ヒポグリフ襲撃
どっちが襲撃してるんだって話ですよね。
次の日、朝から豪勢な食事を済ませ、先ずは冒険者ギルドへと向かう。今日はギルドへ伝言を頼んだ後は、直ぐにソクスへ向かうつもりなのでいつもの目立つ格好だ。道行く人が奇異の目で見るのももう慣れたものだ。
イコルの冒険者ギルドは港町らしく、港に近くにあった。街自体はジクスよりイコルの方が大分大きいが、冒険者ギルドはジクスの方が大きいようだ。少なくとも建物の大きさはそうだった。
中に入ると、ジクスと同じように、受付、交換所、酒場という風に分かれているが、それぞれジクスの半分ぐらいの大きさしかない。受付には受付嬢が2人いるが、冒険者はあまり並んではいない。
とりあえず、並んでいる人数の少ない方に並ぶ。前にいた冒険者がギョッとした顔をする。失礼なとは思うが、いつぞやのように絡んでこられないだけましと考えよう。
自分たちの番になると、受付嬢にソクスという町にシンバル馬を買いに行くこと。場合によってはそこで1ヶ月間ほど過ごすことを、ジクスのギルドマスターに伝えてもらうように頼む。これで前回のような問題は起きないはずだ。
特に問題無くイコルの街を出て一路ソクスへと向かう。イコルからソクスへは歩いて約10日、ここの世界で2週間の距離だ。
遥か南に森が見えるが、その他は広大な草原が広がっていた。四季の変化が少ないとは言え、夏の終わりの時期に北に来たせいか、夜は涼しいと言うより肌寒い日もある。
街道は有って無きがごとし、と言うか馬車の轍の跡が僅かに地面に残っている程度でしかない。イコル以外は余り交易の盛んな地方ではないらしい。
時々野生の馬の集団が見える。シンバル馬以外でも、馬の生育に適した場所なのだろう。
そういった草食動物がいる以上は、勿論それを狙う肉食動物もいる。狩りに来ているわけではないので、そういった自然の食物連鎖を邪魔するつもりは全くない。ただ自分たちが捕食の対象とならない限りにおいてだが……。
自分たちの上空をヒポグリフという、鷹の上半身と馬の下半身を持つモンスターが舞っている。完全に目をつけられたようだった。おかしい、確かにヒポグリフは人肉を好むという説もあるが、基本的には馬の方が好みだったはず。
「あのヒポグリフは、やはり我々を襲ってくると思うかね?」
「襲われない可能性は小数点以下ですね」
「なぜ?」
ユキの言葉に、コウは疑問をぶつける。
「推測ですが、縄張りの問題かと。あそこにいる馬達は別のヒポグリフかグリフォンの縄張りなんでしょう」
ヒポグリフは雄のグリフォンと雌馬の間に生まれるモンスターである。グリフォンほど高ランクのモンスターではないが、それでもオーガ並みの強さを誇る。コウ達にとってはオーガ程度であるが……。
ヒポグリフは狙いを定めると、急降下を始める。急降下でその体重を活かし相手を引き倒し、上半身の鋭い鉤爪で獲物を切り裂くのが、ヒポグリフの狩りのやり方だ。
だが今回は相手が悪かった。急降下をし相手をその眼にしっかりと捉えたところで、ヒポグリフは意識を失った。
急降下をはじめ、自分たちを狙っているのが間違いないとわかった段階で、ユキが短剣を投げる。これは狙われているのがユキだったからだ。短剣は眉間に根元まで突き刺さりヒポグリフの意識を絶つ、もしかしたらそこまでは生きていたかもしれないが、頭から地面に突っ込み、首が変な方向を向いているヒポグリフから生命反応はもう感じられなかった。
「このモンスターは美味いんだろうか?」
倒した後、気になるのは、やはり美味いかどうかである。正直、美味しくないならそのまま野生動物の餌にしても良いかな、と考えていた。
「美味しいらしいですよ。焼いても、よく血抜きをして生で食べてもおいしいとか。まあ、生で食べるのは新鮮な時でないと無理ですけど。後干し肉にしても美味しいらしいですね。
さらにこの地方では、ヒポグリフや、グリフォンを倒すのは大歓迎されるみたいですね。まあ、この地方の主産業が馬の生産なので、当たり前と言えば当たり前かもしれませんが」
ユキの説明を聞いて、特に興味のなかった狩りがぜん興味がわいてくる。流石に街道を外れて探しに行こうとは思わないが、道すがら出会ったものは倒すことにする。
