第八話 八女・優結とその娘たち
要ちゃんに呼ばれて、愛ちゃんファミリーのみんなは食卓へ向かったけれど。お父さんと私は、残る優結ちゃんファミリーを集めます。優結ちゃんファミリーは我が家の動物さんたちのお世話をよくしているから、きっとお庭のどこかにいるはず! 広いお庭を前に、私はわくわく冒険気分♪
「よーし、探すぞー! なんて言っていたら、また誰か出て来ないかしら」
すると、近くの木立がざわざわと揺れました。何かいます。大きい……!
「ぶもおお……ん!」
木立の中からのっそりと現れたのは、大きなブタさん!
と、その上にちょこんと乗った、紬ちゃんです!
「おはよう。パパ。恵理姉さん。敷地内の動物たちは、みんな元気元気♪」
優結ちゃんママの長女、紬ちゃんは、動物さんたちととっても仲良し。しっかり者の小学二年生で、とっても頼れる我が家の飼育員さんです。今朝は自分も子ブタさんの帽子を被っていますね。
「妹たちを探してるよね。においをたどるから、ふたりもぽーくんに乗って」
紬ちゃんの後ろに私とお父さんがまたがると、大きなブタさん、ぽーくんが、ふごふごとお鼻を鳴らして、お庭の奥へ向かっていきます。
ぽーくんは、ハムブタという動物さんの女の子。ハムブタは、巴ママの勤める研究機関が異世界の技術も取り入れて生み出した新しい動物さんで、我が家にも色んな子たちがいます。一番の特長は、お肉を分けて食べさせてもらっても、しばらくしたら再生すること! ぽーくんのまあるい背中を、専用の柔らかいナイフで少し切り分けさせていただくと、とってもおいしいし、その後エサをたくさんあげて何日かすると、いただいた分が元どおりになっているんです。今ではウシさんやニワトリさん、シカさんなど、色んな動物さんが、同じ性質を持って世界中で暮らしています。もちろん昔からいた動物さんたちも元気です♪
「このあたりね……って、ぽーくんが言ってる」
たどり着いた広場では、ヒツジさんたちが丸まって日向ぼっこをしています。ここに誰かいるのかしら? ……あ、分かりました!
「めええええ」
私より先に気付いたお父さんが、一匹の子ヒツジちゃんを抱えてきます。いいえ、それは子ヒツジちゃんではなく……次女の牧ちゃん!
ヒツジの着ぐるみを着て、群れに混じっていたんですね。牧ちゃんも動物さんが大好きで、よく着ぐるみを着ていっしょに遊んでいるけれど、ときどきこうして完全に群れの一員になって、戻ってくるのを忘れてしまうんです。お父さんにだっこされながらも、まだヒツジさん気分のようで、お父さんのお顔をぺろぺろとなめています。紬ちゃんとぽーくんも、お父さんに頬をすり寄せます。ふたりも、お父さんが大好きですから♡
がしゃん。
すると、近くの地面が跳ね上がりました。それは、地下迷宮への出入り口。
「朝陽なのだ~! やっと出られたのだよ~」
「まぶしい、にゃ……」
マンホール型の出入り口から這い出てきたのは、三女の途ちゃんと、四女の珠ちゃんです。
途ちゃんはお散歩大好き、子イヌのような女の子で、珠ちゃんは寄り道大好き、子ネコのような女の子です♪
「寝起きのお散歩だったのに、すっかり迷ってしまったのだよ~」
「でも、出てきたらパパがいたにゃ。ステキなお宝げっとにゃ……!」
「おはようなのだよ~!」
我が家の地下には、自動増改築システムAIが作り上げた巨大迷宮が広がっていて、入るたびに構造が変わります。人気の遊び場で、我が家の冒険家コンビ、途ちゃんと珠ちゃんは特にお気に入り。入り込んではよく迷ってしまうけれど、迷宮各所に設置されたモニタは全て揺ちゃんの管理下なので安心です♪
「妹たちは、もう食卓に集まってるって……さっきモニタで揺ちゃんが言ってたにゃ」
「じゃあ、そこまで冒険なのだ~」
というわけで、リビングへ戻ってきた私たち。朝ごはんのいいにおいがしています。優結ちゃんファミリーの他のみんなはどこかしら?
