オーロラ頭を抱える
段々とコウ達の非常識な強さが判明してきて頭を抱えるギルドマスターです。
途中で野宿をし、4回鐘が鳴るころにジクスへ着く。本来ならもう少し時間がかかるのだが、急ぎということなので少し早めに着くようにしたのだ。
ジクスで入門の手続きを済ませると、その足で冒険者ギルドへと向かう。
扉を開けると、レアナが受付で、びっくりした表情を浮かべている。近づくと真剣な表情を浮かべ
「ギルドマスターがお待ちです。それにしても無事で良かったです。心配したんですよ」
本当に心配していたのだろう。レアナの口調はいつもより少しきつめだ。
「すまない。そんなに大騒ぎになることだとは思わなくてね」
コウが言い訳をする。本当にそう思わなかったのだが。
「では、ギルドマスターの部屋まで案内しますね」
そう言って、レアナは先導して階段をのぼっていく。執務室の前までくるとノックをする。
「“幸運の羽”の皆さんが到着されました」
「そう。入ってちょうだい」
心なしかオーロラの機嫌が悪そうだ。気分は上司に呼び出された一士官のように感じてしまう。
部屋の中にはオーロラだけがいた。対面のソファーに座るように勧められる。装備の関係上ソファーには、コウとサラが座り、ユキとマリーは後ろに立っている感じになる。
「まずは、なぜ1ヶ月もダンジョンに潜ったままだったのか説明してくれないかしら」
オーロラは開口一番そう聞いてくる。
「えーと。済みませんが、なぜと言われても、地上に戻るのが面倒だったからとしか……。何が悪かったんですかね?」
コウは本当に分からなかったので、素直に状況を話し、疑問を聞く。
「何って、あなた……」
オーロラはそう言って、こめかみを押さえる。
「あなた方が、特殊な生い立ちで一般常識が疎いことがよくわかったわ。まず、ダンジョンに1ヶ月も潜ったままでいられるパーティーなんて殆どいないわ。食料はモンスターを倒すにしても、水だけでいったいどれぐらい必要になるか。
それに、2、3日ならともかく、転移の魔法陣があるのに、わざわざダンジョン内で夜を明かすパーティもいないわ。お金がなくて宿に泊まれないにしても、モンスターが徘徊してるダンジョン内じゃなくて、地上でテントを張るものよ」
そう言って、オーロラは大きなため息をつく。
「それに忘れているようだけど。一応あなた方はギルドが身元引受人になって、観察処分になっているのよ。もし死んだのなら、その証拠を提出する必要があるし、もしかして他の国に逃げてないか、調査する必要もあるわ。
今回の1ヶ月ダンジョンから現れなかったということで、逃げたんじゃないか、ということを言う国のお偉いさんもいたの。仮に死んでるとして調査するにしても、あのダンジョンの地下深くまで潜れるパーティーは多くはないわ。何階で死んでるか分からないのに、しらみつぶしに探すなんて、依頼料がいったいいくらになることか……」
どうやら、自分たちはかなりギルドに迷惑をかけてしまったらしい。たかが1ヶ月地上に上がってこなかっただけで、こんなに大問題になるとは思ってもみなかった。
「まあ、いいわ。幸いなことに取り返しがつかなくなるほど、問題が大きくなる前に戻ってきてくれたし。あと1週間遅かったらと思うと、正直ぞっとするわ」
そう言って、再度大きなため息をつく。心なしかオーロラは少しやつれているようにも見える。
「次からは、あの手のダンジョンに潜るときは、せめて1週間おきぐらいには地上に出てきてちょうだい。別に宿に泊まる必要はないから」
そう念を押される。ちゃんと心に留めておくことにしよう。あまり人に迷惑は掛けたくない。この辺りの社会的な常識というものは、なかなか実際にその場所にで過ごさないと手に入れられない情報だ。これだけは知っておこうこの世界の100の常識、みたいな本があれば良いのだが……。
「まあ、終わった話はここまでにしましょう。あなた達何階までクリアしたの?」
先ほどまでと違って、オーロラが好奇心に満ちた目をして聞いてくる。
「一番下までですよ」
「えっ!一番下までって、どういう事?」
オーロラが驚いて、身を乗り出して聞いてくる。そんなに驚くような事だろうか。オーロラもクリアしているはずだが……。もしかして100階より下にも隠しダンジョンみたいなものがあったのだろうか。
「一応地下100階のリッチロードというのを倒したんですが……。もしかしたらもっと深い階層があったんですかね?」
「いえ……。それが、ダンジョンの最終ボスよ……」
オーロラが、コウの言葉を聞くとそう言って、またこめかみを押さえている。
「オーロラさんも、クリアしたと聞いてますが……」
「ええ、そうよ。直前まで行って、一旦地上に帰って、入念に準備した、Aランクのパーティー3組合同でね。マジックアイテムも大量に使ったわ」
オーロラは声を絞り出すようにして言う。リッチロードはアンデッドの頂点に立つといわれるだけあって、恐ろしい敵だった。自分たちにとってもぎりぎりの戦いだった。再び地上の光を見る事が出来なかった仲間もいる。一応自分たちのパーティーが中心となって戦ったが、他のパーティーがいなかったら全滅していたに違いない。オーロラは今でもあの戦いの悪夢を見てうなされることがある。それほどの敵だったのだ。
しかし、彼らはそのリッチロードに関して、たいして興味も持ってなさそうだった。オーロラはコウ達の底知れない強さに恐怖を抱き始めていた。
一方コウの方は、マジックアイテムを大量に使ったのなら、案外儲けは少なかったのかもしれない、などと吞気に考えている。
「事情は分かったわ。今度のことで何かお咎めがあるわけじゃないけど、くれぐれもさっき言ったことを忘れないでね」
そう言って、オーロラは何か疲れたように、コウ達の退出を促す。
「色々とご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
コウはそう言って素直に謝った。そしてまあ、事情を納得してもらえたようで何よりと思い、深く考えずに部屋を出ていった。
後には、ソファーに座ったまま、頭を抱えているオーロラが残された。
「いい子たちではあるのよね……。でも、まったく、あんな化物みたいなパーティーの手綱をどうやって握ってろっていうのよ」
一人になった部屋で、オーロラはそう呟いた。
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