シリウス号探索2
異世界転移や異世界転生って人気のジャンルですけど、見方を変えたらオカルトですよね。
中に入ってしばらくは外の光が入っていたが、直ぐに真っ暗になる。この世界では多分初めてとなるだろう、完全に 光が入ってこない闇だ。と言ってもそれこそ絶対零度の物質でもない限り、赤外線を含みなんらかの微弱な電磁波は発しているので、視覚を暗視野モードに切り替えれば問題はない。
「ここまで用心しなくても良いんじゃないか。普通に照明設備を一部復旧させればよくね? というか生活空間に罠なんて仕掛けねえだろう」
「普通はな。だが普通でなかった場合もある。用心に越したことはない」
設計図では生活空間だったものが、時を経てそうではなくなった場合もある。というか、自分ならそうなった場合、一見生活空間に思える場所に罠を作る。例えばただの台所の場所で、食べたら罠が発動するというものを作ったら効果は高いだろう。
入ったところで少し驚きはしたが、予定通り艦橋へ向かっていく。ちなみに驚くべきことに艦橋は外側ではなくほぼ中心にあり、エンジンルームに隣接している。
危ないだろうとユキに聞いたら、この時代はエンジンルームが破壊されたら、その船は消滅したらしい。なるほど、何処でも良いなら中心部に近い場所が最も安全だ。バイタルパートも一カ所にまとめられる。
さらに今回に限っては重要な探索範囲が狭められる。とは言っても何があるか分からないので、艦橋までの部屋を見て回ることにする。
「日記がたまにあるな」
探索した最初に思ったことはそれだった。ただ、今までのところ有益な情報はない。不安になると人は日記を残したがるものなのだろうか。単なる興味本位で日記のデータを再生する。記録データ形式が前に貰ったデータキューブと同じだったので再生は楽だ。
〇×▲日 今日は久し振りに違う職場の友人たちと久し振りに遊びに行った。昼間はテーマパークで遊び、夕方はホログラフィックとはいえパレードを楽しんだ。有意義な一日だった。明日からまた頑張ろう。
普通の日記だ、但しこの世界に転移したと思われる日でなければだが。
「うーむ。これは情報統制をされていたのか、それとも本当に日常生活レベルでは変化が無かったのか?」
「現段階での情報ではなんとも言えません。ただ、身体に影響するような変化が無かったことだけは分かりますね」
思い出してみれば、自分の転移時もガンマ線バーストによる損傷が殆どだ。日記によると、1週間後に漂流していること、近くに生存可能な惑星があることが発表されたようだ。その後は日記の記録者によって様々だ。ぱたりと日記をやめた者もいるが、逆にその発表から記録を残し始めた者もいる。
分かるのはとりあえず惑星に降り立つまでは、多少の混乱は起きたものの、重大な事故は起きなかったということだ。それは船体データの情報とも一致する。今読んでいる日記の記録者も知った時は慌てたようだ。それと発表された日を境に大規模な職業編成が行われたらしい。それはそうだろう。知らない世界に飛ばされてテーマパークを維持するような余裕があるわけではないだろう。この船には約10万人が乗っていたみたいだが、それではこの宇宙船が維持できるほどの技術レベルは維持できない。現に後の方のデータになるに従って技術レベルが落ち、船の中でも稼働できない部分や、破棄された区画が増えていったのが読み取れる。
ただ、かなりの日数、異世界という認識はなく、どこかの目的地とは違う惑星と考えられていたようである。少なくとも一般人のレベルでは異世界という情報は、暫くの間信憑性のある情報として扱われてはいない。
「やはり情報統制されていたのかな?」
「そうですね。必要なこと以外は情報が伏せられていた可能性は高いかと思われます。違う世界に飛ばされて、戻る方法が分からないなど広まったら、暴動が起きる可能性もありますからね」
元々治安部隊など極わずかであったろうし、情報を統制していたというのは理解できる。どんどんと中心部に近づいていくと、予想通り、重要人物だったと思われる者の部屋の割合が多くなる。その辺りになると、異世界に入り込んだという情報が、早い段階で共有されるようになる。
科学者たちが居たと思われる区画でデータキューブが見つかる。もしかしたら、原因究明のため、様々な検証がされた結果が収まっているかもしれない。
「お、当たりかな?」
そう言って、サラは真っ先に手に取って、データを呼び出すが、がっかりとした表情になる。
「どうした?」
「写真集だった。しかも心霊写真……オカルトに傾いたのかな……」
異世界転移など、オカルトには違いない。科学者がオカルトに傾倒したとして、誰が責められよう。サラから受け取ったデータを自分で再生してみる。
その中には、様々な心霊写真があった。誰もいないはずの窓から人が覗いているもの、誰のものか分からない手が映っているもの、逆にあるはずの足が映ってないもの。
「ありふれたものだな」
そう呟き、データを読み取り頭の片隅にやろうとしたところで、ふとフォルダーの分け方で気になることがあったので、再び読み直す。
他のフォルダーに入っているものは記録されてから、殆ど調査された形跡がないのに、ある一つのフォルダーに入っている写真だけは、何度も調査された形跡がある。具体的に言えば同じ写真に様々な画像修正を施したものが多くあるのだ。
「これの共通点は分かるかね?」
そう言ってユキにデータキューブを渡す。ユキはしばらく思考した後に答える。
「どれも一部若しくは全体に白い靄がありますね。画像処理もこの靄の分析をしようとした形跡があります」
「白い靄か……あながちオカルトも馬鹿にはできないかも知れないな。此処には研究データはないのか?」
ユキが残念そうに首を横に振る。大事なデータなのでよそに保管されたのか。それとも結果が芳しくなく破棄されたのか……気になるが無いものは仕方がない。
白い靄に覆われた後、どこか知らない所にいたというのはよく聞く心霊現象、若しくはオカルトの現象だ。ただ科学者が躍起になって調べたとなれば、そうさせる何かが起こったはずである。
科学者の一部が単なるオカルトに傾倒した、という落ちでないことを祈り、更にコウ達は奥に進んでいった。
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