第七話 七女・愛とその娘たち
柔らかな朝陽の降り注ぐお庭で、華弥ちゃんファミリーのみんなとじゃれついていると。
カンカンカン!
フライパンをお玉で叩く元気な音が響きました。
「みんな、ごはんよ! そろそろ集まってー」
愛ちゃんママの長女・要ちゃんです。キッチンのあたりから私たちが見えたのでしょう。お庭に面したテラスから、よく通る声を張り上げます。
小学三年生の要ちゃんは、ママに似てしっかり者。ツインテールの上にかぶった三角巾と、エプロン姿がよく似合っています♪
「みんなはここから入って。でも、パパさんはまだよ。しっかりみんなをつれてきて。妹たちは近くにいるはずだから」
てきぱきとした要ちゃんの誘導で、華弥ちゃんファミリーがテラスからお家へ入っていきます。お父さんと私は、お庭を探して愛ちゃんファミリーを集めなくっちゃ!
「さーて、みんなはどこにいるかなー」
「ここでしてよ」
私が気合いを入れていると、気品のある声が答えました。
目を向けた先には、小さなテーブルとチェア。テーブルにはクロスがかかり、日傘まで差されています。そこで朝ごはんの前からドレス姿で優雅にティータイムを楽しんでいるのは、次女の麗奈ちゃん。小さく縦に巻いた髪もよく似合う、お嬢さまのような女の子♪
「恵理お姉さま、私も手伝いますわ。ちょうど寝起きのティータイムが終わったところですの。お父さまもご機嫌うるわしゅう♡ このような場所でお会いできるなんて、まさしく早起きは三文の徳ですわね♪」
ティーセットを綺麗にそろえると、背筋を伸ばして立ち上がります。
「では行きましょうか。ノブレス・オブリージュですわー!」
麗奈ちゃんは働き者で、日課は朝一番の草むしり。白手袋のように身に付けた軍手はすでに少し汚れていて、もう一仕事を終えた後のようです。
次の子は――カランカランカラン!
にぎやかな鈴の音とともに台車を引いて、向こうからやって来ました!
「よってらっしゃい見てらっしゃい! みんな大好き☆早朝セールの時間やで~!」
あらわにした可愛いおでこをぴかっと光らせ登場したのは、三女の鈴音ちゃん。ちゃっかりした根っからの商人で、ティーテーブルの上に手際よく商品を広げ、あっという間にお店ができあがります♪
鈴音ちゃんにかかれば、いつでもどこでもお店に早変わり。お父さんの貴重な写真から家族の作品集、家族の写真やイラストを使用したTシャツにステッカー等々、専用の家庭内通貨で売買できちゃうんです! もちろん私も常連客。今朝も新商品があるみたい! じっくり見せてもらわなきゃ――って、今はそんな場合じゃない~!
……でも、これはアリかも。鈴の音に誘われて、みんなが集まってくるのでは? ほら、早速一人♪
「パパのお写真、いつも素敵~。モデルさんのお仕事、よくがんばったね~。うふふ、なでなで♡ 鈴音ちゃんもなでなで~♪」
お父さんに鈴音ちゃん、さらには麗奈ちゃんに私まで、優しく抱きしめてなでなでしてくれているのは、四女の豊ちゃん。まだ小さいのに思わず甘えたくなる包容力のある、ほわほわした女の子です♪
「このシール可愛い! ステッキに貼ってパワーアップしようかしら。お家の平和は、わたしが守るんだもん☆」
商品の中から、色んな表情のお父さんが満載のシールセットを手に取って目を輝かせているのは、五女の悠ちゃん。愛ちゃんママ特製のマホウのステッキをいつも持っています♪
「パパはどう思う? ステッキに貼るなら、どっちがいいかしら。笑顔のパパと、寝顔のパパ♡ どっちもはって、二つの力をミキシング?」
そこへ、怪しげな影。
「キシシシシ! みんな集まって、油断してるわさ。大チャンスだわさ……!」
大きな箱を抱えてこそこそしているのは、六女の彼方ちゃん。黒っぽい服にとんがり帽子、蛍光色のアクセントをちりばめた衣装は、可愛らしくも妖しい魔女のよう。ギザギザした歯をむき出しにして笑う姿のイメージどおり、いたらずら好きの女の子です♪
「ぴぴぴっ! これは! 彼方ちゃんの悪だくみね! パパラブへんしん☆ハルカナフォーゼ!」
それを見逃せないのは悠ちゃん。キラキラと虹色に輝くステッキを振ってポーズを決めると、普段着のパーカーが光に包まれ、みるみるうちに華やかな魔法少女姿へ変わっていきます! 服に仕込まれたマイクロプロジェクタ等を駆使した我が家の先端技術!