あら……陽気でのどかなウクレレの音が聞こえてきました。そちらへ向けると、ゆっくり体を揺らして踊る小さな女の子。
「…………♪」
五女の唄ちゃんです。いつも夢を見ているようなぼんやりした表情の唄ちゃんは、音楽が大好き。気が向くと自分でオーディオを操作して音楽を流し、曲に合わせて踊り出します。おかげで我が家はいつも音楽に溢れています♪
私たちに気付いた唄ちゃんが、お父さんと私の手を取ってダンスに誘ってくれます。
「みんなで~おど~るのよ~♪」
三人で少しだけ踊っていると。
ずずず、とお茶を飲む音が聞こえました。
「たのしいねぇ」
リビングの隅で座布団に乗り、お茶を飲んでいるのは、六女の和ちゃんでした。
「みんなかわいいよぉ。おどりつかれたら、こっちでおちゃでも、のもうねぇ」
のんびりしていて、とっても落ち着きのある和ちゃんは、いつも私たちを優しく見守ってくれています。幼いのに、おばあちゃんのような安心感♪
「ふふふ、なごちゃん、お誘いありがとう。でも、お茶の前に朝ごはんだよ」
「あらぁ、そうだったねぇ」
優しい和ちゃんの頭を、私はなでなでしちゃいます♪
「悟もここにいる?」
お父さんが和ちゃんに尋ねます。
「ああ、さっちゃんはねぇ、どこかねぇ……きっといつものところだねぇ」
というわけで、お父さんと私がやって来たのは、我が家の最上階、十階にある庭園。小川が流れ、小さな滝もある、緑豊かな癒し空間です♪
お父さんは迷いなく歩を進め、滝の側へ近づくと……そこには、石に座って滝を見つめている小さな人影。
「悟、朝ごはんだよ」
お父さんの呼びかけに振り向いたのは、杖を持ち、おひげを蓄えた仙人さん……ではなく、おひげのようにスタイをあごにくっつけた、七女の悟ちゃんでした。
「ふむ……ときがきたか」
自然が好きで、ひとり草木を眺めていることも多い悟ちゃんは、浮世離れした雰囲気や貫禄もあるけれど、お父さんにだっこされてにっこりする姿は小さな子どもそのものです♪
食卓へ戻ると、元気な声が迎えてくれました。
「ぱっぱ、ねっね!」
はいはいでお父さんの足元へやってきて、抱き上げられたのは、八女にして末っ子の未来ちゃん。我が家の最年少で、見てのとおりのとっても可愛い赤ちゃんです♡ 好奇心旺盛で、虫眼鏡を手にして興味深げにみんなのお顔を覗き込むことも多いですね。
「うきゃっきゃ!」
まだ赤ちゃんだけれど、お父さんにだっこされて喜ぶ姿は、恋する乙女♡
未来ちゃんが泣き出して、おむつでもミルクでもなくて……ママやお姉ちゃんたちがだっこしても、泣き止まないとき。笑顔にするのはいつだってお父さんです♪ お父さんの気配がするだけで泣き止んで、笑顔になって、だっこされたら、今みたいにきゃっきゃと大喜び。おめめをまんまるにして、お父さんのお顔に手を伸ばして、指を握って、絶対離さないんですよ。
それは、未来ちゃんのお姉ちゃんたちが赤ちゃんだった頃と同じ。私もそうだったらしいし、ママたちもなんですって♡
「全員集合ね! 朝ごはんもできたわよー♪」
両手に大皿を乗せて、キッチンから優結ちゃんママが出てきました! 優結ちゃんママは、我が家の動物さんたちの主で、近くでは牧場も管理しています。お肉料理も得意で、今日も朝からボリューム満点♪
キッチンに入っていた他のママたちも出てきました。
「お父さんのお席はここです♪」
「とーちゃん、今日はいっぱい遊んでもらうから、山盛りにしとくよ!」
「バランスよく、ね」
理沙お母さんに、翔子ママ、凛ちゃんママ。
「あ~んってしてあげたいケド、今は娘たちに譲ろうかしら♡」
「では……私があ~んしてもらう……。まだちょっと眠い……」
「あ~んは順番ですね。デザートもお昼もあるし、一日は長いですもの♪」
美貴ちゃんママに、巴ママ、華弥ちゃんママ。
「みんな席に着いたわね。今日も朝から豪華ね……!」
「今朝にブタさんたちから分けてもらいたてのお肉よ。新鮮なの! 今はみんな、エサをもりもり食べてるわ♪」
愛ちゃんママに、優結ちゃんママ。
八人のママがお父さんを囲んでいるだけで、とっても大人な雰囲気になります。お父さんとママたちが交わす何気ないやり取りだけでも、積み重なった深い愛の歴史を感じさせて、私の胸は熱くなるの。
いつか、私も――。
「それでは、いただきましょうか」
――!
キッチンから最後に出てきたのは、沙織ママ。
一番最初にお父さんと結婚した人。我が家の女の子の中でただ一人、お父さんの娘じゃない人。
その姿はとっても綺麗で、いつ見てもうっとりしてしまいます。八人のママがお父さんと積み重ねた歴史に思いを馳せていた私は、そこに現れた、より長い愛の歴史を持つ沙織ママの美しさに、思わず息を呑んでしまいました。若々しいとか、成熟した美しさとか、どんな言葉もしっくりこない、ただただ綺麗なその姿。幸せな食卓を見渡した後、お父さんと交わす微笑みには、何より憧れてしまいます。
なんて私が見惚れているうちに、沙織ママの合図で朝食の時間が始まりました!
「せーの」
――いただきまーす!