一路南へ
一旦川沿いに南に行きます。集積地の都市で物資を受け取るためです。
荷物はパズールア湖から南西へと流れ出るローレア河沿いに下って、海に出る所にあるゼノシアという港町に集積してあるそうだ。ゼノシアは大陸南北戦争前はヴィレッツァ王国に属していた街だ。セタコート運河が完成するまでは交易の中間地点として栄え、セタコート運河が作られてからは、穀倉物の集積地点として栄えているという話だ。
それも、リューミナ王国に編入後、湿地帯が多かったローレア河下流の治水が進み、大穀倉地帯となったからだそうだ。おかげで住民感情は悪くないらしい。
パズールア湖に流れ込む河川は主要な河であるローレア河を筆頭に多数あるが、出ていくのはセタコート運河とローレア河だけである。パズールア湖はローレア河の中間地点にある湖なのだ。少々中間地点にあるというには大きい湖ではあるが……。セタコート運河は広いといっても所詮は運河なので、流れ出す水量はローレア河とは比較にならないぐらいローレア河の方が多い。川幅も広いところになると向こう岸が見えないぐらいだ。
コウ達はゼノシアに向かうため、川船に乗っていた。川船と言ってもシンバル馬も乗せられ、客室もある立派なものである。川の流れは非常にゆったりとしていて、ほとんど止まっているように見える。ある地点までくると進路を変え河の西側へと進む。甲板から見てみると、河の西と東で明らかに船の交通量が違っていた。
コウは休憩している船員を見つけると、果実水を差し出し聞いてみる。
「この辺りから、東西の交通量が違うのはなんでなんです?」
「ああ、あんた達はこっちに来るのは初めてなのかい。この辺りから対岸はヴィレッツァ王国になるんだよ。まあ、昔はパズールア湖の南はヴィレツァ王国だったんだけどね。大陸南北戦争でヴィレツァ王国は大きく領土を失ってね。ここより上流は両岸ともリューミナ王国の支配下になったのさ。で、ここらから下流はまだ東側はヴィレッツァ王国の領土だから、リューミナ王国の船は、西側を通ってるってわけさ。まあ厳密に線が引かれてるわけじゃないけどな」
船員は果実水を美味しそうに飲みながら説明してくれる。
「通行量がかなり違うようですが……」
「そりゃあ、景気が違うからな。ヴィレツァ王国は去年に続いて今年も水害が起きて大変らしい。一方リューミナ王国の方は、治水工事のおかげで被害という被害はなし。ゼノシアには大量の穀物が集められてるそうだよ。これから先の季節は麦を植え始めなきゃいけないのに、ヴィレッツァ王国はそれすら出来ないって話だ」
ここのあたりは、夏は米、冬には麦を栽培するらしい。米がダメで、麦も期待できないとなると、ヴィレッツァ王国の打撃は相当なものだろう。しかも2年連続である。よく見るとヴィレツァ王国側の堤防が何カ所か崩れているのが見て取れる。
「なかなか、リューミナ王国の王様ってやるんだな」
一応周りに誰もいないのを確認してから、サラが呟く。下手に聞かれて不敬罪で捕まってしまっては目も当てられない。
「まあ、やり手なのは間違いないね。サラ、両側の堤防の高さを調べてごらん」
「おや?リューミナ側が大体2m前後高いぜ」
「だろう、つまりもし洪水が起きるとしても、全部水はヴィレッツァ王国に流れるって寸法さ。堤防の高さがここまで違わなかったら、洪水の被害も偏らなかっただろうね」
「つまり、この洪水は人為的って事?」
「ある程度はな。気象コントロール衛星があるわけじゃないから、大雨は降らせられないだろうが、大雨が降った時を利用して相手の国にダメージを与えることはできる。また、治水工事で豊かな穀倉地帯が生まれたことは確かだから、長い目で見て、どのみち損にはならない」
「ふーん。まあ、仮想敵国らしいから、そんな嫌がらせみたいな事もするんだな。そのうち戦争が起こるかもしれないな」
サラが船べりにもたれかかり、他人事のように話す。
「おいおい、何、他人事のように言ってるんだ。戦争はもう始まってる。それに直接の武力衝突なんて、戦争の最終段階に過ぎんよ。そして自分達は思いっきりそれに巻き込まれている」
「えっ!どうしてさ」
サラが驚いたように言う。まあ、基本的にサラは一戦艦のAIだ、自分で戦略や戦術を考えるようには設計されていないので仕方がない。
「そりゃあ、自分達がヴィレッツァ王国とリンド王国の同盟にひびを入れるためさ。ついでに言うとルカーナ王国も面白くは思わないだろうな」
「食料を運ぶだけで?」
「そうだな。リンド王国にとっては、この事でヴィレッツァ王国を当てにできないことが分かったし、ヴィレッツァ王国はいざとなったらリンド王国はリューミナ王国を頼ることが分かる。それで今まで通りに付き合えるわけがない」
そうコウは説明する。
「しかし、今回はたまたま、あたい達のような運ぶのに適任の冒険者がいたけど、いつもいるわけじゃないだろう。それでもなのか?」
「今回自分たちに指名依頼が来たのは、確かに適任というのはあるだろうが、試金石の意味合いも強いと思う。まあ、実際に戦いになった時にどっちに付くか。又は国家の依頼を受けるのかといった意味のね。
やろうと思えば自分達を介さずとも、食料は送れるはずさ。ヴィレッツァ王国の商人を介してリンド王国に売ればいいだけなんだから。今までリンド王国に運んでいたんだから、やれない事は無いはずだよ。別に一度で送る必要もないんだし。まあ、お金の問題はあるだろうがな。商人も慈善事業じゃやらないだろうしね」
「へえ、なるほどね。じゃあコウはリューミナ王国に付いても良いと思ってるんだ」
「嵌められたようで癪だがな。状況を見る限り、ヴィレッツァ王国よりリューミナ王国の方が1枚も2枚も上手だ。逃げてもいいが、せっかく生活環境が整い始めたのに、それをリセットするまでの魅力を他の国に感じない。ならば素直に勝ち馬に乗らせてもらおうと思ったまでだよ。それに直ぐに武力衝突が起きるとは限らない」
そう言いつつもコウはそう遠くないうちに起こるだろうな、と漠然と思っていた。
一番幸せな国民は、有能な独裁者が治める国の国民である。誰が言ったか忘れたがそういうブラックジョークをコウは思い出す。少なくともリューミナ王国は周辺国家に比べて、ましな国であることは確かなように思えた。将来の事まではしらないが……。
ならば、リューミナ王国が勢力を伸ばすのに手を貸すことに問題はない。ただ。コウはなんとなく知恵比べに負けた気分で、少々癪に思うのだった。
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