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第二話 次女・翔子とその娘たち

 今朝は私が一番の早起き。……のつもりだったけれど、どうやらもうほとんどの子は起き出して、朝ごはん前に思い思いの時間を過ごしているみたい。

 私を含め、理沙お母さんの子どもの八姉妹はリビングに集合したから、次は翔子(しょうこ)ママの娘たちを呼んでこようかな。

 そんなことをお父さんと話していると、玄関のドアががちゃりと開いた。


「おっはよー! 今日もいい天気、青春日和だよ! 朝からいい汗かいた~」

 玄関から入って来たのは、翔子ママの長女、涼子(りょうこ)ちゃん。歳は私の一つ下で、中学三年生。日課になってる朝のランニングをしてきたみたい。またお家の周りを何周もしてきたのかしら。横にも縦にも長い我が家は、一周するだけでもいい運動になるんだよね。


「妹たちを呼びに行くの? お部屋とかアスレチックルームにいると思うよ。みんなそろったら、父さんも恵理もいっしょに走ろう! みんなで青春しようよ」

 さっぱり爽やかな笑顔の涼子ちゃんは、首にかけたタオルでポニーテールの汗を拭きながら言う。そのお誘いを差し当たりやんわり断って、お父さんと私は、翔子ファミリーのお部屋が並ぶ三階へ向かいます。


 三階のメインフロアには、トレーニングマシンが並び、マットが敷かれ、ボルダリングスペースやジャングルジム、卓球台等々もあって、ここに来るだけで体を動かしたくなっちゃう。

 理沙ファミリーのお部屋のほか、図書室や大きな専用キッチンがある、二階の落ち着いた雰囲気とはまた違いますね。

 このお家は増改築を繰り返した結果、とーっても広くなっていて、構造もなかなか複雑。まるでちょっとした町みたいで、全ての間取りを正確に把握している人は家族の中にもいないかもしれません。


 ジャジャジャジャッジャッジャーン!

 三階に着くと、早速ギターの音が聞こえてきます。にぎやかな三階の雰囲気にぴったり。アスレチックルームに面したお部屋の一つの防音扉から漏れているみたい。


 その扉を開けると、真剣な顔でギターをかき鳴らす晴子(はるこ)ちゃんがいました。

「おはよ。ようアイボー、恵理も、朝っぱらどうしたんだ? ……ああ、もう朝飯の時間になったのか」

 翔子ママの次女、晴子ちゃんはギターと歌が得意で、学校のお友だちとバンド活動をしています。とってもかっこよくって、ファンがたくさんいるんだよ! お家にも女の子からのファンレターがたくさん届きますよね。


「どうも弾いてると時間を忘れちまっていけねぇな。そうだアイボー、レッドドレスの新譜が入ってんだ。昼にでもウチに聞きに来ねぇか? コーラ飲みながらやろうぜ。爆音でな」

 恵理もどうだ? と私も誘われる。

 みんなで集まって聴くロック、素敵だろうな。お昼の後くらいがいいかな、なんて言いながら三人でお部屋を出ると。


「たのもー!」

 隣のお部屋のドアが勢いよく開き、赤みがかった髪を右側でサイドテールにした女の子が登場しました。


「待ってたぞ、オヤジぃ、勝負だっ! 陽子(ようこ)は燃えてるんだ! 今日こそ絶対オヤジに勝ってや――うおわぁっ」

 威勢よく駆けだした陽子ちゃんはアスレチックルームの平らなマットの上で器用に転び、お父さんに倒れ掛かりそうになる。危ないっ!

 しかしそのとき、同じドアから青い影が飛び出して――気付けば、陽子ちゃんはマットの上で三角座りをしていました。


「よーちゃん……今日もナイスドジ」

 青みがかった髪を左側でくくった女の子、月子(つきこ)ちゃんが助けてくれたんだ。

「あ、月子ありがと……」

「いいってことよ。よーちゃんのフォローが月子の役目。今日も朝から役目を果たせて、月子はご満悦の様子。ぶい」


 三角座りのままお礼を言う陽子ちゃんと、クールな表情を動かさず得意げにVサインをする月子ちゃん。ふたりは翔子ママの三女と四女で、双子なの。

 元気いっぱいで何かとお父さんと勝負したがるけど失敗ばかりの陽子ちゃんと、物静かだけど運動神経抜群の月子ちゃんは名コンビ。


 続いて奥の通路から、五女の潤子(じゅんこ)ちゃんがタオルで軽く汗をふきながらやってきました。

「おはよう、今日も朝から元気ですね、よーちゃん。つっきーもお手柄です。よーちゃんが今日も無事なのは、つっきーのおかげだよ。……父上、恵理ちゃん、おはようございます!」

