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第十三話 弔花

 俺の投下したニトログリセリン入りの土器の筒は、地上戦艦のようなものに着弾すると轟音を立てて爆発した。

丹朱たんしゅと思しき絢爛たる衣装、爆発の影響であちこちに火が着いている衣を身に纏った男が甲板上で叫んでいる。


「素晴らしい!素晴らしい兵器だ。折輿せつよ、絶対に殺すなよ、生捕にしろ。拷問して製法を聞き出すのだ」


「そんな事にこだわっていたら敗れてしまう」


折輿せつよは夔竜に跨ったまま船の甲板に飛び乗った。

夔竜は腰を抜かしているし弩の射手を尻尾で払いのける。

俺は夔竜に向けて即席ダイナマイトを再び投げつけた。夔竜の首元でそれは爆発し、恐ろしい肉食恐竜は断末魔のうめきをあげてドウと倒れた。

しかし、折輿はと言えば倒れる夔竜から飛び退き、弩に取り付いた。最後のダイナマイトを折輿に投げつける。

しかし、これはうんともすんとも言わなかった。


「おや、ハズレもあるようだな。空の龍使いよ」


そうだよ。俺の知識やこの時代の技術じゃあ、信管がつくれなかったのさ。肥溜めからつくった天然由来のニトログリセリンをぶん投げているだけさ。

俺は首元のループタイ、飛行機に乗るときに京子さんからもらった龍のお守りを外すと、すぐ近くを翼竜に乗って飛行する麗花さんに投げてよこした。


「それ、持っててくれ」


「なぜだ。一緒に生きて戻るのだから……!」


麗花さんの言葉は最後まで聞けなかった。弩の矢が飛んできたために怯えた翼竜が勝手に回避し、急降下したのだ。


「俺の龍は死んだぞ……お前も同じ気持ちを味わえ!」


折輿の呪詛とともに放たれた二の矢は俺の乗る応龍の右目を貫いた。のみならず、矢は深々と応龍の頭蓋骨を抉っていた。貴重な翼竜の生き残りが、地上から消えようとしている。


「応龍……こんな事に巻き込んだばかりに、すまない」


舞い落ちる応龍の上で俺は弩、折輿が破壊し損ねた最後の一つに矢をつがえた。

俺の放った矢が折輿の胸に当たるのと同時に、折輿が放った最後の矢が視界に映り、そして世界の全てが白くなった。


 目が覚めると天井には電灯の光があった。

医師や看護師が慌ただしく出入りして色々つないだり外したりとか、枕元で自分の名前を叫ぶ京子さんだとかの一連の騒動が落ちついた後で、俺は状況を整理していった。

ハイジャックされた飛行機は上海国際空港で胴体着陸に成功したこと。俺はその時の衝撃で意識を失って、数週間ぶりにようやく目覚めたのだということ。

ハイジャック犯は逮捕されたこと。怪我をした乗客含めて、乗客は無事だったこと、などなど。

あれはタイムスリップだったのか、異世界転生だったのか、

それとも失った意識の中で見た幻だったのか。

俺は日本に帰国してから京子さんの助けを得て色々な文献にあたった。

丹朱たんしゅは結局は帝位を得られず、ぎょうの次はしゅん、その後はが帝位を継ぎ、王朝を開いた。そして、そのが、俺が助けた姒文命じぶんめいであるらしい。

拳龍氏かんりゅうし相龍氏そうりゅうしの対決は、禹が応龍おうりゅうを従えて相柳そうりゅうという怪物を退治した、という伝説に帰着したらしい。

多くの人々や出来事、崑崙族や庚申、あるいは無支祁などが伝説や史書に溶け込んでいた。

俺は胸元のループタイに手をやった。


「そのループタイ、意識を失っている間、ずっと離さなかったんだよ」


「おかしいな。麗花さんに渡したはずなのに……」


「ちょっと麗花って誰よ!」


麗花さんが子孫に代々このループタイを残していって、そのループタイを俺が麗花さんに渡して、よくわからなくなってきた。

怒って襟首をつかむ京子さんの顔を眺めていると、麗花さんとのあの夜の事を思い出してしまう。

麗花さんが子供を産んだとして、その父親は誰なのか?

まさかとは思うが京子さんは自分の子孫…………深く考えるのはよそう。


「中国での翼竜化石発見に関する続報です。これまでの研究では本来あり得ないとされる地層からの相次ぐ発見は……」


中国での発掘に関するニュースが図書館のテレビに映っていた。教授からも近況をたずねるメールが届いている。落ち着いたら、改めて中国の発掘現場に行こう。

そして、応龍や夔竜たち、全ての龍達に弔いの花を手向けるのだ。

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