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第九話 朝のお楽しみ

 朝ごはんを食べ終わると、稲実ちゃんがお父さんをお庭へ連れ出しました。ちなみに、稲実ちゃんは朝ごはんの前には人間体に戻っています。

「お狐さん、こちらへ来ているみたいなんです。見に行きませんか?」

 そうなんだ! 私もついていこうっと♪

 ほこらの近くまで来ると、確かにいました。木々の間、白く美しい二匹のお狐さんが、仲睦まじくじゃれあっている姿が見えます。

「ほら、いました! これで、大連休中の運勢は、とっても良くなりますね♪」

「そうだね」

「こゃっ!?」

 ぽん! 得意そうな稲実ちゃんをお父さんが優しくなでると、稲実ちゃんの頭から狐耳が飛び出します。

「えへへ、ここでなら、稲実を狐にしてもいいですよ……?」

 稲実ちゃんが上目遣いでお父さんを見ると、お父さんは稲実ちゃんをたくさん撫でました。ぽぽぽんっ! あっという間に完全狐化した稲実ちゃんは、お父さんの胸に飛びついて押し倒し、お顔を舐め回します。さらには挑発的に尻尾をふりふり♪ これは完全にスイッチが入っていますね。私が見ていていいんでしょうか……と思っていると、司ちゃんがやってきました。

「これだ……!」

 たまたま通りがかったようですが、何やら興奮しています。

「パパと我々の交流に新たな刺激を加えられないかと考えていたのだけれど、そうか、獣化があったか……! 稲実氏の力を分配すれば、誰しも獣化できるはず。これは素晴らしい研究対象なのだよ……!」

 じりじりと、ふたりに近付く司ちゃん。

「それに、この愛らしい毛並み、我慢できないよ。どうか僕にも、もふもふさせておくれでないか」

 稲実ちゃんは濡れた瞳で司ちゃんを流し見て、尻尾を軽くぱたぱたさせました。オーケーのようです!

「もうたまらないよ、稲実氏ー!」

 お父さんと司ちゃん、そして私の三人で、稲実ちゃんをたくさんもふもふしました♡


-


「可愛い可愛い! いいよ二人とも~♪ くはっ、たまらん……!」

 リビングに戻ると、夢路ちゃんがよだれを垂らしながら写真を撮っていました。モデルは静ちゃんと永遠ちゃん。お人形さんのように可愛らしいふたりに、夢路ちゃんは大興奮♪

「モワたちのこと、かわいくとってくださいネ……♪」

 永遠ちゃんもポーズを取ってくれます。

「夢ちゃんも、いっしょ……」

 静ちゃんが夢路ちゃんの袖を引っ張ります。

「パパも、恵理ちゃんも……」

「うふふ、静ちゃんのお誘い! じゃあ、みんなそろってタイマーで撮るわよ!」

 夢路ちゃんが五人そろった写真を撮ってくれます。それから、みんなで撮影会を楽しみました♪


-


 続いてリビングで、お父さんは詩織ちゃんのインタビューを受けました。

「なるほど、父さんと母さんの初めてのキスは、そのような思い出があったのですね……! とっても参考になりました」

 一生懸命に書き込んでいたメモ帳をぱたんと閉じる詩織ちゃん。

「少しメモを整理してきます。この名作を読み解くヒントも大いに得ることができました」

 バインダーに綴じたWeb小説のプリントアウトに頬ずりすると、詩織ちゃんは自室へ行きました。

「理沙、今のって……」

 お父さんが、近くのソファでインタビューを見守っていた理沙お母さんに話しかけると、お母さんは、立てた人差し指をくちびるに当てつつ、うなずきます。

「本当は、詩織が読むには少し早いのよね……。私の書いた物語を気に入ってくれるのは、嬉しいのだけれど」

 そう、詩織ちゃんの愛読書、父と娘の大恋愛を描いた小説の作者は、実は理沙お母さんなんです! でも、そのことを知っているのは我が家でもごく一部だけ。お母さん曰く、かなり刺激的なシーンもある小説だから、ある程度大きくなるまであまり教えたくないんですって。私も含めて、小さなうちからこっそり読んでいる子は多いけれど♪

