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第一話 長女・理沙とその娘たち

「おはよう、恵理(えり)姉さん。お休みなのに早いわねぇ」


 爽やかな朝。

 自室から出た私が今日最初に会ったのは妹の富海(ふみ)ちゃん。

 私たちのお部屋が並ぶ二階廊下を、二人でお話ししながら進みます。


「うん、今日から家族全員そろっての大連休だもん! こんな機会なかなかないから、すっごく楽しみで。少しの時間でも大事にして、みんなで過ごしたいから、張り切っちゃった。富海ちゃんこそ早いね。私が一番のつもりだったのに……まさか、もうみんな起きてるの? 」


 私の疑問に、富海ちゃんはおっとりした声で答えてくれる。

「ええ。みんな元気よ。すくすく育ってくれてうれしいわ。小さな天使ちゃんたちには、あとで絵本を読んであげるの」


 穏やかに微笑むと、富海ちゃんは小脇に抱えていた絵本を見せてくれた。富海ちゃんはこども好きで、たくさんの妹たち――特に、まだ幼稚園に通っている子や、もっと幼い子たちからとっても懐かれているの。小さな妹たちのお世話をする姿はお母さんみたいで、私よりずっと大人っぽいんだ。


「そっかぁ、一番じゃなかったんだ……。絵本は私も聞きたいな。やりこと、いっぱいあるね!」

 そう、やりたいことはいっぱいある。あるんですよ、お父さん! だから、この連休をいっぱいいっぱい楽しみましょうね!


 ――隣には富海ちゃんしかいないのに、誰に話しかけているのかって? それはもちろん、お父さんにです! この広い広いお家のどこかにいるお父さん。私、恵理は、おそばにいないときでも、いつでも話しかけているんですよ、心の中で……!


「恵理姉さん、幸せそう。また、お父さんとお話ししているの?」

「うんっ! こうしていると、いつでも幸せでいられるんだよ。二十四時間、三百六十五日っ!」


 今日は素敵な日だから、いつもよりたくさんお父さんに話しかけちゃいますね。

 せっかくだから、この大家族の紹介もあらためてしちゃいましょう。

 我が家は本当に、他では聞いたことがないくらいの大家族だから。楽しい連休の始まりに、みんなのお顔をしっかり思い浮かべておくことも大事だと思うんです!


 まずは、自己紹介。

 私は恵理、高校一年生。お父さんと理沙(りさ)お母さんの間に産まれた長女です。

 そして、隣の富海ちゃんが次女。

 これから順に、まだまだいる可愛い妹たちを紹介していきますね!

 ――そんなことを考えながら、私は富海と一階のリビングへ降りていくのでした。


 リビングには素敵な香りが漂っています。隣接しているキッチンで、三女の花香(はなか)ちゃんが飲み物を用意してくれているみたい。


「おはよう……。目覚めの一杯は何にする?」

 花香ちゃんが、左横にほくろのある薔薇色のくちびるを開き、囁くように言う。今日もほんのり香水のにおいをまとっていて、何だか色っぽい!


「私はオレンジジュースっ!」

 私が手を挙げて言うと、富海ちゃんも「ミルクをお願い」と続きます。


 そして――。

「じゃあ、コーヒーをもらおうかな」

 お父さんが来ました……今日も素敵……!


「おはよう、恵理、富海、花香」

「おはようございます!」


 ドキドキしながら、あいさつをする。富海ちゃんの顔も赤くなっているから、きっと私と同じくらいドキドキしていると思う。私たちはみんな、お父さんのことが大好きだもの!

 花香ちゃんだけは余裕の様子。パパのリクエストに「そう言うと思ってたわ」と、あらかじめ準備していたコーヒーをてきぱきと淹れています。朝ごはん前の一杯だから控えめに。


 バーカウンター風の席で飲み物を飲んでいると、二階からいくつかの足音が聞こえてきました。

「おはよう、姉さんたち」

 先頭は、ふわふわした巻き毛の四女、夢路(ゆめじ)ちゃん。お菓子作りが得意だよ。

「ぐふふ花香ちゃん、今日もセクシーね……素敵よ……。ああ、鼻血が出そう……って、パパもいるぅっ!」


 興奮のあまりふらついた夢路ちゃんの背中を支えたのは、五女の(こころ)ちゃん。

「っとと。夢ちゃんは、今日も妄想全開もりもりで楽しそうだねぇ。おはよう、みんなおそろいだぁ」

 心ちゃんは気配りのできる元気な子で、個性派揃いの大家族の誰とでも気が合うの。お裁縫が得意で、特にぬいぐるみは家族に大人気!