「一応、遊牧民時代からの伝統料理があるので、ソクスについてから材料を提供して、作ってもらえば喜ばれるのではないでしょうか」
ユキが追加で情報を出す。伝統料理とはまた、心が躍る言葉である。ヒポグリフには悪いが、次回は見つけたら先に攻撃をさせてもらうことにしよう。
結局ソクスに着くまでに5体のヒポグリフを倒すことができた。Cランクのモンスターで群れないことから考えれば、道すがら倒したにしてはかなりの戦果だ。コウは獲物の数に満足する。
多少道草をしても、元々の移動速度が普通より速いため、丁度2週間目の昼ぐらいにソクスの街が見えてくる。
そこから、馬に乗って決死の形相で駆けてくる男たちの集団が見えた。全員武装をしている。自分たちの姿を見ると驚いたようだ。馬を自分たちの前で止め、リーダーと思われる男が、話しかけてくる。
「君たちは、イコルの方から来たのか?」
「そうですけど。何か?」
何か、特別なことが起きているのかと、コウも情報を仕入れようと聞き返す。
「そうか、それは運が良かったな。新しいグリフォンがここら辺りに縄張りを張ったらしく、狩場を追い出されたヒポグリフが街道の商人を襲ったりしてるんだ。ソクスの冒険者だけでは対応できないんで、自分たちは今からイコルの冒険者ギルドまで依頼を出しに行く途中だ。良ければなんでも良いから、情報があったら教えてくれないか」
そう言って、コウ達に情報を求めてくる。
「えーと、確かにヒポグリフは街道沿いにいましたね。一応街道沿いにいた5匹は倒しましたよ。他には見かけなかったんで、多分街道沿いにはこれ以上いないんじゃないかと思います」
そうコウは答える。美味しいと聞いたので、居れば居るだけ倒したかったのだが、居ないものは仕方が無かった。
「は?」
リーダー格の男は、コウの言葉が理解できなかったのか、ちょっと間抜けな声を上げる。
「えーと。正確に言うと街道沿いで、見つける事が出来たものは倒しましたが、街道から遠く離れているものまでは倒していません」
実は、街道から離れていないとはいえ、かなり広範囲に探索したので、恐らくこの集団が襲われることはないだろう。
「それは、本当の事か?」
「ええ」
なんか疑っているようだったので、ヒポグリフの死体を5体、亜空間から取り出す。
「収納魔法持ち……」
集団の誰かが呟いたのが聞こえる。死体を見た男たちはひそひそと話し始める。暫くすると話がまとまったのか、リーダー格の男が話しかけてくる。
「ひとまず、族長に会ってもらえないだろうか。勿論客人として歓迎するつもりだ。我が一族の誇りにかけて、危害を加えるようなことはしない」
そう、リーダー格の男がコウに言う。まあ、客人として歓迎されるのなら断るのも不味いだろう。それから一通り相手の自己紹介を聞いて、こちらも簡単に自己紹介をした。
「分かりました。ただ、出来ればで構わないんですが、こちらの方にはヒポグリフを使った伝統料理があると聞いています。1体差し上げますので、その伝統料理というものを食べたいのですが、可能ですかね?」
族長の客人というからには、それなりのものが出てくるのだろうが、残念ながら今日の晩飯はヒポグリフの伝統料理にしようとすでに決めていた。最近のコウ達にとって、一度決まった胃袋の要求を覆すのは、なかなか難しい事になっていた。
「大丈夫だと思う。しかし、丸々貰っても良いのか? 売るのではなく。ちゃんとした金額で購入するが」
そうリーダーのフーガンは言うが、今はお金より食である。
「いえ、作ってもらえれば構いません。まあ、貸し借りを作るのがお嫌でしたら、少し余った料理を分けてもらえば問題ありません」
「そうか。分かった。では、我々に付いてきてくれ」
そう言って、フーガンはソクスの方へと進む。他の男たちも一緒にソクスに戻るようだった。イコルに行くんじゃなかったっけ?とは思ったが、族長の所で説明されるだろうと、あまり気にせずに、コウ達は男たちの集団の後ろについていった。
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