 潤子ちゃんは柔らかく微笑みながら二人の姉を褒めた後、礼儀正しくお辞儀をしてくれる。


「おはよう。潤子ちゃんは朝からおけいこ?」

「はい、(まもり)先輩と木刀の素振りをしていました。やはり先輩はすごいです……! 自分の未熟さがよく分かりましたので、もっともっと精進します!」

 私が聞くと目をキラキラさせて答えてくれる潤子ちゃん。真面目でしっかり者なんだ。


 そのとき――ふんふん、ふんふん……と、私たちの頭上から、お鼻を鳴らしてにおいをかぐような音がして、

「これは……お肉のにおいだナ!」

 私が音の方向を見上げる間もなく、マットに雷鳴が落ちた。ううん、それは雷じゃなくて、日焼けした女の子。その子は天井から飛び降りてマットに手を突くと、ブレイクダンスのように回転しながら跳ね起き……その勢いでお父さんに抱き着きます。


「ふんふん……お肉じゃなくて、とーちゃんのにおいだったカ」

 お父さんにしがみついて首筋をかぎ回るこの子は、六女の鳴子(なるこ)ちゃん。翔子ファミリーの中でも特に身体能力が高く、野性的な女の子だよ。

 このフロアの壁や天井付近に張り巡らされている手すり、主に鳴子ちゃんの運動用であるそれにつかまって、あちこち移動して遊んでいたみたい。


「とーちゃんは、お肉みたいにおいしいにおいがするナ!」

「朝ごはんができたら、本当のお肉も食べられるよ」

 お父さんは鳴子ちゃんにあちこち齧られながら、鳴子ちゃんの頭を撫でて言う。


「鳴子、アイボーを食うのはいいけどよ、ほどほどにしといてくれよ? オレの分が回って来なくなるからな……あと、風子(ふうこ)はきっと道場だな」

 続いて、みんなで同じ階にある道場へ向かうと、晴子ちゃんの言葉通り、風子ちゃんの溌剌とした声が響いていた。


「アチョォーッ、ホアアー!」

 チャイナ服姿でユニークな構えを取る、七女の風子ちゃん。少し様子を見ていると、両手を広げながら片足を上げたり、丸まって転がったりしています。


「おはよう、もうすぐ朝ごはんだよー」

「アチョッ!? 父さんに姉さんたち!」

 私の呼びかけでようやく観客に気付き、構えを解く風子ちゃんへ、お父さんが声をかける。

「今日は何の型をやっていたの?」

「はい! パンダ拳とフラミンゴ拳とアルマジロ拳です! あ、おはようございます!」

 風子ちゃんは、よくこの道場で色々な動物をモチーフにした拳法を練習しています。技はユニークだけれど、ぺこりと包拳礼をするその姿からも分かる通り、潤子ちゃん同様、真面目で礼儀正しい子なんですよ。


 くいくい。……ん? お父さん、袖を小さな手に引っぱられていますよ。

 いつの間にかお父さんの後ろにいるのは、翔子ママの八女にして末っ子、空子(そらこ)ちゃんですね。


「パパ、いいこと考えたの。後で遊ぼ。はだかになって、にらめっこして、先にくしゃみしたら負け、っていう遊び。どう、おもしろそうでしょ……♡」

 にこにこしながら嬉しそうに言う空子ちゃん。お父さんは優しく笑って頭を撫でるけれど、ちょっぴり戸惑っているかも。空子ちゃんは無邪気なんだけれど、ちょっとドキッとするような遊びを持ちかけてくることが多いの。


「空子ー、その遊びはカゼを引いちゃうからやめときなー」

 空子ちゃんの頭、を撫でるお父さんの手の上に、もう一つの手がぽんと乗せられた。

 その手の主は、翔子ママ!

 理沙お母さんの一つ下の妹で、運動が得意で、おもしろくって、かっこよくって、スポーツインストラクターをしている人!


「そっか……。じゃ、はだかになったら、くしゃみしないように、パパにだいててもらお……」

「どうしてそんなに楽しそうなことばっかり考えつくのー?」

 放っておくとそのまま服を脱ぎ出しそうな空子ちゃんを、翔子ママが抱っこして、あやします。


「とーちゃん、今日ももてもてだねぇ」

 翔子ママが笑いながらお父さんを肘で小さく突つくと、お父さんは翔子ママの頭をわしゃわしゃと撫でました。

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