第三話 三女・凛とその娘たち
次に集めるのは、凛ちゃんママの子どもたち!
凛ちゃんファミリーのお部屋がある四階へお父さんと二人で向かい、長女の怜ちゃんのお部屋をノックしようとすると、向こうから開きました。ちょうど怜ちゃんもお父さんを探しに行くところだったみたい。
「父さん、恵理姉さん、ごきげんよう」
ママ譲りのきれいな黒髪を伸ばした怜ちゃんは、服も仕草もいつも上品で、お嬢様みたい。落ち着きのある、大人っぽい中学二年生だよ。オシャレなこのフロアにぴったり。
「妹たちはこっちよ。みんなもう起きているのだけれど、父さんが呼びに来るのを待っているわ。いつも通りだから覚悟してね♪」
人差し指を立てつつ、小さく舌を出しウインクする。怜ちゃんは美人さんでクールに見えるかもしれないけれど、お茶目で親しみやすい子なんですよ。
「あなたもご苦労なことね……」
怜ちゃんの隣の部屋が開き、次女の幸ちゃんも顔を出します。
「私には関係ないからいいけれど。あんまり甘やかしすぎないでね。妹たちがはしゃいじゃうと、これからの連休、あなたの体力が持たないわよ?」
「心配してくれてありがとう」
「そ、そんなの当たり前でしょっ!? あなたはいつも全力だから……心配になるんだもん」
お父さんが髪を撫でると、幸ちゃんは顔を真っ赤にして照れちゃった。真面目で優しくて照れ屋なんだ♪
他の子が集まっている四階リビングへ向かおうとしていると、外でぱかぱかと馬蹄音がして――。
ヒヒーン! 元気ないななきが聞こえました。三女の護ちゃんが乗馬から戻ったみたい。
「みんな、おはよう」
近くの通用口が開くと、まとめていた長い髪をほどきながら護ちゃんが現れました。
「護、稽古はどうだった?」
「爽やかな朝で、とても気持ちがよかったよ。潤子もがんばっていたしね」
「精が出るわね」
「ええ。いざというときのために、心身を鍛えておきたいからね。父上のことは、必ず私が守るから……!」
怜ちゃんと話しながら、凛々しい目でお父さんを見つめる護ちゃん。その姿は騎士のようにかっこいい。護ちゃんは剣術や乗馬が得意で、翔子ママの五女の潤子ちゃんとよく稽古をしているんだ。
そうして、護ちゃんと合流した私たちがリビングへ入った瞬間、華やかな女の子がお父さんに飛びついた。
「おはよっ、パパぁ♡ 朝からアタシに会いに来てくれのぉ? じゃあ、ごほうび♪ アタシとイイコトしよ? 今日のアタシもいけてるっしょ☆」
この子は凛ちゃんママの四女、操ちゃん。軽くウェーブをかけた髪、薄い化粧、開いた胸元に、すっごく短いスカートがセクシー。
「ちょぉっとミサ! パパが困ってるでしょ! 朝からやめなさい!」
幸ちゃんが顔を真っ赤にして言う間に、操ちゃんはお父さんをソファに押し倒して、その顔にたくさんのキスマークを付けていた。
その様子を見た護ちゃんは、「また父上を守れなかった……」とちょっぴり落ち込んでいます。
すると、 ピピーッ! 笛の音が鳴り響く。
「ミサちゃん、朝一番からイエローカードよ! イチャイチャ禁止~! パパの健康を考えなさいっ!」
ホイッスルを吹きながら登場したポニーテールの女の子は、五女の律ちゃん。
我が家の風紀委員を自称しているの。
「キスは一日三回まで。ミサちゃんは三十秒ほどの間に、もう一週間分ほどのキスをしてしまったわ」
「えー、何回だっていいじゃーん。パパも喜んでるしぃ?」
「キスをするのはミサちゃん一人じゃないのよ? 考えてもみなさい。私たち全員がミサちゃんと同じくらいキスをしたとして、パパ一人でそれを受け止めるとどうなるか……」
