第四話 四女・美貴とその娘たち
お父さんと私が五階へ向かうと、美貴ファミリーの子たちが朝のミーテイングをしていました。みんなで新作衣装を着てみているようです。
「今度の衣装はこれ! ミツバチとタンポポ、春の訪れがテーマよ」
くるりと回って可愛い衣装を見せてくれるのは長女の美果ちゃん。そろってアイドル活動をしている姉妹のリーダー。チームをまとめるしっかり者で、中学一年生にして大人気のアイドルなんだ! 今日もツーサイドアップが似合っているね。
「可愛いな。衣装も美果も」
得意気にポーズを決める美果ちゃんをお父さんが褒める。
「当然でしょっ♪ 美果はアイドル、いつだって完璧なんだから☆」
「衣装も似合っているし、美果は最高のアイドルだよ」
「もーっとほめてくれてもいいんだからね」
止まらないお父さんの賞賛にますます得意になって、胸を反らす美果ちゃんを見ているとこっちも嬉しくなってくるけれど――美果ちゃん、また成長したのかな。胸元が窮屈そうで、ボタンが飛んじゃわないか心配なくらい。
そんな立派なお胸を前にしても、全然動じないお父さんはすごいな……。でも、私が美果ちゃんだったら、ちょっぴり物足りなく思っちゃうかも。
「ねぇねぇハニー、美果姉さんの胸ばっかり見てないで――美々はどう? 今日の美々は昨日よりカワイイ?」
指をほっぺに当てたあざといポーズを作り、上目づかいでお父さんに迫るのは次女の美々ちゃん。お父さんが優しい声で「うん、可愛いよ」なんて言うと――。
「もぉ、ハニーったら、もっとしっかり目を見てほめてよ! ウソでもいいから、宇宙で一番カワイイって、色んな角度の美々を見ながら、何度もほめて~♡」
目を潤ませておねだりする。どんなときでも涙を流せるのは、美々ちゃんの特技! いつでも自分の可愛さを褒めてもらいたがっている子だから、たくさん褒めてあげてね、お父さん♪
――ぱしゃり。
「うん、今日の一枚目はこんなとこかな」
お父さんを泣き落としにかかる美々ちゃんを、三女の美星ちゃんが携帯デバイスで撮った。
「また勝手にとったぁ! 美々はとられるモードのカンペキなときじゃなきゃダメって言ってるのにぃ~」
「それじゃオフショの意味ないじゃん。ついでにパパもとっとこ――ぱしゃり。……うん、いい感じ。これは上げない。美星用」
今日の美星ちゃんのおめめはマリンブルー。カラーコンタクトがばっちり決まっています。
髪色は、ミルキーホワイトを基調に、パステルパープルのメッシュ。光の当たり方で色味が変わるときもあって、とっても可愛い。最近はヘアスプレーで簡単に髪色を変えたり、グラデを入れたりもできるけれど、今日は何だろ。スプレーかな、ウィッグかな?
気分でよく目や髪の色を変える美星ちゃんは、色白で、カラフルで、アニメやゲームの世界から出て来たみたいにも見えます。チームでは特にSNSに積極的♪
「美々、一応見て。よかったらすぐ上げる」
「あっ、カワイイ~♡ って、そうじゃなくて! 美々はいつでもカワイイけど、載せるならカンペキじゃなきゃいけないのよ~!」
美星ちゃんの差し出すデバイスをのぞいてぷんぷんする美々ちゃん。SNSに載せる写真の好みは、チーム内でもそれぞれみたい。
「美々が常にまとっている完成された美。その狭間よりのぞく素顔の美しさこそ、今の美星が表現したいものなんだろうね」
ほっぺをぷっくり膨らませた美々ちゃんの髪を撫でたのは、王子様のようにキラキラした女の子。四女の輝美ちゃん!
