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宇宙艦隊の司令官から剣と魔法のファンタジー世界の冒険者に転職しました  作者: 地水火風


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シリウス号探索3

 目的地である艦橋に着くと、ある程度予想してたとはいえコウは少しがっかりする。何故ならそこは殆どが設計図を基に再作成したものばかりだったからだ。真新しいレーダーパネルらしきものの前に、古びたボロボロの椅子が据え付けられているのがなんだかシュールだ。


「椅子は持っていかなかったのか……しかしここまで元の物は何もないとなると、いっそすがすがしいな」


 コウはそう言って近くの何かの電源スイッチらしきものを押す。中身までは再作成してなかったらしく、何の反応もない。


「お望みなら配線図もありますから、完全に再生できますよ」


 ユキが後ろから声を掛ける。


「いや、いい。艦橋は重要部品の塊だからな。ある程度予想されたことさ。それにブラックボックスを出すのに邪魔になる」


 ここにはブラックボックスがある。恐らく艦橋の様子を記録したものだ。残っているのは、此処の部品を持っていくようになった頃には、ブラックボックスの存在が忘れられていたか、使い道が分からなくなっていたためだろう。


 艦長席の下の方にブラックボックスは設置してあった。取り出してみると、汚れを落とした以外、特に再生処理はしていないのに、綺麗なものである。所々に壊そうとしたと思われる跡が残っている。だが、いざという時、たとえ船が壊れたとしても残るように、頑丈に作られた箱は、10万年の歳月を経て自分達の前にその姿を見せている。ただ残念なことに、電源は壊れているらしく、電子ロックは使えない。なので、原始的だが最も早い手段、つまりは力技で開けることにする。


「念の為に聞くが、決められた手順を踏まないと、中の記録が消えるということは無いよな」


「それは大丈夫です。それに、もしそうなら、無理やり開けようとした時に、すでに壊れてますよ」


「それもそうだな。サラ頼む」


「了解」


 言うが早いか、サラはサブウェポンの剣鉈を素早く振ると、箱の上蓋の部分が綺麗に切断される。元の世界でも2万年の歳月は大きい。単なる圧縮金属で作った武器とアバターの筋力だけで、あっさりと箱の中身が見られるようになる。

 中には単純な記録装置とデータキューブが収まっていた。


「変に動き続けて、この世界の転移時のデータが上書きされてなければいいのだが……ユキ調査してみてくれないかね」


 ユキはデータキューブを手に取り、人間にとっては膨大な、だがAIにとっては僅かな記録を読み取り解析していく。そう、この時代のデータキューブは自分達にとっては僅かな記憶容量しか備えていない。そして、書き換えられたデータを復元するのは消去されたデータを復元するより難しいものだ。


「大丈夫でした。転移したと思われるときの艦橋の様子の記録が残っていました。再生しましょう」


 ユキがそう言うや、艦橋に立体映像の人員が現れ、モニターや計器も、一見動作しているようになる。



「非番の者より緊急連絡。船の外が白い靄に包まれているとのこと。緊急事態か否か、聞いています」


 オペレータの1人が艦長らしき人物にそう報告する。


「何を馬鹿なことを。この船は亜光速で無慣性航行中だぞ。酒でも飲んで酔っぱらっているのか? それで緊急回線を使用するなど懲罰ものだな」


「それが……報告してきたものが一人ではありません。場所も違います。一カ所だけでしたら、窓が何かの影響を受けて、靄のようなものを映していると思いますが、そうではないようです」


「計測器に何か異常な反応はあるか?」


「いえ、全てオールグリーン。正常に航行しています。船外カメラからの画像をメインモニターに投影します」


 だが、メインモニターには何も映し出されない。正確に言えば、真っ暗な画像だけが映し出されている。


「特に何も映ってはいないではないか。全く、亜光速の宇宙船から何が見えるというのだ」


 正確に言えば、人間の目に見えないだけで、観測はできる。だが、それを観測している計器に異常は見られない。


 暫くの間、真っ暗なメインモニターを艦橋にいる者達が見ているが、何の変化もない。皆が、脅かすなよ、みたいな雰囲気で、再び仕事を始めようとした時、一人のオペレータが声を上げる。


「艦長! メインコンピュータが航路を見失っています!」


「なに! いかん。緊急停止だ!」


 慌てて艦長が命令を下す。航路は安全な場所を選んで作られている。それを外れたら大事故が起きる可能性が高い。強力な防護フィールドに守られているとはいえ、光速に近い物体だ。何か衝突した場合、船が粉々になるか、船が無事なら相手の方が粉々になりかねない。急速に船の速度が落ちる。無慣性航行故に停止の衝撃は無いが、メインモニターに段々と外の様子が映り始める。一見するとごく普通の、星が散らばる宇宙が映し出されている。


「プロキシマ・ケンタウリ星がありません……」


 プロキシマ・ケンタウリ。それは人類の故郷である地球に最も近い恒星の一つであり、そしてプロキシマ・ケンタウリbは人類が初めて太陽系外に移住をした惑星だ。


「いったい何が起きたというのだ……」


 艦長は呟き。非番のものまで呼び出し、現在の状況や位置を特定させようとした。だが、観測しても船のコンピュータに計算させても、芳しい結果は得られない。艦橋のスタッフが次第に焦り始める。


「異世界にでも迷い込んだんじゃないだろうな……」


 誰かが呟く。呟いた本人も本気でそう思っているわけではなさそうだった。だが、それが真実だった。



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