「でも、理沙だってあれくらいの歳から色々書いていたよね」

「ええ、憧れる気持ちは止められないもの。あの頃は、本当にこんな家庭を築けるなんて、思っていなかったわ」

 お母さんは、愛おしげにお父さん……と私を見つめ、お膝で眠る創ちゃんを撫でます。すると、創ちゃんがガバッと起き上がり、お母さんに抱きついてキスしました。

「……むにゃ」

 創ちゃんは寝ぼけているようです。お父さんとお母さんは、目を見交わし、微笑み合いました♪


-


 お次のお父さんのお役目は、絵のモデル。晴天の下、お庭に座って、穏やかな微笑みを浮かべ続けています。そんなお父さんをじっと見つめてクレヨンでスケッチするのは、織絵ちゃん。絵を描いている織絵ちゃんと、モデルになっているお父さん。それ自体が絵になるような、美しい光景です♪

 そうして、しばらく経った頃。

「できましたぁ♪」

 織絵ちゃんがとうとう手を止めました。

「見せくれる?」

「どうぞぉ~」

 お父さんが織絵ちゃんから絵を受け取り、眺めます。

「すごくきれいだ。ありがとう、お父さんをこんなによく描いてくれて」

「本当、織絵ちゃんの絵、とっても素敵!」

「えへへぇ~、お父さんが素敵だからです……♡」

 お父さんと私の褒め言葉に織絵ちゃんは照れるけれど、嬉しそうです♪

 私たちが盛り上がっていると、華弥ちゃんママもやってきました。

「うふふ、本当に素敵な絵ね♪ 織絵ちゃん、華弥お母さんが描いた絵も見てくれる?」

「はい! ……華弥ちゃんママ、この絵って……私?」

 そう、華弥ちゃんママが見せてくれた絵は、お父さんを描いている織絵ちゃん。先ほどから少し離れた場所で描いていたんですね。

「すっごく可愛い……。この絵の中なら、私でもお父さんとお似合いに見えそうです……! 華弥ちゃんママ、ありがとう! このお父さんの絵と並べて、飾りたいですぅ……♡」

「それはとってもいい考えね。ママも並んで飾っているところを見たいわ♪」

「あと、華弥ちゃんママと、恵理姉さんの絵も描きたいですぅ! それから、理沙お母さんも……♪」

 織絵ちゃんは、まだまだ描きたい絵がたくさんあるようです♪


-


「パパさん、マヨネーズはまだあったかしら?」

「あるけど、買っていてもいいかもね。からし入りが欲しいな」

 トイレに行っている間にお父さんを見失った私が、お父さんを探し歩いていると。とある小部屋から要ちゃんとお父さんの声が聞こえました。軽くのぞくと、ふたりで買い出しの相談をしています。

「パパさんのパンツは大丈夫? 破れていないかしら」

「大丈夫だよ」

「本当? 見せてみなさいよ」

 ノートパソコンを開いて、買い出しリストを作成している要ちゃんが座っているのは、お父さんのおひざの上。あれこれ相談したり、入力したりしながらも、お父さんの首に手を回したり、胸に頬ずりしたり、いちゃいちゃすることも忘れません♪ この買い出し相談は、要ちゃんにとって大事な時間の一つ。それをよーく知っている私は、邪魔しないよう、そっとお部屋から離れるのでした♪


-


「愛ちゃんママ~、美々ね、もっとハニーにカワイイって言ってほしいの。そして、いつでもどこでも求められたいの……♡ どうしたらいいかなぁ?」

「ママがお手本を見せるわ。ちょうどパパも来たことだし」

 お悩み相談をしている美々ちゃんとそれを受けている愛ちゃんママ、そんなふたりを観察していた私のもとへ、お父さんがやってきました。愛ちゃんママは、魅惑的な笑みを浮かべ、可愛いポーズを取りながら、お父さんに腕を絡ませます。