きゃん、と声を上げて少し跳ねた美々ちゃんをよそに、輝美ちゃんはひざまずいてお父さんの手の甲にキスをする。
「父君、今日も麗しくて何よりだ。この爽やかな朝をともに過ごせることを嬉しく思うよ。恵理姉さんは、いつもと少し髪型を変えているね? 新鮮で素敵だ。父君と過ごす一日への期待が伝わるようだよ」
凛とした声で褒められると、にやけてきちゃうな~♪
「ちょっと、姉さんたち! 何だかもう終わったみたいになってるけど、今はミーティングの最中でしょ。しっかりやらなきゃいけないわ。この人を見返すためにね!」
お父さんとキッとにらんで指を突きつけたのは五女の望美ちゃん。いつもやる気たっぷりで、お父さんへの対抗意識を燃やしている元気な子♪ 勝気な表情にツインテールがよく似合います。
「望美はえらいな」
お父さん目を細めて、小さな望美ちゃんの頭を撫でます。
「な、なでなで禁止~! 子どもあつかいはだーめー!」
望美ちゃんは両腕をぶんぶん振り回して抵抗するけれど、お父さんに頭を押さえられていてちっとも動けない。望美ちゃんには申し訳ないけれど、しっぽを振る子犬ちゃんみたいに見えちゃう。
なでなでなでなで。そして、お父さんは、ますますなでなでの勢いを強めるのでした。
「あー、悪い人がいる……。嫌がる女の子を無理やりなでまわす悪い人……♡」
そんなお父さんにしなだれかかり、目を細めて甘い声をかけるのは六女の美羽ちゃん。
「そんなになでたいなら私をなでればぁ? ほらほら、ガマンできないんでしょお~?」
体に手を回して腰をくねらせ、挑発的に見上げる美羽ちゃんにお父さんは少したじろぐ。
「していいって言われたらできないんだぁ? ダメって言ってる子じゃないとしたくないんだぁ……♡ おじさんなのに、小さな子をいじめて、ほっんとーに悪い人……♡ いけないコトする悪~いオトナは、美羽がわからせてあげる……♡」
ツインテールを結ぶリボンが、小悪魔の角みたいに見えてきちゃう……! 美羽ちゃんはちょっぴり生意気に見えるかもしれないけれど、これもお父さんを大好きだからこそ。ストレートな愛情表現ですね♪
「いい画がとれそう」
「ちょっと、せっかくポーズ考えたのに! みゅーじゃなくて、美々をとってよぉ~」
お父さんと美羽ちゃんにデバイスを向けた美星ちゃんの前に、美々ちゃんが立ちはだかると、美羽ちゃんは巻き込まれてお父さんから引き離されてしまいました。
気が抜けたお父さんは、近くの椅子に座り込んで、ほっと一息。
その隣で、七女の美世ちゃんがお父さんへ一言。
「やれやれ、今日もさわがしいよね。毎日こんな大さわぎしなくていいのにさ。キミもそう思うでしょ」
美世ちゃんはクールな子で、みんながどたばたしているときも少し離れてデバイスでゲームをしていたり、アニメを見ていたりとマイペース。美貴ファミリーの子らしくオシャレさんで、よくユニセックスデザインのファッションを着こなしているけれど、そのアイテムのほとんどは大好きなアニメやゲーム関係のものなんだ。
お父さんが穏やかな表情で美世ちゃんの肩を抱くと、美世ちゃんはするりと動いて――お父さんに口づけました!
「ちゅ――。いちいちさわがなくたって……やることだけやってればいいんだよね」
美世ちゃんの余裕たっぷりな微笑みに、お父さんは少し赤くなってしまいました……!
「わ、わたしもしたいな……」
美世ちゃんの後ろに隠れてその様子を見ていたのは、八女にして末っ子の叶美ちゃん。
「こうするのがいいのかしら……? んっ、んむっ」
ひとり中空へ向けてキスの練習を繰り返します。
「んあっ、んんん……むはっ」
叶美ちゃんのその動きは、何だか目を引くというか……色っぽさがあって……いつしかみんなの注目を集めています。
静まりかえったお部屋に、叶美ちゃんのくちびるの音だけが響き――みんなが話すことも動くこともできなくなり、空気が張り詰めてきた、そのとき――。
「こうするのよ」
叶美ちゃんをひょいとだっこして、お父さんにキスしたのは、お父さんの四番目の娘、美貴ちゃんママ!
「叶美もやってみて? あんまり考えずに」
「ん、ちゅ……。できたぁ! ありがと、ママ~!」
ぱぁっと笑顔になる叶美ちゃんは、無邪気なんだけれど……幼いながら、無自覚に蠱惑的な仕草をしてしまうことがあって、油断できない子なの。
「みんな、朝からミーティング、おつかれさま。本当にいいチームね。ダーリンもそう思うでしょ☆」
お父さんと娘たちに向かってウインクする美貴ちゃんママは、小さな頃からずっと現役でアイドル活動をしているだけあって、すっごく可愛くてきれい! ウインク一つでお部屋全部が華やぐようで、スターだなぁって思う……! 美果ちゃんたちがアイドルになりたくなるのもよく分かるな。
こんなに素敵なママと、その子どもたちのパフォーマンスをいつでも見れちゃう私たちは、本当に幸せ者です♪