第六話 六女・華弥とその娘たち
ロボットやステルススーツに夢中な巴ファミリーのみんなを残して、お父さんと私がやってきたのは、華弥ちゃんファミリーのお部屋がある七階……ではなく、一階のお庭。全館モニターしている揺ちゃんに、みんながいる場所を教えてもらいました。
花々が咲き誇る広いお庭に流れるのは、美しくも切なく艶やかなフルートの音。それに誘われるように辿り着いたのは、ビニールハウスの植物園。そこで私たちを待っていたのは、たくさんのお花に囲まれて旋律を奏でている音楽の精――のように可憐な少女でした。華弥ちゃんママの長女、小学四年生の弥生ちゃんです。
「お父さま……♡ 弥生は、恋の歌を奏でていました。運命の人の訪れを希う歌。言葉より深く届くように。……届いて、よかった」
弥生ちゃんはおとなしくて、植物や音楽が好きな優しい子です。儚げな下がり眉はお母さん譲り♪
「みんなは、こっちです」
「さっさっさっ!」
植物園の外にある、お狐さまのほこら。その周りを、擬音を発声しながら掃いている巫女さん姿の女の子は、次女の稲実ちゃん。
「早起きしてえらいね!」
お父さんが頭を撫でると――。
「と、父さま~!」
ぽんっ!
何と、稲実ちゃんの頭から、お狐さんみたいなお耳が生えて、お尻にはふっさふさの尻尾が生えました! さらにお父さんが尻尾を触ると、全身がもふもふになりました! さらに肉球をぷにぷにすると、巫女さん服も脱げちゃって、完全にお狐さんになっちゃいました!
稲実ちゃんは興奮すると段階的に狐化する特殊体質で、その原因はこの地域を守ってくれている狐の神さまのご加護なんですって。
「こ、こやーん……♡」
稲実ちゃんったら、少し恥ずかしそうだけれど、お父さんの腕の中で気持ちいいみたい♪ お狐さんになった稲実ちゃんも可愛いですね!
「稲姉さまがこんなになるなんて……朝からお盛ん……。私もまぜて……」
「!」
背後から聞こえた囁き声に、驚いて振り向くお父さん。そこにいたのは、長い前髪でお顔がほとんど隠れた女の子、三女の凪ちゃんでした。気配や足音を完全に消すことが得意で、柳の下がお気に入りの静かな子です。お父さんがトイレに入っているとき、ふと気付けば凪ちゃんがいっしょにいた……なんてことも多いそう。今もどこから来たのか全然分からなかったけれど、一体いつから近くにいたんだろう?
「今朝も皆の心の声がようく入って来やるの。誰かもかれも発情しておる。騒がしくて二度寝もできぬわ」
枕を手にやって来たのは、黒地に緋色の曼殊沙華柄の着物を纏う女の子、四女の雅ちゃん。人の心の声が聞こえる不思議な力を持っていて、生まれたときからたくさんの感情を浴びているためか、年齢に不相応の大人びた雰囲気があります。寝起きの機嫌が悪くて眉間にしわを寄せていたけれど――。
「これ、やめぬか父上、そちの感情は調子が狂うのじゃ……♡」
お父さんに髪を撫でられるうち、すっかり蕩けてしまいました♪
みんなで、お庭の開けたところにあるお花畑へ行くと、たくさんの蝶が舞っています。そのチョウチョさんたちが一際集まる先にいるのは――。
「やっぱり来た。時間ぴったり。愛しい人が来るよって、この子たちが教えてくれたの。いい天気……」
五女の白亜ちゃん。澄んだ夜空の星々を集めたような銀髪が綺麗な、ミステリアスな雰囲気の子です。チョウチョさんたちに囲まれてお話ししている姿は、妖精さんみたい。
「ここにいたですか~!」
とてとてと小袖姿で走ってきたのは、六女の灯ちゃん。おかっぱ頭で、幸運を呼ぶ座敷童子さんみたいな雰囲気。
