お前も来るのじゃぞ。」

「へ。」

突如指名され、我ながら間抜けな声が口から出た。

「先程の仕置きはまだ済んでおらんからの。」

そう言った香苗さんの目は、本気だった。

「・・・忘れてくれていてもよかったのに。」

「何か言ったかの?」

「なんでもないです。」

これは間違いなく徹夜コースだろうな・・・逃げたい。

「さて、もう行くとしようかの。郵便屋さんも程ほどにして引き上げるのじゃぞ。」

「はい。感謝します。」

最後にリンクさんと言葉を交わし、香苗さんは歩いて行ってしまった。

「・・・あの人、相変らず僕の事郵便屋さんって呼ぶんだよねぇ・・・

僕は行商人だって何度も説明しているのにさ。」

「あはは・・・。」

小鈴が苦笑いを浮かべる。

香苗さんにとって、名前で呼ぶより、郵便屋さんの印象が強いのもあるのだろう。

「ところでリンクさんは、今日も商売なのか?」

「村の人達にいくつか届け物があるんだ。友斗は今からアルバイトかな?」

「今から小鈴の家でな。」

「そっか。僕は数日の間はここで商売をしているから、買い物に来てよ。」

「ああ。それより・・・大丈夫なのか?」

パッと見は分からないが、周りの出店に立っている人や歩いている視線がこちらに向いているのが分かる。その視線は・・・重い。

「大丈夫。僕はこれでも何度かこの村を訪れているからね。まだマシな方さ。」

「・・・ごめん。」

「友斗が謝る必要はないよ。僕はこの村にとっての「異文化」そのものだからね。」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「異文化」とは、この村以外の場所・・・「王都」で暮らす人のことを指す言葉だ。

香苗さん曰く、このフレイル村はカランカ大陸ができた頃から存在したらしい。

それまで荒地だったカランカ大陸を、人々は力を合わせて切り拓き、小さな村を作った。

この村から人が流れ、周辺にまた村ができて、人々は健やかに暮らしていた。

だがある日、カランカ大陸の外から、新たな人間達がやってきたのだ。

その人間達は、カランカ大陸の中心に王都を作り、自分達がカランカ大陸の王だと言い放ち

それまで住んでいた先住民の生活を脅かすようになったのだ。

勿論、それまで住んでいた人々がそんなことに納得するわけがない。

お互いが歩み寄ればいいが、最早話し合いでは解決できなかった。

まもなく、先住民達との大きな戦争が起き、先住民達は戦争に負けた。

自分達が育て上げた土地も半分以上が取られてしまい、今ではカランカ大陸の隅っこにポツンとある。その末裔が、今のフレイル村なのだ。

先住民達と王都の民の関係は、時間が経っても元には戻らず、悪化したまま。

お互いを「異なる文化に住む者=異文化」と呼び合い、蔑み合う関係になっているのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「僕は確かに異文化だけど、友斗たちが王都に来たら、逆の立場になるのは皮肉だよねぇ。

もう少しお互いの文化を受け入れてもいいと思うのにさ。」

リンクさんが腕組みをして、難しい顔をしてそう呟く。

お互いにお互いを差別するような呼び方なんて、ない方がいい。

だが、そう簡単にいかない問題があるのだ。

「まあ、異文化の話はいいや。ところで、どう?何か買っていくかい?」

「いや、今日は・・・。」

そこまで言って、俺はあることに気が付いた。

「少し聞きたい事があるんだ・・・離れた所で。」

「勿論、構わないよ。」

リンクさんの許可も取れた傍で、小鈴はリンクさんの店の品物に目移りさせていた。

「小鈴、少し外す。」

「おっけー。リンクさん、品物見てるねー。」

「構わないよ。」

近くの家の影にリンクさんを連れて行き、二人だけになる。

「こんなところに引きずり込むなんて、告白でもされるのかい?」

「ちがう。聞きたい事があるんだ。」

そう言って、ポケットから朝届いた許可証を取り出して、リンクさんに見せる。

「!・・・それは、王都の入国許可証かい?」

「朝、こんな手紙と一緒に届いたんだ。聞きたいのは、これが、偽物なのかどうかなんだ。」

俺が差し出した手紙も受け取り、リンクさんは目を通し始める。

そして丁寧に便箋を閉じて、許可証と一緒に返してきた。

「まず、本物だね。間違いなく。」

「・・・そうか。」

偽物だったらこれで話は終わったのだが・・・。

「気になる事はいくつかあるけど、差出人に心当たりはないのかい?」

「ない。王都には知り合いがいないんだ。」

「正体不明の人物が送ってきた、王都への入国許可証かぁ・・・。

でも、その手紙を見るに、差出人は君の知り合いっぽいよね。」

「それは俺も考えていたことではある。」

この許可証を差し出してきた奴は、まず間違いなく俺の事を知っている。

だが何度も言うが、俺は王都には知り合いがいた記憶はない。

「後気になるといえば・・・ここかな。」

そう言って、リンクさんは手紙を開いてある部分を指さした。

「この16年前の約束・・・っていう部分だね。友斗は今いくつ?」

「14歳。」

「つまり、友斗が生まれる前から、この許可証は友斗の元へ届くことが決まっていたって事になるね。そこまでの事情まで僕は分からないけど・・・。」

「そこなんだよなー・・・。」

俺が生まれる前となると、このあたりの事情を知っていそう人は・・・親ぐらいのものだが。

「そっか。確か君の親は・・・。」

「・・・ああ。」

俺には親がいない。いや、知らない・・・と言ってもいい。

自分が赤ん坊の頃、フレイル村の入り口に捨てられていたところを拾われたと聞いている。

「とりあえず、この許可証と手紙は本物である事は間違いないよ。」

「ありがとう。助かった。」

「うん。それより・・・どうするんだい?」

「・・・分からない。」

リンクさんが言っているのは、許可証と手紙をどうするのか、という意味だろう。

いきなりこんな手紙が来て、正直戸惑っている気持ちの方が大きい。

王都なんて、自分には一生縁のないものだと思っていたから。

「・・・まぁ、君の思うとおりにすればいいと思うよ。」

そう言って、リンクさんはふわりと吹いてきた風に身を任せるように目を細める。

「王都に行っても異文化だという事が分かれば、たちまちいられなくなるだろ。

リンクさんが、フレイル村の皆によく思われていないように。」

「?・・・僕は別に何も感じないけどな。」

「そうなのか?」

村の皆に怪しいものを見るような目で見られて、何も感じないのだろうか。

「僕は変わり者だからね。色々な文化に触れる事が本当に楽しくて、そんな事に構っていられないのさ。」

「・・・・・。」

そう言ったリンクさんの顔は、本当に楽しそうだった。

「さぁ、そろそろ戻ろうか。小鈴ちゃんが待っているよ。」

「・・・ああ。」

手の中にある手紙と許可証をポケットに押し込み、俺はリンクさんの後を追いかけた。


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