初の依頼受注
初の単独での依頼の受注です。”幸運の羽”としての活動開始です。
鐘が1回鳴るとともに、活性剤が注入され目が覚める。久し振りの薬での起床だ。依頼を受けるというのは基本早い者勝ちで、良い依頼はすぐになくなるらしい。Cランクの依頼はパーティー数も多くないことから、そこまではないらしいが、早く行くに越したことはない。
朝食を食べ、部屋でゆっくりと紅茶を飲む。本来ならそんな時間はないのだが、自分たちは装備を装着するのに時間がかからないのと、旅の準備をするのにも時間がいらないため、1回の鐘の時刻に起きれば十分紅茶やコーヒーが楽しめる。ちなみに今日の紅茶は念願の天然ものである。昨日服を買いに行く途中の店で買ったものだ。
宿から冒険者ギルドは近いので、2回鐘が鳴るのと同時にでれば、じゅうぶん早く着く。もちろん開く前から並んでいる冒険者もいるので、それにはかなわないけれど。
冒険者ギルドに着くと、早速依頼ボードに向かう。朝一番を避けたのだが、思ったより依頼ボードの周りが混んでいる。ただ自分たちが近づくと、皆が避けていく……。恐らくおとといの出来事が広まっているのだろう。邪魔すると悪いので、素早くボードの中の依頼をスキャンし、目的に合ったものをピックアップする。候補は3つ、オーガ1体以上の討伐、オーク7体の討伐、サーベルタイガー5体の討伐だ。素材を全部持って帰れる自分たちのパーティーだとサーベルタイガーの討伐が最も報酬が高いが、今回はヒューマノイド型のモンスターとの近接戦闘を優先して、オーガの討伐の依頼書をはがす。
依頼書をはがすと、一旦酒場の方のテーブルへと向かう。受付は混んでいるためだ。3回の鐘が鳴る時間になると受付にいる人も少なくなる。そろそろ受付に行こうかとしたとき“嵐の中の輝き”がギルドにやってきた。
「よう、もう依頼を受けに来たのか。もう2、3日は休むと思っていたぜ」
ザッツが声をかけてくる。
「いえ、疲れてはいませんし、新人はなるべく早く来た方が良いかと思いまして」
当然のことをしているようにコウが言うと
「新人たってお前……。まあ、常識がちょっとあれなところは、新人って言えなくもないかもな。だがシルバーランクのパーティーに新人って言われたんじゃ、他のパーティーの立つ瀬がないぜ」
ザッツが首を振り、あきれたように言う。そしてコウが持っている依頼書を見ると、
「もし問題ないんだったら、受ける依頼の内容を見せてくれてもいいか。本当だったら俺たちが来るのが普通ぐらいの時間なんだ。まあ、今は丁度Cランク以上のパーティーが少ないから、問題はないと思うが、余り割の良い依頼ばかり受けていると変な恨みを買うかもしれねえ。もうテストも終わったのに先輩面して悪いとは思うがよ」
そう言って、コウ達に依頼書を見せてくれるよう頼んだ。元々ボードに貼ってあったものなので、極秘事項が書いてあるわけでもない。コウは素直に依頼書を見せる。
「うーん。微妙だがまあ、OKってところかな。オーガはCランクモンスターだが、Cランクでは弱い方だ。だから普通は線無しか、せいぜい2本線までのパーティーが受けることが多い。だがこの依頼は1体以上、つまり複数のオーガがいる可能性があるってことだ。そうなるとシルバーランク以上が出ないときついからな。ただ複数いる場合でも一緒に行動してるとは限らないし、1体だけ倒せば依頼完了だから、その辺を考えると微妙って感じになるんだ」
ザッツが少し考えるように、心なしか心配しているように説明する。実際ザッツは“幸運の羽”が、変な恨みを買うことを心配していた。ただ、それは“幸運の羽”への心配ではなく、揉めるかもしれない相手に対してであるが。
ザッツにOKをもらい、受付も空いてきたので、コウは依頼書をもって受付へと向かう。幾人か受付嬢がいたが、やはり知り合いが良いので、レアナのところに並んだ。前には1人しかいなかったので、直ぐに自分の番となる。
「おはようございます。コウさん」