「父、やっと見つけたです。みんなをもっとかまうですよ。はやく百人くらいに分身して、全員につきっきりになるです。でないと祝ってやるです! 一生ひとりきりの時間を持てない祝い。四六時中、誰かが父につきまとってやるですよ」
お父さんは、現状でも割とそんな感じですよね♪ 灯ちゃんの言う“祝い”のことは誰にもよく分かっていないけれど、灯ちゃんが強く念じた“祝い”には、何となく本当に力があるようにも思えて不思議です。
「ほら、永遠も来るですよ」
「ウィ。父さまに、これあげゆ……。モワのすきな、おはなデス……♡」
灯ちゃんに促され現れたのは、七女の永遠ちゃん。フリルのたくさん付いたロリィタファッションに身を包む、西洋人形のように可愛い女の子。柔らかな巻き毛にヘッドドレスが似合っています。
「ありがとう」
「ノン。モワは、父さまにあげゆのが、だいすきデス……♡」
永遠ちゃんがお庭で摘んだらしいお花は、お礼を言って受け取ったお父さんの胸ポケットを早速飾りました♪
「まあ、みんなおそろいね」
続いてやってきたのは、華弥ちゃんママ!
お稲荷さまのお世話をしている華弥ちゃんママは、稲実ちゃんと同じく巫女さん姿です。お稲荷さまの本当のお家は、少し離れたお山の上の神社だけれど、ここにもときどき遊びに来られます。別荘みたいなものなんですって。お父さんも運が良ければ、お庭を歩く番の白いお狐さんを見られるかもしれませんよ♪
神さまのおそばにいるせいか、神々しさすら感じさせる華弥ちゃんママ。その胸に抱かれているのは、巫女さん姿には不似合いなものです。それはまるで小さな棺桶……それも西洋式の船型のもののようです。
「さあ、八千代も起きて」
華弥ちゃんママが優しい声で言いながら棺桶をお庭に置き、蓋を開くや否や転がり出て来たのは、華弥ちゃんママの八女にして末っ子の八千代ちゃん。寝ぼけているようで、少しふらふらしています。寝起きの八千代ちゃんはお肌が真っ白で、よく眠った後でも目の下がうっすら黒くなっています。この棺桶型ベッドがお気に入りの自称・吸血鬼で、ラズベリージャムが大好き♪
「やちょは、ちをしょもう……」
華弥ちゃんママにだっこされながら、小さなお口からちらりとのぞく鋭い犬歯を光らせ、気だるげな表情でお父さんを手招きする八千代ちゃん。言われるがまま差し出されたお父さんの首筋を甘噛みすると、みるみる血色が良くなっていきます! “血を所望”と言っても、本当に血を吸うわけではなく、歯と舌でお肌に触れて味わっているだけみたい。それでも、お父さんの愛の力が、八千代ちゃんを元気にするんですね♪
「みんなものむ? パパのちは、えいようまんてん……」
目の下の黒ずみもすっかり薄くなった八千代ちゃんのお誘いに乗ったのは、華弥ちゃんママ。
「では、華弥もお父さまをいただきますね……♡」
お父さんとの熱いくちづけ! 華弥ちゃんママは、おしとやかだけれど情熱的なんです♪
こんな光景を見て、黙っていられる娘なんていません! 私も含め、みんなでお父さんに群がります♪
凪ちゃんが鬼火を浮かべ、狐姿の稲実ちゃんが尻尾をふりふりしながらお父さんのお顔をなめるなか、弥生ちゃんのフルート演奏が一層ムードを盛り上げていきます。
白亜ちゃんもお花に誘われた蝶のようにひらひらやってきて、灯ちゃんと永遠ちゃんも続きます。
「ほんに、盛りおって」
興奮するみんなの心の声をまとめて受け止めてしまった雅ちゃんも、やれやれと首を振りながら、お父さんにかぶりつきました♡