「こっちも負けじとおそろいだよ! さ、どうぞどうぞ~」

 心ちゃんに促され、さらに二人がリビングへ降りてくる。


 一人は六女の詩織(しおり)ちゃん。眼鏡をかけて、愛用のノートとペンを抱えています。

「父さん、後で母さんたちとの思い出を聞かせて。昨夜も小説を書いていたのだけれど、まだまだあの伝説の名作に到底及ばないの。やはり最重要人物である父親の人物像が弱いのよ。もっとリサーチが必要だわ」

 詩織ちゃんは読書が好きで自分で小説も書いているよ。おとなしい子だけれど、創作には情熱的。私もいつも新作を楽しく読ませてもらっています。


 そして、もう一人は七女の織絵(おりえ)ちゃん。

「私は、お父さんの絵を描きましたぁ。でも、やっぱり……本物のお父さんのお顔を見ながら描きたいなぁ……」

 もじもじしながら言う織絵ちゃんはそばかすが可愛い子で、三つ編みと眼鏡も良く似合っている。絵を描くのが好きで、可愛いイラストもリアルな似顔絵も得意! 特にお父さんの絵は、お家の中で広く取引されている人気シリーズだよ。……モデルのお父さんは、恥ずかしがるけれど。


「じゃあ、順番にしていこうか」

 お父さんがそんなことを言いながら二人の頭を撫でるものだから、詩織ちゃんも織絵ちゃんもとろけそうな笑顔になる。

 みんなそれぞれ、連休中にしたいことがたくさんあるんだね。


「みんなもう集まっちゃってる~! お父さん、今すぐ朝ごはんの準備をしますね~っ!」

 続いてぱたぱたやって来たのは、八女にして末っ子の沙代佳(さよか)ちゃん。人のお世話をするのが大好きで、今日も朝からメイド服を着て気合十分だね。


「お着がえは、みんなもう終わってる……じゃあ、お食事の次におふろです! お父さん、お背中流させてくださいっ!」

 今すぐシャツを脱がしかねない勢いでお父さんに詰め寄る沙代佳ちゃん。お父さんはそんな娘を何とかなだめようと肩をぽんぽん叩いたり、耳を撫でたりしている。


 でも、リビングの奥から――

「沙代佳、落ち着いて。まだ早いよ」

 その優しい声が聞こえた途端、沙代佳ちゃんの動きがぴたりと止まった。

 お母さんだ!


「お父さんは起きて着替えたばかりよ? おふろは夜のお楽しみ。朝ごはんも、お母さんたちが用意するからあわてないで。お世話なら、これからみんなにたくさんしてあげてね。もうすぐここに集まってくるもの」

 この眼鏡が似合う素敵な女性が理沙お母さん! 私たち八人姉妹のお母さんで、お父さんの妻。

 そして……お父さんの実の娘でもあるの!

 親子の結婚は、私が産まれる少し前に法的に認められるようになったけれど、我が家以外では珍しいみたい。


 理沙お母さんはこどもが大好きで、保育士の仕事をしています。

 我が親ながらとっても美人で優しくて、私たち姉妹みんなから「こんな風になりたい!」と思われている人。

 何より、お父さんと話す姿がお似合いすぎるから、憧れの的なんです。


「休日なのにみんな早起きね」

「母親に似たんだな」

 だめだめ、二人を見ていると朝からドキドキしすぎちゃう!


 火照った顔を冷ますため、私が自分の手でほっぺをぱたぱた仰いでいると、コーヒーを飲み終えたお父さんが席を立った。

「まだまだ朝早いけど、みんなを呼びに行ってくるよ。もう起きている子も多そうだしね」

「私もいっしょに行く!」

 私はあわてて手を上げ、お部屋を回りに行くお父さんについていきました。


 この大きな大きな我が家には、まだまだたくさんの家族が住んでいます。

 お母さんだけでも、あと八人いるんだよ。

 そのうち一人は、理沙お母さんのお母さん、沙織(さおり)ママ。

 あとの七人は、理沙お母さんの妹。

 つまり、お父さんと沙織ママの間に、理沙お母さんを入れて八人の娘がいて――その八人の娘とお父さんの間に、それぞれ八人ずつ娘がいます。


 我が家は――

 お父さん:一人

 沙織ママ:一人

 「お父さんと沙織ママ」の娘:八人

 「お父さんと娘」の娘:八×八で六十四人

 合計七十四人の超大家族!

 近親婚とともに重婚が認められるようになったからこその幸せ家族なんですよ♪


 その中でたった一人のお父さんは、いつもみんなから大好きパワーをぶつけられながら全て受け止めてくれる、世界で一番素敵な人……!

 そんなお父さんといっしょに、お家一周ツアー、行ってくるぞ~!

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