ヴィレッツァ王国入国
ヴィレッツァ王国の軍人の質の悪さにコウ達はびっくりです。
次の日、出発時には伯爵家総出とは言わないまでも、伯爵本人を筆頭にかなりの数で見送りをされた。わざわざ、渡り船のところまで案内人も付けてくれる厚遇ぶりであった。
「いやー、貴族って鼻持ちならない奴らばかりだと思っていたけど、良い奴らだったな」
渡り船にのって暫くしたところでサラが口を開く。帝国を相手に戦うように設計されてるだけあって、戦闘艦の人格AIには貴族嫌いが多い。極端な話、良い貴族は死んだ貴族だけだ、とのたまうAIも少なからずいる。
「それには同感かな。ただ伯爵のような人物は少数派だとは思うがね。おそらく若いころに冒険者をやっていたのが大きいのだろうな。本人としてはそのままやっていきたかったみたいだし」
サラの言葉にコウがそう返す。
「ふーん。それなら、いっその事、貴族は若いころは冒険者を経験させれば、まともな奴らが増えるんじゃね」
「いやいや、冒険者の方がまともじゃない奴が多いから。実際、冒険者になりたての時に絡まれただろう」
コウが呆れて言い返す。
「そう言えば、あの方達は、あの後どうしたんでしょうか。自業自得とは言え少し心配になりますわね」
命令とは言え、完膚なきまでに叩きのめしたのがマリーであるだけに、ちょっと心配になったのかもしれない。
「心配はいらないだろう。あれで心が折れなかったら大物になれるだろうし、折れてたら故郷で平和に暮らしてるさ」
「それは、どのような理由でそう予測されているのでしょう。参考までに聞かせていただいてもよろしいですか?」
そう言って、ユキが会話の中に入ってくる。確かに自分の推論には、元となるべきデータがない。
「そう思っていた方が気が楽だからだな」
コウはそう軽く答える。実際の問題としてコウが戦争で殺してきた人間の数を思えば、些細な事だった。あの程度の事を気にするような神経だったら、とっくにPTSDを発症し、退役してただろう。
どうせ気にしないのなら、あの結果が良かった、と思っていた方が良い。
コウの軽く言ったセリフの中に、何か感じ取ったのか、4人の間に暫く沈黙が下りる。それを破ったのは船員の、下船準備をしてください、という声だった。
フラメイア大陸一の大河の河口の渡し船だけあって、船はオールで漕ぐようなものではなく、立派な帆船である。それ相応の荷物を持ってる者も多く居るため、それなりに下船の準備は時間がかかる。
船がヴィレッツァ王国側の桟橋に船が繋がれ人々が船を降りていく。幾ら敵国とは言え、近頃は戦闘行為がない為、民間の交流はそれなりにあるようだった。元々ゼノシアがヴィレッツァ王国領だったというのもあるだろう。
入国審査のようなものが、桟橋を出ると行われている。と言っても基本的に税関だ、所定のお金さえ払えば普通はすんなり通る事が出来る。
ただ自分たちのように、目立つ馬を持っていた場合は話は別のようだった。
「入国の目的は?」
「リンド王国の冒険者ギルドとの定期交流のためです」
「なぜそんな馬に乗ってきている。一介のギルド職員が持てるようなものではないだろう」
「なぜと言われても、実際持っているものですので。一応現役の冒険者でもありますからそれなりに稼いでいるんですよ」
「その若さでか。ギルドカードは入念に確認させてもらうぞ」
そう言って、冒険者ギルドカードを何処かへ持っていく。
「収納魔法内の品物は、各人の私物及びギルド間で扱う個人用の荷物で間違いないな」
「はい。間違いありません」
ゼノシアで仕入れた物資はあくまでもギルド間を移動するついでに運ぶ、ちょっとした個人用の荷物である。間違いはない。
そうこうしているうちに、冒険者ギルドカードを確認しにいった者が帰ってくる。
「冒険者ギルドカードに間違いありません」
そう報告して、冒険者ギルドカードを受付の男に渡す。
「では、入国税を払ってもらう。食糧を運ぶ収納魔法持ちは、最低1人50銀貨だ。これは個人用も販売用も関係ない。嫌なら、食糧を全部ここに置いて、ヴィレッツァ王国内で買い揃えるんだな」
そう言って男は嫌らしく笑う。おそらく正規の金額ではないだろう。少なくない金額が男達の懐に入るに違いない。
いくら水害があったとは言え、河の両岸の対応の違いに少し驚く。正直もう少しましだと思っていたためだ。
「どうした。入国税が払えないのなら帰るんだな。だが、その場合あの馬は置いていってもらう」
コウが呆れていたのを、金を払うのを躊躇したと勘違いした男は更に無茶な要求を言う。もう無茶苦茶である。これ以上話すと更に要求されそうだったので、直ぐに4人分、2金貨を払う。もし貴様らが連邦の軍人だったら、即、軍法会議にかけられ、横領の罪で刑期は少なくとも200年、余罪が見つかれば終身刑もあり得るんだぞと思いながら……。
ちなみに余談であるが、寿命のない星系連邦において終身刑とはつまり永久に監獄入りと同義である。最も重い罰であり、模範囚だと安楽死が認められるという程の重刑であった。
一応水害が起きるまではここまで酷くはありませんでした。まあ、何かあったら低くなる要素はあったのですが。
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