「ねぇパパぁ。今日は愛、まだ十回くらいしか、可愛いって言ってもらってないんだけど~?」

「そうだっけ、それはいけないね。愛はいつでも可愛い、可愛い、可愛いよ」

 お父さんは愛ちゃんママを抱き寄せ、髪を撫でながら、囁きます。そして、ふたりはどちらからともなくキスをしました! 何度も、何度も……!

「まあ……!」

「まあ……!」

 思わず両手で顔を覆って、指の隙間からその情熱的な愛の営みを見つめる美々ちゃんと私。数えきれないほどのくちづけを交わした後、愛ちゃんママは思い出したように美々ちゃんを見ました。

「こうするのよ」

「う、うん……! 美々、がんばる! ねぇハニー、美々、もーっとカワイイって言ってほしいの☆ 今の愛ちゃんママの、十倍くらい……!」

「うん、こっちへおいで、美々。美々の可愛いところ、たくさん言ってあげるから」

 お父さんのおひざに乗った美々ちゃんは、お顔が真っ赤になって逃げ出したくなるくらい、その可愛さを褒めてもらいましたとさ♪


-


 お父さんから離れて、お家をお散歩していると。一人で何か考え込んでいる様子の透ちゃんを見つけました。廊下の角に置いたおしゃれなダイニングチェアにちょこんと座り、お膝に乗せた詩集を開きもせず、陽光が差し込む窓を見上げています。幼くも物憂げな横顔は、芸術的に美しい。声をかけることも忘れ、私がつい見惚れていると。

「透ちゃん、何か考えごと?」

 美貴ちゃんママがやってきて、話しかけました。透ちゃんも、ゆっくり口を開きます。

「……父さんと私たちの関係について、考えていたの。いくら想い合おうとも、決して対等にはなれないだろうと感じられて、これからの日々をどう生きるべきか、父さんと同じ空間にいるときの呼吸はどのように色付けるべきか、思いを巡らせていたところだわ……。美貴ちゃんママは、いつも明るくて、幸せそう。これまで、父さんとの関係に悩んだことはないの……?」

「……あるよ。どうして美貴は、ダーリンの娘なんだろう。どうしてママが、ダーリンと先に出会ったんだろう、って。でも、考えてどうにもならないコトばかりだし――先がどうなるかも、分からないから。今、自分がしたいコト、楽しいと思うコト、ダーリンに伝えたいコト。そんなコトを、後悔しないように、全部やっていこうって思ったの。どうせ未来が分からないなら、せめて今を楽しまなきゃ! 透ちゃんだって、ダーリンに抱かれているときは、不安になるヒマがないくらい、幸せでしょ?」

「それはそう……でも、それが父さんや私、家族全体にとって必ずしも好ましいことばかりであるかどうか――」

「あ、ダーリンが来たよ!」

 美貴ちゃんママの言葉どおり、廊下の向こうからお父さんが歩いてきました! 窓から差し込む光をキラキラと纏いながら。

「ほら、透ちゃん。ダーリンに聞きたいコトがあるなら、全部聞いてみたら?」

「うん……では、父さんはこちらへどうぞ」

 透ちゃんが温めていた椅子へお父さんが座り、お父さんの上に透ちゃんが座ります。

「父さんは、私たちとの適切な距離についてどう考えているの? 父さんは太陽で、私は氷。こうして近付きすぎると、溶けてしまうかもしれないわ……」

「大丈夫だよ。こんなに抱きしめても、透は溶けていないからね」

 そう言って、透ちゃんを胸に埋めて頭を撫でるお父さん♪

「いえ……もうとっくに溶けているわ……♡」

 お顔を真っ赤にした透ちゃんは、とっても幸せそうです♪

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