緋色の湖畔亭の秘密
まあ、秘密という程の事ではありませんが、こういうことで成功する冒険者もいるのです。
昨日たくさんの誤字報告をして頂きまして有り難うございました。また、今までしていただいた方も有り難うございます。なるべく注意していくつもりですが、これからもよろしくお願いいたします。
それと、朝急にPVが増えていて、もしかしてと思って見てみたらランキング入りしてました。これも皆さんのおかげです。正直とても嬉しいです。もっと面白い作品にしていきたいと思います。有りがとうございました。
次の日王都に行く旨を伝えに、冒険者ギルドへと向かう。馬車で行くわけではないので早めに街を出るため、ギルドが開く前に門で待っていた。周りからはぼそぼそと、なんでCランクパーティーがこの時刻に並んでるんだ、というような疑問の声が聞こえる。
ギルドの扉が開くと、低ランクと思われる冒険者の一団が、依頼ボードへ向かっていく。コウ達はそれを横目にまっすぐ受付へと向かった。今日はレアナがいた。
「王都の方に行こうと思うんだが、ギルドマスターに連絡をしておいてもらえないか」
レアナに向かって、コウが普段通りに話すと、レアナが驚く。
「え! コウさん達王都に活動拠点を移すんですか」
思ったより大きな声が出たのか、慌ててレアナは自分の口に手を当てるが、既に遅く、皆の注目を集める。コウは慌てて首を横に振ると。
「いやいや、そんなことはしないよ。ただ王都を観てみたいのと、王立図書館に行きたいだけだよ。具体的に期間は決めてないが、2週間以内にはまた帰ってくる予定だね」
コウが否定すると、レアナはホッとした表情を見せる。そこまで親密な付き合いをしてたか?とコウは思うが、レアナにとっては、まだ親密になってないから問題なのである。
「そうですか、確かにコウさん達は働き詰めでしたので、少し休まれるのも良いと思います。観光や図書館に行くのも良いですが、王都は湖の中にある都市ですからね、取れたての新鮮なお魚料理も評判ですよ」
ユキが新鮮な魚料理という言葉に、ほんの少し反応したのが分かる。コウはつくづく思う。ユキ達は万が一、元の世界に戻れたとして、戦闘艦のAIとしてやっていけるのだろうか……。それにしてもこちらの感覚では、自分たちは働き詰めという事らしい。ずっと遊んでいる気分だったので気にもしていなかった。
そう言えばと、コウは魚ということで、ふと思い出した疑問をレアナに尋ねる。
「そう言えば、ここはなぜ魚料理の店が少ないんだ? そこまで湖と離れてるわけじゃないし、川も近い。実際"緋色の湖畔亭"は手頃な値段で魚料理を出していたし、冷凍設備もあると聞いているが」
よくぞ聞いてくれました、とばかりにレアナは説明を始める。
「あそこの店は特殊なんですよ。元々はあの場所は錬金術師の工場だったんです。そこで試作品として冷凍設備を作ったんです。試作品なので、組み込んだ魔法陣も無駄が多く、設備も大きく、更に維持する魔力も無駄に多い物だったそうです。
そして改良型を作って成功したんで要らなくなったんですが、壊すのも勿体ないって事で、建物ごと売りに出したんです。でもそういった無駄が多くて大きい建物なので、安くしてもなかなか買い手が付かなかったそうです。
そしてそこを買ったのが“緋色の湖畔亭”のロブさんなんです。ロブさんはDランクの冒険者だったんですが、膨大な魔力を持ってるのに初級の魔術しか使えない、微妙な方だったそうです。ただ、その魔力を生かしてマジックアイテムや魔石に魔力をチャージするという副業で結構稼いでたそうです。
それで、元々料理が好きで、冒険者として限界を感じてたロブさんがそこを買ってお店を開いたんですよ。更にロブさんが凄いのはそこで氷を作って、それを箱の中に詰めて冷やすという方法を考え付いたことです。
これで少ないスペースで、しかも魔力無しで冷やすことが出来るようになったんです。ロブさんは氷が毎日売れて大儲け、店はもう趣味みたいな物らしいですね。
ちなみに今の奥さんは冴えない冒険者、と言われていた頃のロブさんに親切にしていた、ギルドの受付嬢なんですよ。ダイヤの原石を拾った受付嬢として伝説の存在ですよ。もっとも、その時の受付の方が全員辞めた今だから、堂々と言える事なんですけどね」
レアナは言い終わってニッコリと笑うが、コウとしてはなんか最後の方が生々しいような話を聞いた気分だった。これがこの世界の普通なのだろうか、とコウは思ったが、もう少し聞いてみる。
「それはそれで凄いと思うが、それならもっと魚料理の店が多くても良いのでは?」
とレアナの説明では納得出来なかったコウがもう一度聞く。
「単純に王都が近いんで、みんなそっちに持っていくんです。氷で冷やせば殆ど傷みませんし、多少遠くても王都の方が高く売れますから。それにこちらでは肉が簡単に手に入りますから、値段との兼ね合いでなかなかやっていくのは難しいみたいですよ」
なるほど、市場原理が働いているわけだ。コウは思ったより高い文明レベルに感心する。しかし、もう一つ疑問が持ち上がる。
「なら、なんでエール酒は冷やしてないんだ?」
するとレアナは逆に不思議そうに言う。
「エール酒をなんで冷やして飲むんですか?」
「えっ!」
その答えはコウが予想もしていなかったものなので、思わず驚きの声を出してしまう。なぜと逆に聞かれてしまったが、それが常識だと思っていたので理由などない。考えてみたら“緋色の湖畔亭”が成功してから氷が広まったのなら、飲み物は常温というのがこの世界の常識なのだろう。一瞬迷ってしまったが、なんとか返答をする。
「なんというか、“緑の海猫亭”というところで飲んだスパークリングワインが美味しかったんだ。エール酒も同じ発泡酒だからね。冷やしたら美味しいんじゃないかと思ったんだよ」
そうちょっと言い訳がましくコウが言うと、
「“緑の海猫亭”ですか。あそこの料理は色々アレンジされていて美味しいんですよね。ちょっと高めなので、気軽に行けないのが難点なんですけど。ちなみにコウさんはどうしてそこに行かれたんですか?」
なんかレアナの目から異様なほどの迫力を感じる。なぜ?と思わなくもなかったが、事実を述べる。
「いや、ただ単に“夜空の月亭”のセラスに聞いただけだよ。パーティーメンバーと食事をしに行っただけだけど」
なんで自分は、浮気のバレた亭主みたいなこと言ってるんだ、とコウは思ったが、レアナの眼力の前に自分でも思わず正直に答えてしまう。尤も、正直に答えたところで、何もやましいことはしていないのだが……。
「そうですか。それでは、王都に向かう旨、ギルドマスターに報告しておきますね。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
レアナはいつも通りの笑顔でコウ達を送り出す。だが、コウは先ほどのやり取りでなぜか疲れていた。そう、まるで尋問を受けたときの感じと似ている。まあ、尋問を受けたこと自体、数百年前の若かりし頃に受けただけなので朧げだが、その時の憲兵より迫力があった気がする。コウはなんとなく腑に落ちない感じで門へと向かっていった。
だが、コウが感じた事は当たり前と言えば当たり前なのである、憲兵は所詮は仕事として、レアナは人生をかけてコウを観察していたのだから……。
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また、作風が異なりますが、他にも書いています。良ければそちらも読んでいただけたら嬉しいです