ヴィレッツァ王国内
これが戦略的に負けている国の姿です。
馬に揺られながら、一路リンド王国へと向かう。余り目立ちたくないため、少々遠回りの、途中に大きな街のない街道を使う。そのため1000㎞程の道のりになってしまうが、シンバル馬だと10日程で着く事が出来るだろう。
入国時に不愉快な思いをしたせいか、この惑星に降り立って初めてと言っていい程、コウは機嫌が悪かった。
「やはりご気分がすぐれませんか?」
後ろから気遣うようにユキが声を掛けてくる。
「そうだな、職業病かも知れんが、ああいう兵士を見ると、どうしてもな。さらに自分が我慢しなければならない立場だというのが、余計に腹が立つ」
コウとて決して自分が理想的な軍人だったと思っているわけではないが、軍人が、ああもあからさまに権力を盾に、人々から金銭を巻き上げているのを見ると、どうしても不愉快になってしまう。元の世界でも無かったとは言わないが、あそこまで酷くはなかった。
今まで過ごしてきたリューミナ王国では経験しなかったため、余計不愉快に感じるのかもしれない。もっとも少なくともジクスにおいては、コウ達が不快な思いをしないようギルド全体で陰ながら努力している、という違いもあるのだが。
「いっその事、排除しちまうか?」
並んで進んでいるサラが物騒なことを言ってくる。と言っても、あのレベルだと星系によっては現行犯で上官に射殺されてもおかしくない事なので、あながち間違いではない。
「いや、それはやめておこう。下手に死人をだして警戒レベルを上げられるのは得策じゃない。まあ、彼らが襲い掛かってきたのなら容赦をするつもりはないがね」
コウはそう言って、軽く首を振り、気分を切り替えようとする。しかし残念ながら、目に入る光景がそうはさせてくれなかった。元は耕作地だったのだろうが、水害の跡があちこちに見て取れる。港から最初に通過した村人は瘦せこけた者ばかりだった。遥か彼方には、水で流された家の跡がぽつぽつとあった。
天気は良いが、なんとなく陰鬱な雰囲気が漂う風景である。
「天気は良いですけど、こういう景色が続くと気が滅入りますわね」
マリーがコウの気持ちを代弁するかのように言う。
「まあ、そうだな。これが、戦略的に負けている事の結果とは言え、見ててあまり面白くはないな」
コウは知識として、原始時代の戦いを知っていたが、実際に身に感じたことはなかった。特に宇宙軍は軍人同士、戦闘艦同士の争いの場であり、民間人が入り込む余地はなったというのもある。不幸にして民間の宇宙船が戦闘に巻き込まれる、という事も無くは無かったが、それは狙ってやるものではなかった。
「この様子ですと、余り道中の食事には期待できそうもありませんわね」
最近好きなものを好きなだけ食っていた生活を送っていたせいか、思いのほかマリーの言葉が胸に突き刺さる。
「仕方がない事とは言え、せっかくここまで来たのに、確かにそれは痛いなあ」
コウもそうぼやくしかなかった。
夕暮れ時に10軒ほどの小さな村に着いたので、そこで1泊することにする。本当は野営の方が気が楽なのだが、単なる自己満足とは言え、少しでも人を助けようと思ったためだ。宿泊料代わりとして、村人が1週間は食べていける量の食料を渡す。村人は涙ながらに感謝してくれた。ただ諍いの元となるので、食料は隠しておくように言っておく。
正直な話、ヴィレッツァ王国を救おうと思えば、ユキ達の本体をもってすれば造作も無い事である。食料の味は我慢してもらうしかないが……。
だがコウはそこまでする気はなかった。冷たいようだが、これはこの惑星の人間が自力で解決すべき問題だと思ったからである。元の世界の人類も幾たびも文明が滅びながら、最終的に克服したのだ。
自分たちは永久にこの惑星にとどまるつもりはない。ならば、目につく範囲の援助で我慢しておくべきだろう。そうでなければ、結局は誰かに頼る風潮が出来上がってしまう。そこまでは責任が持てない。そう理性では分かっていても、なかなか割り切れないのが人の心というものではあるが。その夜コウは久しぶりに悪夢を見てしまった。
次の日村人たちに笑顔で見送られる。昨晩久し振りにおなか一杯食べる事が出来たせいか、皆表情が明るい。コウ達も心なしか気分が軽くなる。
「やっぱり、笑顔で見送ってもらえるのは気分がいいよな」
サラが明るく言ってくる。普段の調子が戻ってきたようだ。
「ところで、出発の前の晩、コウは伯爵と何を話したんだ?」
「そうだな、先ず一つ目は今回の任務をどう思うかという問いだな」
「ふんふん。で、どう答えたんだ」
サラが興味深そうに聞いてくる。
「上の考えはよく分からないが、自分たちは危険になったら逃げるし、失敗したときの違約金も支払う用意があると言っておいた」
「あれ?あたい達に説明した内容と随分違うような気がするけど・・・」
サラがはてなマークを頭に浮かべている。
「一介の冒険者が考えている事にふさわしいと思ったことを言ったからね。それにいざとなったら逃げようと思っていることは嘘じゃない。まあ、そんなことが起きる可能性は低いとは思うが0ではない」
「一つ目という事は、他にもあったのか?」
「仕官の誘いだな。自分が今まで生きてきた分、冒険者として過ごした後、まだ伯爵がその気だったら考えます、と言っておいた」
「それは……。伯爵にちょっと同情してしまうな」
サラが、何とも言えないような顔で言ってくる。
「コウは、嘘を言わないで人をだますのが得意なのですよ。私も何度騙されたことか……」
しみじみとした口調でユキが口をはさんでくる。
「えっ、ユキってこう言っちゃなんだけど、あたい達より上位のAIだよな。それで騙されたのか?」
「はい。残念ながら事実です」
「流石、ペテン師提督……」
ユキの言葉にサラが思わず呟く。
「それは、思ったとしても口に出さないでおけ」
コウは注意する。ただ本気でした訳ではないので、強制力はない。
相変わらず風景は陰鬱なものだったが、馬鹿話をしているうちに、余り気にならなくなっていった。
AIを騙せるというのは、今で言うとチェスのチャンピオンがAIに勝つと言った感じですかね。
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