ダンジョン攻略(モンスター攻略1)
今回はダンジョンの攻略というより、モンスターの攻略ですね。
朝起きて、地下21階の探索を始める。この辺りまでくると、他の冒険者と鉢合わせる事もない。モンスターも今まで出会ったことのないものばかりだ。特にレイスというおとぎ話に出てくる幽霊のようなモンスターは、実体が無いのか、サラの大剣をいくら切りつけてもダメージを与える事が出来なかった。
幸いにして、高密度の磁場で包めば身動きが取れないらしい。
「これが、魔法を帯びた武器でしか傷をつけられないというモンスターか。どういう仕組みになってるんだ?」
とりあえず、後のことも考えまだ対処できるモンスターであるうちに打開策を見つけることにする。
「現状の分析ですと、魔石を核にし、マナが集まり物質化したもののようです。その核を破壊すれば恐らく倒せると思いますが……。ただこのランクのモンスターですと魔石もそれなりの値段となりますので、毎回潰すのはもったいないかと思います」
「ふむ、サラ、魔法の剣、聖水、炎、光を使ってそれぞれダメージを与えてみてくれ。他の2人はそれを観察してくれ」
「「「了解」」」
小気味の良い返事と共に、それぞれが行動を開始する。サラが言われた通りの攻撃方法でそれぞれ攻撃する。剣である程度攻撃すると、魔石だけが残った。聖水はダメージを与えることはできたが、倒すまでに大量に消費するはめになってしまった。費用対効果が悪すぎる。ナパーム弾はダメージを与える事が出来るが、威力が強すぎたらしく、魔石まで灰になった。こちらは金にならない。光に関しては、通常のライトでは何の効果もないが、核融合閃光弾を使うと、魔石だけを残してきれいに消え去った。部屋にいたすべてのレイスが消え去ってしまったのでこれ以上検証はできない。
「太陽光に弱いのか?にしては通常のライトでは波長を変えても何もダメージは与えられなかったが……」
これも都市伝説だが、この手のものは紫外線に弱いというのがある。まあ、元の世界では大抵の生物は過度の紫外線を浴びれば死ぬし、細菌だろうとウィルスだろうと紫外線には弱いのだが……。
「一応仮称としてですが、この世界には正の電荷、負の電荷と同じように正のマナ、負のマナというのがあるようです。レイスは負のマナの集合体であり、剣で切った時、また炎で燃やした時は、触れたところからその負のマナが消滅していきました。
光に関してはこの世界特有の物理法則に関係があるようです。核融合を起こすと通常の熱、光、などのエネルギーに加えて、全く別のエネルギー波が放出されていました。これが、大気中、若しくは地中等に僅かに含まれる、元の世界にはない重元素と反応すると正のマナが放出されることが分かりました。重元素が触媒のような役を果たしているようです。ただ基本的に生成されるのは正のマナのみです。負のマナをまとったレイスはこのエネルギーにより、消え去ったと思われます。現象は観測できましたが、原理は不明です。
魔石に関してはこれも推測ですが、周りの環境が負なら負のマナをまとい、正なら正のマナをまとうようですね」
ユキの説明を聞きながら、コウは方針を考える。魔法の武器で倒せるのはいいが、どうも自分たちで作れないというのが心もとない。大量にあれば話は別だが、もし壊れたらどうしようと、どうしても考えてしまう。まあ、このダンジョンをクリアしたらある程度は揃えられるだろうが……。
それにこれが一番重要なことだが、自分が使っているコンパウンドボウがこの世界にあるとは思えなかったし、魔法の矢があるとしても、気軽には使えないだろう。
「その重元素を作ることは可能か?」
「可能ですが、それで武器を作るとなると、現在の武器よりかなり強度の劣るものとなります。圧縮技術を使うと金属原子の性質が変わってしまいますので……。一応、この世界が有する冶金技術では最も強固な金属ではあるようなのですが……」
ユキが言いにくそうに答える。もしその金属を使わなければならないのなら、自分達の技術的なアドバンテージが一つ失われるからだ。
