最初の負け②
壇上に上がる時、目の前のフラッシュの多さにびっくりしたが眩しさはあまり感じなかった。それよりも他のメンバーを見たり、隣にいるジュピターの人たちを見たり、落合さんや田中さんを見たり、緊張の中ではあったが冷静に周りを見渡せている自分に少し驚いた。
会見が終わり僕たちは控室に戻った。控室ではもう自分らは仲間だという雰囲気ができていて少しずつ打ち解けていくのが感じられた。他のメンバーは自分以外のオーディションのことが気になっていたらしく、僕の所へ来て「ダンス上手いね!」と言ってくれた。嫌気がさして少ししかダンスは習っていなかったがそれでも習っていてよかったと思えた瞬間だった。
「ねえ、これ見てみてよ」
メンバーの一人がスマホでみていたSNSの画面を僕たちに見せてくれた。するとそこには僕たちの写真が写載っていた。中学生か高校生か、それくらいの子たちが並んでいるのをみて自分がその中にいることが夢のように思えた。
「うおぉーすげー!自分が載っちゃってるよ!」
隣にいるメンバーとともに微笑んだ。まさか自分がそんな存在になるとは思わずにここへ来たものだから不思議な感じがした。
これから始まるんだな、そう思っていた時、「おい、、、」と違うメンバーがそれとは違う画面を見せた。
メンバーが覗き込むようにして見てみると、そこには僕たちに対するアンチコメントが書かれていた。ファンからすれば僕たちは亜流で、伝統あるプラネット系のイメージを損なうと思われたらしい。
「ふさわしくない!」「そもそも全員ブス笑」。そんな心もとない投稿が蔓延し、いつしかそれは大きな大きな大火となってしまった。その現実に多くのメンバーは失望していた。
まだ僕たちは一言もメディアで発言をしたことがない。自分たちがどんな人間か世の人は知らないだろう。それにも関わらずこんなにもひどく言われるとは思わなかった。こんな最初から炎上するなんて、、、。
しばらくすると落合さん達が入ってきた。その時メンバーの表情は暗かったように思う。実際、僕も言葉を失っていた。
「落合さん、こんなことがあったんです」
一人のメンバーが近くにいって説明をした。初メディアでのお披露目の後でまだまだ互いに知らないことの方が多かったが、まるで先生と生徒のような関係が既に築かれていた。
「そうか、辛かったな」
落合さんは僕ら全員の顔を見た後に意外にもしっかりとした声で言った。しかし落合さんは落合さんで悔しい思いをしたと後で田中さんから聞いた。いつも表情を変えない落合さんの心情はいつもわからなかったがこの時は一番よくわからなかった。
悔し涙を流してるメンバーもいた。想像以上に落ち込んでいるメンバーもいた。しかし落合さんだけは前を見ていた。それは一種の強がりのようにもとられるだろうが僕にはそうは感じなかった。まるで、そんなのは痛くない、我々はこんなものではない、と自分で言い聞かせているようだった。その姿がメンバーの心情を少しだけだが変えた。そして、
「今回はこんなだったが次回は絶対に俺らは勝つ。それには多くの代償や痛みを伴うかもしれないがそれでも付いてきてくれるか?」
それは熱が込められたものではない。むしろひどく穏やかな言い方だった。しかし僕らの心の火は燃え盛った。
このままで終われるか!、、、。全員の気持ちが一つになったのが肌で感じられた。その表情をみて落合さんは少し安心したようだった。