レアナの元気のよい挨拶を受ける。元気のよい挨拶はいいものだ。一糸乱れぬ“サー、イエッサー”、の掛け声と敬礼も、受ける方としては捨てがたいが。
「この依頼を受けたい。問題はないかな」
コウが依頼書を差し出すと、レアナは素早く目を通し、カウンターの中にある紙束の中から、この依頼の追加情報を見つけ、コウの前に広げる。ちなみに追加情報に秘密事項が含まれている場合は別室で聞くことになるそうだ。
「ランク的にも、内容的にも、問題ないと思います。ただ、こちらは襲われた跡が見つけられただけで、生き残りが居ないため依頼書通りのモンスターかどうかは分かりません。こちらに目を通し、受けられるのでしたらサインをお願いします」
レアナが差し出した追加情報には、街道で小さな商隊が襲われたこと、Dランクのパーティー5人が護衛していたこと、全滅して荷物も漁られていたが、食料以外は残っていたこと、その場で食べられたと思われる白骨死体が一体あったこと、状況によりオーガ1体若しくは2体の襲撃と思われること、が書かれてあった。
場所はここから歩いて3日程東に行った街道で、基本報酬は50銀貨。もし2体以上のオーガか、他のモンスターが居た場合には討伐報酬が支払われる。
コウは特に問題ない内容だと判断する。依頼書にサインをし、レアナに渡した。
「お預かりします。初めての単独依頼ですね。初めてがCランクの依頼というのが規格外ですけど。ともかく、応援してます。頑張ってください」
レアナの心のこもったあいさつに、コウは思わず笑みがこぼれる。しかしなんだか受付嬢が皆見ている。周りの男たちの視線が痛い。中には殺気がこもっているのもある。ザッツには気を使ってもらったが、関係のないところで恨みを買っているような気がする。
それもそのはず、冒険者の中には受付嬢と結婚する、ということを目標にしているものも多いのだ。
コウ達はそんな視線を受けながら、ギルドから出て街を出発した。
1日歩くと夕方にはゴブリン退治をした村についた。尤も、村人たちはワイバーンを倒したことの印象の方が強かったようである。下手したら村が全滅していたかもしれないと言われた。
そのこともあり、村長の家に快く泊まらせてもらえる。村長はお金を受け取ろうとしなかったが、50銅貨を支払った。一応これが村の家で泊まる相場らしい。街の民宿のようなところより安いが、街から離れると極端に生活物価が安くなるようだ。その分収入も低くはなるが。
次の日の昼には、まだ開拓が進んでおらず、両側に森が迫っている場所まで到達する。
小鳥たちのさえずりが耳に心地よい。元々ただの平地でも空気は澄んでいるが、森の中の空気はまた格別だ。
できれば何事もなく、そのまま目的地まで行きたかった。
「武器を捨てて大人しくしろ。いうことを聞いてりゃ殺しはしねえ」
「うひょ、聞いてた以上の上玉だぜ。こりゃ1人30金貨いや40金貨は固いな」
「お頭、売る前に味見しちゃだめですかね。こんな上玉二度とお目にかかれねえっすよ」
そう言って、下卑た笑いとともに30人の男達が木陰から現れる。前後左右すべてを囲んでおり、全員が弓を構えている。逃げ場はない。
男たちは、ジクスの中に入り込んでいるスパイから、この街道を金を持った美男美女のパーティーが通るという情報を仕入れていた。強いという情報も仕入れていたため、大げさだとは思ったが仲間全員で襲うことにした。そして目の前にいるのは予想以上の美男美女である。装備がだいぶ変わっているが、とても強そうには見えない。装備も入れれば売却金額は金貨200枚は下らないだろう。久しぶりの大きな獲物である。
男たちにとって不幸だったのは、コウ達が自分たちの常識で測れるような者たちではなかったことだった。
面白いとか続きを読みたいと思われたらで構いませんので、評価やブックマークの登録をお願いします。
現金と思われるかもしれませんが、評価が上がるとやはりモチベーションが上がります。
よろしくお願いいたします。
また、作風が異なりますが、他にも書いています。良ければそちらも読んでいただけたら嬉しいです