「いけるっしょー? パパ強いしぃ♪」
「そういう問題ではないわ。そもそもパパだってよくないの。寝ぐせの残る頭、朝からめくれたシャツ。スキだらけで、少々セクシーすぎると自分でも思わないこと? そんなことだから――」
「カタいことはいーじゃん♪ りっつんも、朝キス三回でキゲン直して☆」
「だめ、この権利の使いどころは――むちゅっ」
操ちゃんに押されて、お父さんのほっぺに思いきりくちびるをぶつけてしまった律ちゃん。
「なんてこと……でも、せっかくだからもう一回――」
そのままキスを三回使い切っちゃった。
「ああ、もう終わった……。どうしてパパも止めてくれないの……? こんなのいけないのに、三回しちゃったのに。風紀が乱れちゃう――」
そして、そのままキスを繰り返す。
「あー、こうなったら止まらないんだから。ミサ、責任取りなさいよね?」
一週間分どころじゃなくなっちゃった律ちゃんを見て、幸ちゃんは肩をすくめます。
「よしよし」
お父さんは慣れたもので、にこにこしながら律ちゃんと操ちゃんを撫でています。大人の余裕……!
「律姉さんが落ちたか……」
そんな中、モノトーンの服を着た六女の透ちゃんが入ってきました。
「やはり制約を破ってはいけなかったのよ。父さんと私たちの情熱の天秤は、釣り合っていないもの。調和のためには、私たちが自重しなければ……」
「そんなことはないと思うわよ?」
ソファにもたれかかって言う物憂げな透ちゃんを優しく見ながら、怜ちゃんが言う。透ちゃんは続けます。
「父さんの愛情を疑うわけではないわ……。けれど、今のやり取りからも分かる通り、父さんは私たちに向けて、制御不能なほどの衝動は抱いていないのよ……。私たちとは違ってね……。父と娘の心……その間には、底知れぬ断絶があるのだわ……」
透ちゃんはちょっぴりひねくれ者に見えるかもしれないけれど、お父さんや家族のことをいつもたくさん考えています。
「違いますよ。透姉さんは父さんを甘く見過ぎです」
透ちゃんの持論に反論したのは、七女の純ちゃん。幼いのに落ち着いた雰囲気で、いかにもしっかり者な印象の子。
「むしろ逆。父さんは相当な変態さんですよ? 私たちはもっと自らのを身を守ることを考えるべきです」
「でも、純だってパパ好きっしょー? 毎日チューとか色々してるじゃん」
「当然です。役目ですから。どれほど変態さんでも、私の父であることは変わりません。この事実を重く受け止め、つかずはなれず、適切にお世話をするのが私の責務と心得ています」
操ちゃんの問いによどみなく答える純ちゃんは、とっても得意気です♪
「おはよう、みんな。あんまりパパをいじめちゃだめよ?」
優しく言いながらやってきたのは、凛ちゃんママ!
伸ばした髪が綺麗な一見クールビューティーさんで、面倒見がよくてとっても優しいの。今はお家で主婦をしてくれています。
「あなたも朝から大変ね。みんな、誰に似たのかしら……」
呆れてみせつつも幸せそうに微笑む凛ちゃんママの腕には、末っ子にして八女の静ちゃんが抱かれています。
「ママ……静もパパに、ちゅーする」
お人形さんのように小さくて可愛い静ちゃんがママに小声でおねだりして、パパのお膝へ乗せてもらいました。
「……ママもいっしょ」
「ええっ、ここで……?」
こくこくうなずく静ちゃんに押され、恥ずかしがりながらもパパの隣に座る凛ちゃんママ。
静ちゃんはパパとママにキスをして、再び「……ママも」と囁く。
「……うん」
微笑ましそうに顔をほころばせた凛ちゃんママが、娘たちに見守られながら静ちゃんとパパにキスをすると、静ちゃんはとても幸せそうに微笑みました。