「そう言えば、惑星に降り立つ前に元素番号が200を超える重元素が安定して存在すると言ってたな。それか?」
「はい。まだ未発見の元素があるため仮の番号になりますが、元素番号238がミスリル、315がオリハルコンと呼ばれているようです」
また随分と懐かしい伝説の金属が出てきたものだ、もしかしたらこの世界と元の世界は何らかの繋がりが有るのかもしれない。
しかし、伝説の金属が今持っている物より強度面で劣るとは……。人類の進歩に感心すべきか、それともこの世界の金属の脆弱さを嘆くべきか悩む所ではある。
もっとも、勝手にそう自分達が翻訳してるだけで、全く関係ない金属の可能性も高い。なにせ元の言語は全く違うのだから。
「一応ミスリル、オリハルコンの大剣と、今サラが使っている大剣と同じものにミスリルとオリハルコンをそれぞれコーティングしたもの、合計4本の剣を作ってくれ。どれぐらいでできるか?」
「明日の朝までには作成可能と思われます」
「それは重畳。では先に進むとしよう」
通路でケイブベアという巨大なクマを倒し、進んでいく。途中でミノタウロスが6体いる部屋がある。ミノタウロスの肉は高く売れるそうだからこれは倒しておきたい。それにその部屋には宝箱があった。
「こいつらは、通常の武器で大丈夫なんだろう。あたいに任せてくれ」
サラがやる気満々だ。戦闘意欲が高いのはよいことだ。先ほど思うように戦えなかった不満もあるのだろう。ただ、ややマリーが不満そうにしていた。
「マリー不満か?」
「不満、という程ではありませんけど……。このダンジョンに入ってから私の出番がまるで無いように感じられるのですけど……」
コウの言葉にマリーはそう力なく答える。
「まあ、まだ80階ほどある。そう急ぐことはない。それに鍵開けと罠解除は役に立ってるじゃないか」
「それってただの気分の問題ですわよね。サラはともかくユキでもこれぐらいの事は出来るでしょうし……」
コウが慰めるが、マリーは今一納得できかねているようだ。まあ、今まで挟み撃ちにあったことがないので、一番後ろのマリーは出番が少ないのは確かだ。後ろから襲われることは最も避けるべきことなので、探査能力と防御力に優れたマリーを配置しているのだが、いささか能力を持て余しているらしい。
「では、次に通常の剣では対抗できない敵が出てきたときはマリーに任せよう」
「それは嬉しいですわ」
サラはどちらかというとそういう作業的なものは嫌がる方なので、さっきのレイスもそうしたほうが良かったかもしれない。
「先ほどの剣の作成はマリー用に変更してくれ」
「承知しました。それですと大分早くできますので、念のためミスリルとオリハルコン製の大剣も明日の朝までに作成しておきましょう」
そうユキが答える。ふむ、不満もあらわさず仕事熱心で大変結構。やはり副官とはこういうものだとユキを見直す。まあ、サラとマリーの感情が豊かなところもそれはそれで良い所もあるのだが。
扉を開けると斧を構えたミノタウロスが、一斉に襲い掛かってくる。サラは飛び出すとその長いリーチを活かし僅か二薙ぎで、6体のミノタウロスの胴体を真っ二つにした。コウとしてはどうでもいいような敵だったが、サラはやはり自分の大剣の攻撃が効いたのが良かったのだろう。心なしか機嫌が良くなっている。頼むから快楽殺人者にはなるなよ……。
宝箱はマリーに任せる。中には15金貨と美しい銀とサファイヤで出来たネックレスが入っていた。鑑定の眼鏡の出番だ。つくづくこれとマジックテントは買っておいて良かったと思う。
種別 マジックアイテム(装飾品)
希少度 B
名称 プロテクションネックレス(水)
効果 装着者は3レベルまでの水系統の魔法を無効化する。1日5回まで使用可能
今回もまあまあの品物だ。効果はともかく、装飾品としてどこかに出かけるときに使ってもおかしくない。
今日は21階だけの探索で終了し、テントを張って休んだ。
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