オーディション②
オーディションなんか軽く受けるんじゃなかったと今更ながら後悔しているところもある。地元では人気だったアイドルのオーディション。友達に勧められて受けてみたけどまさか最終試験まで残るとは、、、。正直言って後悔と不安が同居している。
1次試験で落ちるだろうと思ったが受かり、さすがに2次試験で落ちるだろうと思ったがそこでも受かった。そのことを親や友達に報告するとみんな喜んでくれたがはっきり言って今の自分にとってはそれすら少し苦しかった。こんな自分が受かっていいものなのか。受かった後大丈夫なのか。同じ思考が一日に何度も反復される。
最終試験は都内のビルで行われた。親から受け取った電車賃を強く握りしめて僕は群馬から東京へ向かった。その道中は意外にも冷静だった。なぜそうなれたかと言えば、まだこの段階では引き返せると心の中で思っていたところがあるからだろう。もし辞退したってまだ中学3年生、子どもの我儘だって聞いてくれると思った。
最終試験何をやるのか僕は聞かされてなかった。言われたのは場所と日時だけ。恐る恐る会場へ行くとそこには自分と同じくらいの子たちが15人くらいいた。どの子をみてもかっこいい子ばかり。どこか自信がみなぎっているような感じがして余計に自分を下に見てしまった。
不安が増してきた時、2人の男性が入ってきた。一人はスーツ姿で七三に髪が整えられたまじめなサラリーマンのような人だった。もう一人はどこか落ち着いていて大人な感じの人だったが若干怖そうにも思えた。
入ってきて2人が位置につくと七三の人が司会を始めた。
「みなさんこんにちは。私、田中和弘。隣は落合寿久です。どうぞよろしく」
今までの面接では見なかった人たちでみんな驚いたがさらに驚いたのは若さだった。二人とも20代くらいにみえた。こういうのは年のいったお偉いさんがやるものだと思っていたので余計に驚いた。すると唐突に、
「これから最終試験を始めます」と言い出した。
この言葉に僕の周りの人たちは反応し速やかに姿勢を正した。いよいよ始まるのだと僕も手に汗握った。
「最終試験は面接です。我々2人と受験者1人の3人で20分ほど面接します。順番は手元の名前の順、10分後に始めます」
マナベは後ろの方だから少し安心した。心底自分がマナベでよかったと思った。何も話すことが決まっていなかったからだ。何も話せるものがない、特技もなぜ応募したのかも、まるで何もなかった。
また徐々に焦りはじめ、言われた説明も半分は聞き流してしまうほどだった。この先の不安感が常に頭の中にあった。
待機部屋は殺伐としていた。女子ならばこの中で話しかける人とかも出てくるのかもしれないがそうではなかった。全員が違う方向をみて面接で何を言うのか必死に考えているようだった。
もし自分が仮にも受かったとしたら、この人たちとずっと行動することになるのかな。自分の中でまたも不安感が出てきた。全員が怖い人間のように見えて、入れたとしてもその中でうまくやれるのか不安でしょうがなかった。そして僕は決心した。
よし!やめよう!もう辞退しよう!
小さいころから他人が怖くて自分のやりたいことを通さなかった。それにいつも嫌なことがあったらすぐにやめていた。その癖がこの場面で出たように感じた。
面接のときに辞退するように言おう。申し訳ないけどそれが一番失礼じゃないと思う。
そう思って僕はその空間のなかで異質な決心をしたのだった。
面接が終わり無事終了、群馬へ戻って普通の暮らしへ、、、とはならなかった。
面接が始まった時はもう辞退するつもりだったのでこのアイドルについてもう何も思わなかったが面接が終わった今、その考えはなくなっていた。
なんだ、あの人の眼は!言動は!心は!?
正直言って15年生きてきて初めての気持ちに僕はなっていた。一見怖そうなあの人が語る夢に僕は現時点で当事者ではないのに突き動かされていた。
僕のことを感化されやすい人間だと思うだろうがそうではない。面接室から出てきた子みんなが僕と同じ表情になっていた。一見怖そうに思えたが話をしてみてイメージがガラリと変わった。そして話を聞いているうちに僕にも夢ができた。
それは「このグループで上へ目指していく」ことだった。