「! 見つかっては台無しだわさ!」
「まてまてー! 逃がさないわよーっ!」
悠ちゃんと彼方ちゃんの追いかけっこが始まりました♪
「ふむ。ふむむ。そろそろね――」
そんな様子を指フレームの中から見つめるのは、七女の縁ちゃん。
悠ちゃんと彼方ちゃんが麗奈ちゃんの周りをぐるぐる回り始め、お父さんがそれを止めようと近付いた、そのとき。
「ほいっと」
達人めいた動きで滑り込んだ縁ちゃんが、悠ちゃんのステッキを麗奈ちゃんのスカートへ引っかけました。
そこに現れたのは、フリルの付いたお上品なショーツ。
余りの眩しさに目を逸らすお父さん! その様子を横目に見た麗奈ちゃんは、頬を染めて恥じらって見せつつ、思い出したように叫びます。
「き、きゃあー」
「この場面の写真はさすがに売り物にはできんわなぁ」
鈴音ちゃんも困り顔。
「よし、だいせいこう☆」
縁ちゃんは、小さなお鼻とあひる口で挟んでいた鉛筆を手に取り、手帳にメモをしています。
「こらー! またいたずらしたわねーっ!」
騒ぎを聞き付けた要ちゃんが戻ってきて注意しました。縁ちゃんは一生懸命説明します。
「縁ちゃんは、かんがえてるの。いつも、いつもよ。パパとみんなが、どうしたら、もっとなかよくなれるかって。みんなホントにしたいこと、はずかしがってできないの。だから、ハプニングはだいじ」
「要お姉さま、これは私の――」
「そうよ、これは麗奈ちゃんのため。麗奈ちゃん、いつもワクワクしながらパンツえらんでるの、縁ちゃんはしってるもの。麗奈ちゃんのこだわりパンツ、せっかくだから、パパにみせてあげなきゃ。麗奈ちゃんは、“そんなはしたなないこと、できない”っていうの。だから、縁ちゃんが、とりもってあげるの♪」
胸を反らして得意顔の縁ちゃん。麗奈ちゃんも隣で小さくうなづいています。
「悠のマホウも役に立ってよかったわ☆」
悠ちゃんも横ピースで決めポーズ♪
そう、縁ちゃんは、ただのいたずらっ子じゃないんです。いつも手帳を片手に、みんながハッピーになれるハプニングをコーディネイトする我が家の策士。本当はスカートめくりなんて、いくら親しい間柄でも絶対にしてはいけない失礼なこと。でも、縁ちゃんは事前に麗奈ちゃんの希望を確認したうえで、この状況を用意したんですね♪
「もう、それなら言っておかないと。パパさんがびっくりしちゃうじゃない。すっかり恥ずかしがって、小さくなっているわよ。彼方もストーップ!」
言いながら、まだ走り回っている彼方ちゃんの襟首を掴む要ちゃん。
「やめるわさー! この箱の出番はまだだわさー! あ」
ぽち。
じたばたする彼方ちゃんが、仕掛けのボタンの押してしまったようです。
すると、手にした箱が開いて――「いまだ! パパにだきつくわさ!」と書かれた横断幕を手にした、彼方ちゃん人形が、とてもゆっくりと飛び出しました。
冷静にそれを見た要ちゃんは、「きゃあー」と言いながら、パパに飛びつきました!
「キシシシシ! いたずら大成功だわさ~☆」
誰かが思いがけず開けてしまっても驚きすぎないよう、飛び出すスピードを調整された安全なびっくり箱は、彼方ちゃんの得意技です♪ 要ちゃんも、妹が喜ぶリアクションを心得ていますね。お父さんとも抱き合えて、みんなが幸せです♪
「もう! みんないたずらが過ぎるわよ! パパさんにおしおきしてもらいまーすっ!」
「えー、そんなー!」「ひどいわさ~!」「きゃああー!」
要ちゃんが怒ると、楽しげな悲鳴が飛び交います♪ 本当は、おしおきなんて絶対にしないお父さん。でも、とっても優しいお父さんに、たまには叱られてみたい――私たちがそう思ったときは、こうして流れを作って、“おしおき”してもらうんです♡
いいな、私も混ぜてもらおうかしら♡ 当のお父さんは、困り顔だけれど♪
「あさから、にぎやかでよいのー♪ くるしゅーない、ちこーよれー」
「ようやく一件落着ね」
みんなできゃーきゃーしている中へやって来たのは、八女にして末っ子の円ちゃんと、円ちゃんをだっこした愛ちゃんママ!
円ちゃんは、幼いながらに不思議な貫禄のある小さなプリンセス――いや、王様かしら? 頭にちょこんと乗せた王冠も似合っています♪
「まどちゃん、今日も可愛いね~」
「これはサービスやで!」
早速、豊ちゃんに撫でられ、鈴音ちゃんには首飾りを掛けてもらってますね♪
「ママ、聞いて! このステッキやっぱりすごいの! 朝からみんなを笑顔にしたわ☆」
悠ちゃんの報告を、愛ちゃんママが笑顔で聞いています。
愛ちゃんママは、凛ちゃんママと同じく主婦をしているしっかり者のママ。家事が得意で指示も的確、お家の中心人物かもしれません♪
「せや、おとんも、おっかあも、買うてってな! おすすめはなぁ~」
新たなお客さんに鈴音ちゃんのセールストークが始まりました。
「朝ごはんよーっ!」
カンカンカン!
いつの間にか持ってきていたお玉とフライパンを叩き、要ちゃんが呼びかけます。
お父さんと愛ちゃんママは……みんなの様子を見て幸せそうに笑い合いながら、熱いキスを交わしていました――♡